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第265話 競技決定

 「アオイさん!ルカさん!昨日の件、大丈夫でしたか!?」


 「う、うん……ありがと、大丈夫だったよー……」


 次の日の朝――

 登校してから、何回「大丈夫?」と聞かれたかわからない。クラスだけでなく、他の科の生徒からも次々に声をかけられて、さすがにちょっと疲れてきた。


 今声をかけてくれた人で、隣の席以外はもう全員網羅してる気がする。

 隣の子……たしか「スヒマルさん」だったかな? あの子だけはいつも静かで、こっちに話しかけてくることはない。


 「ふいぃ……やっと終わったのじゃ?」


 朝から対応していたルカも、やれやれといった表情で隣に座る。


 「そ、そうだね……もうすぐ授業始まるし、これで終わりかな……でも、心配してくれるのはありがたいよ。みんな、優しいんだと思う」


 ……たまに、優しさが暴走してる人もいるけど。


 そうして、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってくると――

 今日の授業が静かに、そして、少し賑やかに始まった。


________


 そして――


 お昼の《からあげ弁当》は、ルカが「うまいのじゃ!」と大絶賛。

 ちょっと得意げになりながら午後を迎えると、先生が昨日の《クラス代表会議》について話し始めた。


 「では、クラス代表から報告があるみたいなので……アオイさん、お願いします」


 その瞬間、教室がしんと静まり返る。


 ……はぁ、この“注目されてる感”ほんと苦手。


 「は、はい……」


 なるべく気配を消しながら立ち上がって前へ。

 それだけで、もう胃がキリキリしてくる。


 「えーっと……では、昨日の代表会議の内容について、みんなに伝えます」


 黒板の前に立ち、魔力をチョンッと通すと――

 チョークが勝手に動き出して、《体育祭の競技について》と書き出される。


 ……これ、字が汚くてもバレないからほんと助かる。


 「はい。えーっと……ご覧のとおり、夏に開催される体育祭についてです」


 席の方を見ると、みんな意外なくらい真面目に俺を見ている。

 ……そんなに真剣に見なくていいのに、なんか恥ずかしい。


 「まず、配られた魔皮紙によると――午前中の競技は《徒競走》《玉入れ》《借り物競争》《つなひき》の四つです」


 「午後からは、各科のオリジナル競技をやるそうで……ただし《アリスト科》は運営の方にまわるそうなので、実際に競うのは《マジック科》《ビジネス科》《アドベンチャー科》の三科だけです」


 ざわざわと、空気が少し和らぐ。


 ……よかった、ちゃんと伝わってるみたい。


 (でもほんと、こんなガチガチに聞かなくてもいいのに……もっとこう、ワヤワヤってしててくれた方が安心するよ……)


 「しょ、しょういう事ひぇ……」


 噛んだ。

 見事に、ばっちり噛んだ。


 やばい……緊張で口まわってなかった……はずかしぃぃぃ!


 「ご、ごほん……そ、そういうことで! 20分後にみなさんの意見を聞きますので、は、話し合ってくださーい!」


 早口で締めて、そそくさと自分の席へダッシュ。


 よしっ、みんなザワザワし始めた……これはもう成功でしょ!

 いわゆる“丸投げ戦法”だ! 代表の名を借りた丸投げだ!


 「……どうしたのじゃ? 終始顔が赤かったのじゃ?」


 「そ、そう?」


 え、そんなに赤くなってた……? 自分じゃ気づかなかったけど……


 「カマトトぶったのじゃ?」


 「いやいや! ぶってないよ!? そういう赤さじゃないってば!?」


 「まぁ、赤くて可愛かったのじゃ。にやにや」


 「や、やめてー! いらない情報ぉおぉ……!」


 恥ずかしさで顔がさらに赤くなっていく。

 ますます前に立ちたくなくなるじゃん、これ……。


  「それで、ルカは何か意見ある?」


 そう聞くと、ルカは前で腕を組む――というか、胸が大きすぎて自然と胸を支える形になる。


 その動きが妙に様になってて、見てるこっちがドキッとする。

 ……いや、俺が言うなって話なんだけど!


 「うーむ……むむむむむ……」


 「うんうん」


 「ところで!」


 「ん?」


 「体育祭ってなんなのじゃ?」


 「……………………」


 ズ コーーーーーーーーッ!!


