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第266話 なんでも箱会議

アオイが教室に《なんでも箱》を設置したその日の夕方――


 その裏で、アオイとルカには秘密で《アドベンチャー科》一年の生徒たち(※スヒマルを除く)は、市場近くの人気チェーンミクラルバーギャーに集合していた。


 ファストフード店らしい活気に包まれた中、それぞれ注文したバーガーやポテトを前に並べ、各自のパーティーごとに席についていく。


 「……さて、それぞれ席に着いたでござるな?」


 静かに口を開いたのは、眼鏡をクイッと持ち上げた男子。キラーン、と反射したレンズがやけに真剣だ。


 「今日集まってもらったのは……他でもない、《なんでも箱》の件について、でござる!」


 他の客から見れば、会議というより怪しい宗教の儀式にしか見えない静寂が、アドベンチャー科一年の席に漂っていた。


 「……それでは。あの《なんでも箱》に、依頼を入れたい者は――」


 静かに告げる眼鏡の男子。その言葉を皮切りに、


 ――バッ!!!!


 全員、無言で手を挙げた。


 「うむ、やはりでござるな……」


 「やっぱりみんな考えることは同じだったみたいね」


 女性パーティーのリーダーが微笑み、隣の筋肉代表と中学生男子代表も神妙な顔つきで頷く。


 「ふむ……やはりこの場は必要だった……!」


 その次の瞬間。


 「「「「アオイさんを独り占めしたい!!!」」」」


 ――バーン!!!


 テーブルが揺れる勢いで全員が一斉に叫んだ!


 「うおおおぉ!天よ、女神よ、ついに我らにチャンスをくださったか!」


 「童貞卒業の鐘が今、鳴り響く!!」


 「このマッスルを、アオイさんにずっと見ててほしいんだ!」


 「アオイちゃん、どんな下着つけてるのかな?」


 「アオイさんの家に行きたい!」


 「アオイさんと、お姫様デートがしたい!」


 「「「「アオイさん!アオイさん!アオイさん!!」」」」


 ……もはや《なんでも箱》の使い方どころか、人としての理性すら忘れかけていた。


  「静粛にでござる!」


 声を張り上げるメガネ男子に、全員がビクッと姿勢を正す。


 「気持ちは皆、同じでござる。……だが!このままでは《なんでも箱》が、アオイ殿へのラブレターでパンパンになるのは確実!」


 全員が神妙な顔で頷く。


 「アオイ殿を困らせてはならん!我々は“誠意ある変態”を目指すべきでござる!」


 ――拍手が起きた。


 実はこの会議、そもそも《なんでも箱》の本来の使い道を完全に誤解した集団が、「みんな同じこと考えてるよな……?」と集まったもの。


 「よって、本日は代表者のみが発言する形式とする。意見がある者は各パーティーのリーダーに伝えるでござる!」


 「「「異議なし!」」」


 すぐさま小声の打ち合わせが始まり、さっそく女性パーティーのリーダーが手を挙げる。


 「はい、どうぞでござる!」


 「まず確認しておきたいのは――みんな、お願いの内容、どんなつもり?」


 「……」


 「アオイちゃんは女の子よ?それにクラス代表で責任ある立場。まさかとは思うけど、“そういうお願い”をするつもりはないわよね?」


 その視線は、自然と“筋肉パーティー”に集まった。


 その圧を察したリーダーが、思わず身を乗り出す。


 「な、何を言うか!我々は健全なスポーツマンだぞ!? 確かに“夜の運動”とも言うが、そういう意味ではない!」


 「二言はないわね?」


 「男に二言はない!……それにっ!」


 ビシィッと指をさすその先は――思春期ど真ん中の14歳男子パーティー。


 「我々より危険なのは、むしろそちらだ!“一線”を越える願いを書く気なのではないか!?」


 ……もはや《お願い》というより《願い》扱いなのに、誰もツッコまない。


 矛先が向けられた思春期パーティー、さすがにおどおどしていたが――


 「う、うるさい!俺たちを子ども扱いするな!」


 椅子を蹴って立ち上がり、14歳代表が叫ぶ。


 「俺たちだって男だ!欲望もあるし夢もある!だが――行きすぎたことはしない!……誓う!」


 その言葉に、筋肉代表は目を細め、うなずく。


 「……若いのに、立派だ」


 「……ああ」


 そして、二人は立ち上がり、熱い握手を交わした。

 《なんでも箱》に賭ける男たちの想いが、そこにはあった。


 「……ならいいわ」


 納得し、女性リーダーも座る。


 「では、ルールを決めたいと思うでござる。まず――《誰が、いつ入れるか》でござる」


 「「「…………」」」


 沈黙が落ちる。


 全員が、《今すぐにでも入れたい》という想いを胸に抱えながらも……その場で口にすることはない。


 ――アオイに迷惑はかけたくない。


 その一心で、理性を保っている。


 「それについては、拙者、案を考えてきたでござる」


 皆がゴクリと息を飲む。


 「《一日につき、一人》……これでいくでござる」


 「「「……意義なし!」」」


 一日一人。

 つまり、17日に一度、自分の番が来るということ。


 効率は悪い。

 順番は遠い。

 だが――


 誰も異を唱えなかった。


 「……では、次の議題にいくでござる」


 そして――


 《なんでも箱》アオイちゃん会議は、アオイの知らぬところで、静かに、しかし確実に……夜更けまで続いたのだった。











 その頃――アオイは、


 「へっくちっ!」


 くしゃみをひとつ。


 「……誰か、噂でもしてるのかなぁ……?」



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魔法海賊マジックパイレーツ

海域を拠点とする無法者の集団。

主に海上で活動し、発見次第ただちに王国騎士団への通報が義務付けられている。


彼らの多くは、正式な冒険者登録を行わず、冒険者や一般の商船を襲撃し、その装備や積荷を略奪して生計を立てている。

海の魔物を狩る術にも長けており、一部は違法な魔物素材の流通にも関わっている。


個々の戦闘力は高くないものの、海上戦における集団戦術に優れ、集団全体での脅威度は【ダイヤモンド冒険者】クラスに相当する。


なお、彼らが使う魔法は独自に編み出した“航海魔術”と呼ばれ、風や水流を操る特殊なものが多く報告されている。


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《なんでも箱》依頼一覧

現在の登録依頼:なし


※依頼内容は匿名でも構いません。困りごと・相談・挑戦したいことなど、何でも記入してください。

※依頼は《クラス代表》が内容を確認し、実行可能な範囲で対応します。


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