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第277話 笑顔/仲間

 「そんな……なんで……」


 アオイの目の前に現れたのは、ジュウジュウと音を立て、黒い鉄板の上で肉汁を跳ね飛ばすステーキだった。


 右半分はキメ細かい赤身肉。

 左半分は魚のように白く柔らかい身。

 中央の切り替わるラインには、贅沢に香草バターがとろけて流れていた。


 「す、すごい……お肉とお魚、両方楽しめるなんて! お酒が進まないわけないよ! すごいすごい!」


 アオイは満腹だったはずなのに、グラスを抱えてはしゃぐ。

 瞳をきらきらと輝かせ、ふわりと笑うその姿に、目の前の男は思わず息を呑んだ。


 「ありがとう! いただきます!」


 アオイはナイフとフォークを構え、まずはお肉の部分にナイフを――


 スッ……と、音すらなく切れる。


 中から、熱々の肉汁がとろとろと溢れだし、鉄板に落ちた瞬間――パチン、と香ばしい匂いが弾けた。


 「あむっ……」


 口に入れた瞬間、アオイは言葉を失い――次の一切れ、そしてまた次を切り始める。


 斬る。

 食べる。

 斬る。

 お酒を飲む。

 斬る――


 「これ本当に美味しいよ……! なんのお肉なの?」


 男は満足げに答える。


 《バルクファスのステーキ》――

 ミクラル最高級食材。

 倒すには、ルビー級冒険者のパーティーが必要とされる幻の魔物。


 「なるほど……だから高いのかぁ。……でも、こんなに美味しいなら納得だよね♪」


 頬を染め、ふにゃりと笑うアオイ。

 その姿は、まさに“幸福そのもの”。




 ――同時刻、《モルノ町》近く、戦場にて。




 「どうして……あんたが……」


 エンジュが空を見上げると、そこには禍々しいオーラを放つ『漆黒の騎士』の姿があった。


 彼が手にした弓を分割し、黒き双剣に戻す。

 風を裂いて地面へと急降下し、《ゲルロブスター》の首を――


 スッ……と音なく切り落とす。


 首が飛ぶ。内臓が溢れる。

 そして、エスは――次の魔物へ。


 斬る。

 殺す。

 斬る。

 肉を裂く。

 斬る――


 彼の剣が通るたび、地に魔物の死体が積み上がり、血が泡立ち、肉が弾け飛ぶ。


 「エスさんだぁあああああ!!!」


 部下たちは歓喜の声をあげる。


 「なんで……あんたら……そんなにアイツを……?」


 困惑するエンジュの背後から、聞き慣れた声。


 「不思議に思うのじゃ?」


 「っ……ルカ……!」


 制服姿のルカが、砂煙の中から現れる。


 「【拠点】の《グレゴリ》どもは群れごと消し飛ばしておいたのじゃ。結界も二重にしといたから安心せい」


 「……どうして、私たちを?」


 「ふふん、決まっておるのじゃ」


 ルカは、慣れない笑顔でエンジュにウインクしながら――


 「『仲間』なのじゃ。ぐえっ!?」


 その瞬間、吹き飛ばされたエスがルカに直撃し、ふたりで転がっていく。


 「何をするのじゃ!!」


 「お前が邪魔だったんだ……」


 軽口を叩きながらも、ふたりは並び立つ。


 そして、エスはエンジュを見た。


 「尾が魚。筋肉質。角が二本。……10メートル級の魔物を知っているか?」


 「は……なんだい、クイズかい?」


 エンジュは笑いながらナイフを構える。


 「《バルクファス》……ルビー級でやっと狩れる化け物さ」


 「それが5体いる。俺とルカで3体片付ける。残りは頼んだ」


 「へっ……上等だよ」


 エンジュは深く息を吸い、戦場を睨み――叫ぶ。


 「おい、アンタたち! 聞いての通りだよ! いつも通り、気張んな!」


 「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」




 “仕事”開始。






 ――その頃、アオイはステーキを切りながら、にっこりと笑っていた。





 「ごちそうさまでした♪」













 『アオイちゃんお守り部隊』は裏で動く......

 全ては『女神』の為に。










________


教科書:職業【冒険者】の階級について


冒険者はギルドに所属し、依頼を達成することで評価が蓄積され、一定の実績により階級(ランク)が昇格していく。


階級は以下の通りに分類される:

• ブロンズ級

• シルバー級

• ゴールド級

• プラチナ級

• ダイヤモンド級

• ルビー級

• サファイア級

• エメラルド級


上位階級になるほど依頼の難易度と報酬も高くなり、特別な装備の使用許可や国家との直接契約が可能となる。


なお、エメラルド級冒険者に昇格すると、各国の【代表騎士】候補としてテストを受ける資格を得る。


このテストに合格した者は、国公認の特級戦力として認定され、王族直属の任務にも関わることがある。




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