 いや、落ち着け俺……ここは異世界……“体育祭”を知らない人がいても、それは仕方のないこと……


  「え、えとね、クラス全員でチームになって、力とか体力とかを他のクラスと競い合うんだよ~」


 一応、合ってるよな?……体育祭の説明って人生で初めてしたから正直自信ない。

 でも、ルカはなにかピンときたみたいで――


 「なるほどなのじゃ! ならばやはり……喧嘩なのじゃ! 殴り合いで勝負なのじゃ!」


 「……いや、ちがう! 訂正!完全に間違い!」


 「ストップ!そういうのはナシナシ! モラルが吹っ飛ぶ!」


 「ダメなのじゃ?」


 「たぶん、というか絶対ダメだと思う……うん……」


 そ、それってもしかして他のクラスがOKだったりするの……?って一瞬心配になった。


 「なら何でもいいのじゃ。好きな競技を選べば勝てるのじゃ!」


 「そんなアバウトなルールなわけないでしょ……!」


 ……そんな感じで、俺は20分間ずっと“体育祭とは何か”をルカに説明し続けて終わった。


  「アオイさん、20分経ちましたよ?」


 「あ、はいっ!」


 先生の合図で再び前へ。

 ……よし、深呼吸。平常心、平常心……顔、赤くなるなよ……!


 「で、でわゃ……」


 噛んだァァァァ!!また噛んだァァァ!!!

 いやいや死にたい!!!今ここで地面割れて落ちてほしい!!!


 「では……えと、その、みなさんで出した意見を……くだ、さい……?」


 ……あれ?“出した意見”って自分で言ったのに「ください?」って何それ!?

 完全に日本語バグった!!思考も停止した!!


 (やだもう帰りたいぃぃぃぃ)


 恥ずかしさで床にめり込みそうな気持ちをなんとか抑えながら、俺はその場に立ち尽くすのであった……。


 そんな俺の恥ずかし沈黙タイムのあと、真っ先に手を挙げたのは――


 「はい!我々《マッスルファイターズ》は、アームレスリングなどどうですか!」


 出た!筋肉全振りの四天王みたいな人たち!

 アームレスリングかぁ、たしかに向いてそうだけど……


 「……それ、クラス全員でやるの?」


 「はい!もちろん!」


 とりあえず、黒板に《アームレスリング》とだけ書いとく。


 「はい!私たちは~水泳とかどうかな?」


 え、水泳?え、水?ここで?

 でも魔法でプール作れたりするのかな?……と思ってたら。


 「水泳!いいでござるな!!」


 「ふへへ……水泳……」


 「うむ!マッスルもあるし、それに水泳と言えば――!」


 「「「「水着!!」」」」


 「却下です」


 「「「「えぇ~~~っ!?!?」」」」


 うるせぇ!!!

 女物のスクール水着なんか着れるか!!!

 こっちは日々の制服ですら「胸がつっかえてボタン閉まらん」とかで死にかけてんだぞ!これ以上俺の尊厳を削るな!!



 「えーっと、僕たちは《騎馬戦》を提案します」


 この案はルカと相談して決めた。決闘っぽさもあるし、妙な露出も避けられる。


 すると教室中がザワつく。


 「騎馬戦ってことは、あれだよね……」


 「あれだな……!」


 「頂上ポジションは……!」


 「代表だろ……!」


 やっぱり何か企んでるよね!?


 「え、他に案……?」


 クラス全体が揃ってうなずいた。


 「「「騎馬戦でお願いします!!」」」


 速攻で決定。


 「じゃ、じゃあ……《騎馬戦》で……」


 内心げんなりしつつ、クラス代表の仕事を終える。


 「最後にこれを紹介します」


 《なんでも箱》を取り出す。妙なキャラが描かれた手作りの箱。


 「クラスで困ったことがあったら、この箱に入れてください。できる範囲で僕が対応します……!」


 早口で言い切って席に戻る。


 そして。


 俺は気づかなかった。


 みんなが一番ワクワクしていたのは《騎馬戦》ではなく……この《なんでも箱》の方だったことに。


《冒険者の防具》


冒険者は武器と魔法だけでなく、専用の防具で身を守る。



高度な技術が組み込まれてる防具ほど、動きやすく見た目も普通の服と変わらない高性能なものが多い。


防具にはモンスターの素材が使われており、それに含まれる魔力成分と魔法陣を組み合わせることで装備そのものが魔法の発動媒体となる。


例:

『フレイムラッカル』の《火炎袋》を素材にした防具に魔力を通すと、【炎弾】を発射可能。

『ソードドラゴン』の鱗を使えば、近接武器の切れ味や耐久性が劇的に向上する。


防具は戦いの要。どんな装備を選ぶかが、冒険者の生死を分けることもある。

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