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第257話 クラスの代表

 「アオイ、明日からはお弁当にするのじゃ……」


 「うん、そうしよう……」


 ――食堂での地獄を終えた俺とルカは、並んで席を立っていた。


 質問の嵐。

 勧誘の嵐。

 笑顔で無言の凝視&ひたすらガン見されるタイム。


 俺たちは、ただ昼食をとっただけなのに。

 なぜか今、ものすごく疲れている。


 ……なんだよ、“食べてる姿がエロい”って……!!


 いや、普通に飯食ってただけだから!

 美人は咀嚼までセクシーになるって、どんなバグ仕様だよコレ!?

 その目ん玉食うぞ!いや!食べれないけど!


  「昼からは、なんの授業だったのじゃ?」


 「確か、これからの役員を決める時間だから……授業っていうより、話し合い?」


 「役員……のじゃ?」


 「うん、代表とか、書記とか……」


 そう言っていたところで、チャイムが鳴り響いた。


 そのタイミングで教室に入ってきた先生が、

 教壇に立って、軽くため息をつきながら言った。


 「はい、みなさん席について。

  ……アオイさんとルカさんのところから、早く離れなさい」


 「え?」


 驚いて周りを見ると――

 俺たちの席のまわりに、ものすごい人数が集まってた。


 え、えぇぇ!?

 いつの間に!? 全然気づかなかったんだけど!!


 「それでは、このクラスの役員を決めます。

  決めるのは、《クラスの代表》《飼育係》《文化祭係》《体育係》の4つです」


 ……普通だな。

 いたってふつ――


 ……え? 飼育係?


 思わず、手を挙げて質問!


 「質問いいですか?」


 「はい、どうぞ」


 「飼育係って……何を飼育してるんですか?」


 「はい。校舎より少し離れたところに“魔物の飼育小屋”がありますので、

  そちらで飼育している魔物のお世話になります」


 ――おぉ!? 魔物の飼育!?

 それってちょっとロマンあるやつじゃん……!

 ……まぁ、あんまり思い出したくない記憶もあるけど、もう“あんなこと”はないだろうし……

 それなら、ちょっとやってみたい――


 と思っていたら――


 男の生徒たちが、一斉に手を挙げた!


 「先生!飼育係は、ぜひ我々に!」


 「いえ、拙者たち《アルティメット》の出番でござる!」


 「み、みんな!? まだ立候補始まってすらないよ!? どうしたの!?」


 ――すると彼らは、口を揃えてこう叫んだ。


 「「アオイさんが恐がってましたから代わりに!」」


 ちがう! そうじゃない!!

 たぶん俺、ちょっとだけヒロスケのこと思い出してただけなんだって!!

 それを“怯えた顔”と解釈して、全力で庇ってくれてるの!? 違うのにー!!


 「え、えっと……そうじゃなくて……」


 「わかりました。では、アオイさんにはそれ以外の係をお願いしましょう。よろしいですか、みなさん?」


 「「「はいっ!!!」」」


 「はい……」


  周りが賛同していると――自分の意見が言えなくなって、

 つい「……うん」って、流されてしまう。


 本当はやりたかったのになぁ……飼育係。




 「では、次に《クラスの代表》を決めます。やりたい人は居ますか?」




 ――来た。絶対に嫌なやつ。


 俺は昔から、リーダーとか代表とか、そういうのが大っ嫌いだった。


 人前に出るのも、まとめ役も、発表とか指示とか責任とか――

 目立つこと全部が、ほんっとに無理。


 だからこそ、今は――


 (誰かがしてくれるだろう……)


 そう信じて、俺はそっと息を殺した。


 なんたって、このクラスには冒険者パーティーで来てる人たちも多いんだ。

 そのリーダー格の誰かが、自然に代表になってくれるはず――




 ……なってくれ。お願いだから。



  ……と思ってたら、やっぱり一人。

 《マッスルファイターズ》のリーダーらしき男が、手を挙げた。


 おぉ、なるほど。

 体育会系のリーダーか。熱血クラスになりそうだけど、カリスマもありそう――


 さて、他には誰が立候補するかな……なんて思っていたその時。


 「では、あなたが……」


 「私は、アオイさんがいいと思い手を挙げました」




 …………え?


 「え??」


 ぽつりと放たれたその言葉を皮切りに、周囲が一気にざわつき出す。


 「おぉ!たしかに!」


 「このクラスといえばアオイさんだよね!」


 「いや、ルカさんもだよ!」


 「どちらも甲乙つけがたいでござるな!」


 「ぐふふ、アオイちゃんアオイちゃんハスハス」


 「アオイさんが代表なら、誰も逆らえないしね!」


 「アオイちゃんが前に立てば、クラスの品格が爆上がり!」


 みんな、好き勝手に言い出した。


 ちょ、ちょっと待って!?

 俺、君たちと会ってまだ一週間も経ってないよ!?


 なにこの信頼度。何がどうしてこうなった!?


 「う、うぇ!? ふ、ふえぇ……」


 あまりに唐突、そしてあまりにカオスな状況に、

 俺の口から出たのは――言葉にならない“音”。


 そして始まる、謎のコール。


 「「「ア・オ・イ! ア・オ・イ! ア・オ・イ!!」」」


 ひぃぃぃぃっ!!

 やめて!! 恥ずかしい!!

 なにもしてないのに!! 代表決定祭やめてぇぇぇぇ!!


 くっそぉ……!

 ああもう、ルカまで! 楽しそうにノッてやがる!!


 ぐぬぬぬぬぬぬぬ――!!




 ……そして、俺は――ついに、手を挙げた。




 「…………や、やります」


 沸き起こる――俺にとって一番嫌な拍手。




 いやだぁ……




________


《モルノスクール公式教本・社会構造論 第5章 抜粋》


 ■ ギルド

 ギルドとは、三国(グリード・ミクラル・アバレー)の共同合意により設立された、いずれの国家にも属さない中立組織である。


 主に【冒険者】の登録・管理・依頼斡旋を担っているが、それに限らず様々な職種への依頼窓口として機能しており、依頼数は膨大である。


 依頼の種類は、戦闘任務・調査・物資運搬・護衛・魔物駆除・通商支援など多岐に渡り、

 また、旅の申請や国境を越えるための書類手続きなどもギルドを介して行える。


 ギルドは三国それぞれと“直接の交信ルート”を持ち、外交・民間間の中継組織としての役割も果たす。


 なお、ギルド職員はすべて【ギルド本部】からの選抜により任命される。

 採用基準は非公開であり、外部からの一般応募は受け付けていない。

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