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第281話 《体育祭》はじまり

 天気は快晴! 空は雲ひとつなくて、まるで今日の体育祭のために神様(※この世界では悪だけど)が用意したみたいにキラキラしてる。


 朝、開会を知らせる【炎魔法】の花火が空にドーン!って上がった時は、うっかり「おぉっ」って声出ちゃった。なんだろ、懐かしい気持ちになったなぁ。日本での運動会も、朝の号砲とかあったよね?


 この町唯一のこの学園の体育祭だから、生徒の親だけじゃなく、冒険者ギルドの関係者らしき人や、他国から来たって噂の貴族様とか、色んな人が見に来てるらしい。


 なかには、「あの人の目に止まったら、将来の冒険者依頼が優遇される」なんて、まことしやかな都市伝説も流れてて……いや、ちょっと本気で信じてる子もいたな。みんなの気合の入り方、すごいもん。


 それから、この世界ならではって感じなのが、市場の人たちがこぞって来て、校庭の端っこに屋台をずらーっと並べてるところ! 焼き串に、甘いお菓子、スープの匂いまで漂ってきて、もうお祭りじゃんこれ……!


  白い体操服に赤いライン――胸元はピッタリ張りつく生地で、汗ばんだ肌が透けて見えそうだった。

 俺とルカはおそろいで髪をポニーテールにまとめているけど……何より問題なのは。


 「なんでこの時代でブルマなんだ……」


 何時代だよ!

 露出度高すぎだろ!? 

 太ももなんて全開だし、角度によっては――うっかり“見える”んじゃないかってレベル。


 魔法でポロリ防止されてるらしいけど、安心感より不安のほうが勝つ。

 特に下……布の際ギリギリで、アソコの毛が、マジで数ミリの差で守られてる感じ。

 いやマジで、昨夜思い立って剃ろうとしてやめた自分を褒めたい。

 やってたら、今、完全にアウトだった。


 「何してるのじゃ?」


 「って、まだ始まってもないのに何でそんなに屋台の食べもの持ってるの!? まだ朝だよ!?」


 ルカは手から落ちそうなほど両手いっぱいに食べ物を抱えて、口をモゴモゴしながら近づいてきた。


 「うむ、何か知らぬがサービスしてくれたのじゃ。アオイも食うのじゃ? この《クバブ》などうまいのじゃ」


 「え、ケバブじゃなくてクバブなの? なんか一文字違うだけで急に異世界感すごいね……」


 見れば焼き串、フライ、揚げ団子、謎のキラキラゼリー……明らかに戦う前の補給量じゃない。


 「ルカ、それ……体育祭じゃなくて“胃袋の祭典”になってない?」


 「ふむ、競技が始まる前にエネルギーを蓄えるのは当然なのじゃ! ほら、アオイも食え、遠慮するなのじゃ!」


 「じゃあちょっとだけ……あ、うまっ!? このクバブ……クバブ……めっちゃジューシー!」


 「のじゃろ!? やはり屋台の味は次元が違うのじゃ!」


 そう言いながら、もにゅもにゅと口を動かしながら、幸せそうに食べるルカ。


 「それより、そろそろ僕たち生徒はグラウンドに集合してってよー。開会式、始まっちゃうし。《アドベンチャー科》の先輩たちも、イベントには帰ってきてるみたい」


 このへんは《アドベンチャー科》に入って初めて知ったことだけど――


 この学校、二年生からは“ほぼ野外サバイバル”になる。


 場所は、ミクラル王国が管理してる訓練用の島。

 実戦形式の授業で“生き残る力”を学ぶ、まさに職業訓練校スタイル。


 知識より体力!

 筆記より魔物討伐!


 そのため、先輩たちが学校に帰ってくるのはこういう大イベントの日か、あとは《クラス代表会議》のときくらい。


 「うむ、行くのじゃ」


 ルカは手に残った屋台フードたちを、転送魔皮紙へとぽいぽい投げ入れていく。


 これ、普通なら「えっ、食べ物そんな適当に入れて大丈夫!?」って思うよね?


