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第254話 自己紹介

 《アドベンチャー科》。


 今年の入学者、総勢20人。


 この科では、2年後に卒業試験が行われる。

 それに合格すれば、冒険者ギルドに登録する際、

 「スクール修了者」として記載され――


 受けられる依頼の幅も、かなり広がるらしい。



 そんなわけで、体育館での入学式が終わったあと――



 俺たちは、それぞれの教室に案内され、席に着いた。

 教室自体は、小中高のどこかで見たことあるような、古めかしい木の机と椅子が並んでいる。



 俺の席は――


 一番左の、一番後ろ。


 そして、その目の前の席には――ルカが座っていた。



 席の配置は、4列×5行。つまり、合計20席ぴったり。


 「では、一人ずつ、自己紹介をお願いします」


 担任の先生がそう言って、前に立つ。


 見た感じ、年齢は40くらい……といったところか。


 ……うん、女教師がエロいのって、アニメとか漫画だけだな。


 現実(異世界)では、至って普通の――

 なんならちょっと厳しそうなタイプの女性教師だった。


 一人ずつ自己紹介が進んでいき、

 やがて――ルカの番がやってきた。


 「ワシの名前はルカなのじゃ。よろしく頼むのじゃ」


 ……ほんの、なんてことのない自己紹介。


 その一言に、どこか和んだ空気が教室内に広がる。


 でも――俺は、ぼんやりと思ってしまった。


  ……なんだろうな、この雰囲気。学校って感じ。


 懐かしい。

 でも――同時に、どこか苦しくなる。


 ………………


 正直、あまりにも“前の世界”と似すぎていて――

 思い出したくないことまで、思い出しそうになる。


 いや、ほんとさぁ。

 馬鹿だったから、先生にめちゃくちゃ怒られてた記憶しかないんだよね?


 あと、深夜までゲームやって、授業中に寝てて怒られるとか――


 うん。そりゃもう、怒られ記録表の常連だったわけで!


 だが俺は今は見た目は子供頭脳は大人だ!

 あの時の失敗は繰り返さない!


  そして――俺の番が、来た。


 「次、お願いします」


 「はい」




 立ち上がり、深呼吸。




 「アオイと、言います。これからよろしくお願いします」


 ……うん、普通。

 完ッ全に、普通の自己紹介。目立ってない。大丈夫。完璧。




 ……のはず、だったのだが。


 「ねぇ、アオイって名前なんだって……」


 「ああ、アオイか……アオイ……。いい名前だ……心に刻むぜ……」


 「アオイ……なんて素敵な響き……。由来、聞いてみたい……」


 ……あれ? なんか……ざわついてない??


 俺、目立ってないよね!?!? 大丈夫だよね!?


 「はい、みなさん静粛に。次の方、どうぞ」


 ……うぐっ。

 目立つの、嫌なんだけどなぁ……。


「わ、私はスヒマルっていいます……よろしくお願いします」


 隣の、少しぽっちゃりした女の子。スヒマルちゃんか。よし、覚えたぞ!


 自己紹介はそんな感じで滞りなく進み、無事に終わった。

 どうやら明日から早速授業が始まるらしい。


 校内の施設――図書館、食堂などは基本自由に使っていいらしく、

 もちろん許可さえ出れば、図書館にはぜひ行ってみるつもりである。

(できれば、誰にも絡まれずに……ひっそりと)


 「では、これから二年間、よろしくお願いしますね。今日はこれで終わりです」


 担任が出ていき、教室は一瞬だけ静寂に包まれた。

 そして――


 「君!アオイちゃんって言うの?」


 「ねぇ!アオイちゃん、これからモルノ市場で一緒に買い物しない?」


 「アオイちゃん!俺たち、冒険者になったらパーティ組もうよ!」


 アオイちゃん、アオイさん、アオイさん、アオイちゃん――

 男女問わず、一斉に俺の席へ押し寄せてくる!


 な、なにこれ!?なんでこんなことに!?


 「え、えーっと……」


 ルカを見ると、そっちも数人に囲まれてて――目が合った瞬間、助けを求める表情になる。

 ああ、ダメだ。あっちもパニックだ。


 「な、なんなのじゃお主らっ!」


 「その喋り方、めっちゃ可愛いね!」


 「ルカさん、このあと一緒にお茶でもどうですか?」


 ルカさん、ルカちゃん、ルカにゃん……なぜ俺たちだけ集中砲火を浴びているんだ!?

 そんなに俺、目立ってた……?


「大丈夫?アオイちゃん」


 声をかけられる。


 ここで、気の利いた返しをしなければ――

 俺の異世界スクールライフは“陰キャ爆死ルート”に突入してしまう!


 落ち着け俺!ここが勝負だ!

 俺は、学校デビューを成功させるために転生してきたんだ!!


 「え、えーっと……ハハ」


 ………………ダメだ。

 いい答えなんて出てこない。

 とりあえず笑ってごまかしてみた、その瞬間――


 「ぐはっ!!」


 「おい!どうした!」


 「お、俺は……この笑顔のために……生きてたんだ……」


 「まだ死ぬな!起きろ!おい!」


 一人の男子が鼻血を吹いて、そのままバタリと倒れた。


 え、ええええええええぇ!?

 なんで!?笑っただけだよ俺!?

 なんで命削って見てたの!?

 ていうか俺、入学初日で人ひとり殺しそうなんだけど!?


  それを見ていた、ルカの周りにいた男子の一人がつぶやく。


 「ふん、この程度で倒れるとは……手ぬるいな」


 その余裕ぶった男に、ルカがふと気付き__


 「お主、何か糸がついてるのじゃ。取ってやるのじゃ」


 そう言って、軽くその人の服に手を伸ばし――


 「ぐわぁぁあああああああっ!!」


 「ど、どうしたのじゃ!?」


 「も、もう……この服……絶対に洗わない……!!」


 ルカに軽く触れられただけで、男は涙を流しながら崩れ落ちた。


 いや、待て。

 なんだよこのクラス!?

 どうなってんだ!?



 「と、取り敢えずみんな明日ね!また明日!ぐっばい!」


 「ま、待つのじゃアオイ!」


 俺は、カオスと化した教室にこれ以上耐えきれず、ルカと一緒に走ってその場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「な、なんじゃったのじゃ……」


 「わ、わからない……けど……」


 二人で靴箱まで駆け抜けて、息を整える。


 ……良かったのかな。こんな感じで逃げ出して。


 逃げてしまった自分をちょっと悔やむ。でもさ!

 目の前で鼻血出されて、涙まで流されてみなよ!?

 しかもアイドルでもセレブでもなく、ただの一般人にだよ!?


 それ、もはや事件じゃん!!


 ちなみに俺はアニメの主人公みたいに鈍感ではないので、ここでハッキリ言わせてもらう――


 「絶対に周りの人がおかしい!」


 ……そう結論づけて、今日はルカと一緒におとなしく帰ることにした。


 ……明日、学校行ったらどうなってるんだろ。










  『――アオイは気づいて無かった、アオイの魅了が押さえつけきれないほどに、暴走している事に__』






 ――学園生活編、スタート。





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