女神とエスが転移した先は――深く、静かな洞窟だった。
『さて、と、エス離れてなさい』
「……何をするんだ?」
『まぁまぁ見ててね?♪』
そう言って、女神はポーチからクリスタルの指輪を取り出す。
『さぁ、ここには何も種も仕掛けもありませ~ん』
どこかのマジシャンのように、両手を広げておどけて見せる女神。
「はぁ……」
エスは静かにため息をつく。
神と行動を共にするときの常として、常識では測れない出来事にいちいち驚いても仕方がないとわかっていても――やはり、疲れる。
『じゃあ、始まるよ♪』
女神が指輪をそっと地面に置いたその瞬間。
『この指輪についているクリスタルドラゴンの鱗は、自ら意思を持って動くの』
『そして今、それが……地面に“溶ける”』
指輪の宝石――銀青色の結晶が淡く光を放ち、じわりと地面へと沈み込む。
『鱗は地中で細胞分裂を始めて……人の形をなすわ』
エスが無言で見つめる中――
地面が小さく脈動する。
ごぼ、ごぼ……と、何かが蠢くような音。
そして――
ズチュ……ッ!
地面を割って、白く細い“手”が現れた。
指先が、空を探すように小さく動く。
『――彼女は、ホリゾンブルーの明るい藍色の髪を背中まで伸ばし』
『瞳の色も、髪と同じ色に澄んでいて……胸はアオイちゃんよりちょっと控えめ。でもスタイルは抜群』
『身長はアオイちゃんと同じくらいかな? とても美人な……そう、“女性”だった』
ぬらり――と地面から姿を現したのは、泥にまみれていながらも、ひときわ目を引く“美”の体現だった。
土と混じった液体が滑るようにその肌から落ち、まるで芸術品のような姿が露わになる。
そして――
「ぷはっ……わ、ワシは生き返った……のじゃ!?」
『やっぽ~、初めまして~』
裸の女は女神の姿を見ると目を一度見開きすぐにひざまずく。
『みんな堅いにゃぁ♪』
「わ、ワシを生き返らせていただきありがとうございます……のじゃ」
アオイを見て一瞬で何者か理解したのだ。
『いいよ~♪キャハハ……でもさ、その代わり頼みたいことがあるんだけどぉ、いいかな?』
「は、はい、何なりとワシにお申し付けしてください……のじゃ」
『うんうん♪詳細は神が見ていないときに話すね?』
「神のじゃ?」
『そうそう、今、神達は見てるから♪ヤッホーて手でもふってみる?』
「な、何を言っているのか解らないのじゃ……」
『ま、後でね~取り敢えずついてきてよ?』
「その、一つワシは質問していいのじゃですか?」
『どうしたの?』
「ワシは元々オスじゃったのじゃが……」
女神はわざとこれはウッカリと言う演技をして。
『間違っちゃったテヘッ、でもそっちの方が色々とこの子にとって都合がいいのよね♪それとも、私が作ったその身体じゃ不満?』
「そ、そんなことはありませんのじゃ!ありがとうございますのじゃ!」
『ん、いいこね♪えーっと、名前が無いのは可愛そうね?私が決めてあげる♪うーんっと~……ルカ。あなたの名前はルカよ』
「ありがたき、幸せです……のじゃ」
『じゃ、場所を変えるわよ。ついてきて――エス、ルカ♪』
三人は、静かに洞窟の奥へと進んでいった。
やがて現れたのは、古びた石扉。
女神が手をかざし、魔力を流し込むと――重たく軋む音を立てて、その扉はゆっくりと開いていく。
「お待ちしておりました。我らが――女神様」
中にいたのは、シルクハットを被った一人の人物。
“女神の翼”の幹部だ。
『ん、ただいま♪』
女神は扉をくぐり、その奥――高級な装飾が施された漆黒の玉座に、ゆっくりと腰を下ろす。
――その瞬間、空気が変わった。
『さぁ……物語は進む。』
『次のステージへ――“一段、深く”ね?』
女神が微笑む。
その笑顔は、あまりに美しく――あまりに、狂っていた。
可憐で、妖艶で、そしてどこまでも、恐ろしい。
『さて――私たちの、次の目的は____』