 でも大丈夫、この魔皮紙は超便利な冷蔵魔法付き。

 家の冷蔵庫に、自動で、しかもキレイな状態で届く仕様。


 便利だよねぇ……


 「えーっと、ここだね。一年は」


 グラウンドに出ると、すでに何人かの生徒が整列していた。

 朝の空気はまだ涼しくて、土と草の匂いがなんだか懐かしい。


 ……それはいいんだけど。


 なんで女子だけブルマなんだろうね?


 男子は普通のハーフパンツ。

 こっちはというと、太もも全開の魔法のブルマ。


 「んぅ……」


 ちょっとだけ内股になると、布がずれてお尻のラインが強調される感じがして――え、これ、後ろから見られてるよね?


 「……やば、気にしない気にしない、気づいてないふり……」


 べつに怒ってるわけじゃないけど、もうちょっとバランス取ってくれてもいいと思う。


 「はぁ……これ、絶対あとでルカと買い食いして忘れよう」


 視線が集まるのも仕方ないのかなって、ちょっと思っちゃった自分が悔しい。


 数分後、《アリスト科》の生徒会長が前に出てきた。


 ちなみにアリスト科の人は競技をしないので制服姿だ。


 「来賓の皆様、本日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。私はこの《モルノスクール》の生徒会長です。生徒一人一人が最高のパフォーマンスを披露しますので、ご声援よろしくお願いします。みなは今日、楽しむところは全力で楽しみ、競うところは全力で競い、応援するところは全力で応援して――」


 そこで一度、会長は息を吸う。


 「魔力が尽きるまで!血反吐はいても全力を出しきる様に……みんなでよい体育祭を作り上げていきましょう!」


 ……んん?


 血反吐……???


 その場の熱に押されて一瞬ついていきそうになったけど、今なんかとんでもないワード聞こえなかった!?

 いや、ネタだよね……!? さすがにネタであってほしい。


 そして、生徒会長は手を掲げて宣言する。


 「《モルノスクール》体育祭を――開催する!」


 「「「「おおおおおお!!」」」」


 会場が一気に湧く!

 前のほうの男子がうぉー!って叫んでて、魔力で火花が出てるし!いや、それ火傷になるからやめて!


 それにしてもこの学校のノリ……嫌いじゃないけど、なんだろう、時々命の軽さがギャグにならないくらい重い気がするのは俺だけ?








 そして、魔力と青春がぶつかり合う《体育祭》が開催された。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【一般衣類】


冒険者以外の人々が日常的に着用する衣類には、戦闘向けの【攻撃魔法陣】は基本的に組み込まれていない。


代わりに、快適な生活を支えるための【補助魔法陣】が多く施されている。以下は主に使用されている魔法の例である:


● 温度調節魔法

 着ている人の体温や外気に応じて自動で衣服の温度を調整する。全ての衣類に最低限組み込まれている基本魔法。


● 紫外線遮断魔法

 肌の露出が多い衣服に使用される。日焼けやシミを防ぐため、美容を気にする者に人気。


● 速乾魔法

 雨や汗などで濡れてもすぐに乾かす。特に下着や運動着には必須とされる。


● 消臭魔法

 汗や食べ物、煙などの生活臭を消す魔法。衣類自体から発生する臭いも抑える。


● 蘇生補助魔法(高級品)

 着用者が致命傷を負った際、心肺停止を一時的に遅らせる処置が施される。救助が間に合えば命を取り留める可能性が高くなる。ただし魔力消費が大きいため、使用は一回限り。


● しわ・ほつれ修復魔法

 日常の軽度な衣類ダメージを自動修復。学生服や制服、フォーマル衣装に多く用いられる。


● 静電気防止魔法

 冬季や乾燥地域では特に人気。魔法具との接触時の誤作動を防ぐ効果もある。


● 騒音遮断魔法(パーソナル)

 着用者の周囲一定範囲の雑音を軽減。集中したいときや読書時に好まれる。




なお、組み込まれる魔法陣が多ければ多いほど衣類の価格は高騰する。また、布面積が狭い衣類(例:水着や露出の高い服)に多機能魔法を詰め込むのは高い技術を要するため、高額になりやすい。


そのため、見た目がシンプルでも価格が高騰する衣類も存在し、一般層にはなかなか手が出せないことも多い。







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