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第246話 解らない違和感!

 すべてが――終わった。






 勝利の雄叫びが、空に響いていた。






 その声で、キールはゆっくりと目を覚ます。






 「起きたかよ、キーさん!」




 横にいた仲間が笑いながら声をかけてくる。




 「お、お前ら……無事だったのか……?」




 「は?なに言ってんだ。それより見ろよ!」






 キールが体を起こし、顔を上げる。




 「っ……これは……!」






 目の前には――


 内臓が飛び散り、腹が空洞になったまま仰向けで転がる、巨大な山亀の死体。






 {――やりました!私たちは……山亀を、討伐しました!}




 通信の魔皮紙から、ユキの興奮した声が全員に届いていた。






 周囲は歓声に包まれている。

 誰もが勝利を確信し、満足そうに笑っている。




 けれど。






 キールの中に、何かが引っかかった。






 「……ど、どうして……?」






 (この光景……おかしい。何かが――足りない?)




 仲間たちはみな、笑っている。

 自分も、無傷でここにいる。


 だが、そのすべてが――

 どこか、“薄い”。




 感情が、風景が、声が――まるで“複製された何か”のように、キールには感じられた。


  「あ?寝惚けてんのか、キーさんよ」




 「クロ……」




 「キーくんは、俺たちを守ったあと……魔力が尽きて、そのまま倒れてたんだよ」




 オリバルが淡々と説明する。




 「あー……まあ、助かったよ」




 クロエが肩をすくめて笑う。




 「【目撃護】があったからな。あの土塔が崩れたとき、ギリで潰されずに済んだ」






 「……え?」




 キールの声は、かすれていた。





 思い出せない。けれど、何かが――妙だ。




 “自分の記憶”と、“今語られている事実”が、噛み合わない。






 {まさかですよ! 女王の城でトラブルが起きて【最終生命破壊砲】が間に合わなかったんです!}

 {でも――あの代表騎士さんが魔法を使ってサポート!その後ようやく砲撃が間に合って!――それで、撃破!ですっ!}




 ユキの声が魔皮紙から響く。




 「アバレーの代表騎士が?」





 「そうだよ、お前と同じ、この国の代表騎士さんがさ――あの山亀の中に爆破魔法を仕込んでたんだってよ」




 「んで、そのめちゃくちゃな威力の爆発で山亀が一瞬浮いて最終生命破壊砲が貫いたってわけ……ったく、やることが派手だよなぁ」





 笑い声が弾ける。

 みんなが、安心しきった声を出している。


 「……そう言えばルコは?」


 「あ?ルコさん?あーそういやどこに行ったんだろうな?おーいルコさーん」


 そういってクロエはルコサを呼ぶが返事はない。


 「まーた、どっか消えやがったよあいつ。オリバ、なんか知ってるか?」


 「知らない……あいつはいつも勝手だから……」


 「それもそうだな、気にする方が損か」


 「そ、そうか」


 「それより!めんどくせー色んな作業終わらせたら祝杯だ祝杯!今回は一人の力じゃなくみんなの力で誰も死なずに勝利だ!酒がうめーぞ!」


 「クロ……女らしくない」



 「うるせーよ、オリバ!」


 クロエが声を荒げつつ、世界樹の方へ歩き出す。


 「ほら、いくぞ!って――」


 「……げっ」


 クロエが足を止めた。


 その視線の先には――


 くしゃっとした笑顔で、優しげに手を振る“おじいちゃん”が、いつの間にか立っていた。


 丸い背中、柔和な目元、白くて整った髭。



 「……し、師匠」


 「――師匠……」


 キールとオリバルが同時に声を漏らす。


 「見事であったぞ、お主たち」


 穏やかな声。


 まるで、茶を淹れて出迎えるかのような調子で――老人は続けた。


 「お主たちの活躍、儂はすべて千里眼で見ておった」


 「は、は!俺達にかかればこんなもん!」


 「では、帰るぞ」


 「え!? し、師匠?」


 「ここでの役目は終わった。アオイも無事だ。お前たちは先を急ぐ必要があるのでな」


 「ま、まさか――あの在りかを……!?」


 「師匠……」


 「うむ。お前たちは免許皆伝だ」


 クロエとオリバルは目を見合わせて――


 「「ありがとうございます」」


 と、深々と礼をした。


 キールは、さっきから驚きが止まらない。


 (あのクロエとオリバルが!? “ありがとうございます”!?)


 あの二人は、そういった形式的なものが大嫌いで、グリードの側近騎士になる誘いも断っていたのだ。


 そんな二人が今、目の前で! ちゃんと姿勢を正して礼を言っている!


 (これは……明日、雪でも降るんじゃないか!?)


 「そうと決まれば戻るぞ!あぁ、キーさん」


 「?」


 「俺とオリバはお前を追い越す、それまで待ってろ」


 「あ、あぁ」


 「キーくん……覚悟しといて……」


 「お、おう……(オリバがそう言うのは珍しいな)」


 話がひと段落したところで師匠がキールを見る。


 「キールと言ったか?」


 「はい」


 「この中で唯一…………いや、やめておこう」


 「?」


 「ありがとう、かわいい弟子達を護ってくれて」


 そういって、振り返り3人でどこかへ歩いて行った。


 「(護った……確かに間接的にはそうなるのだろうが……なんだ……私は一体何を忘れている……)」


 煮え切らない思いを抱えていると、不意に通信が入る。


 {さぁ、キールさんアバレーの騎士達も次の仕事にかかってます!我々も一度集合して!今回のヒロイン!オア!ヒーロー!アオイさんに会いましょう!}



 「…………解った」







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