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第340話 【魔神】『女神』【アオイ』

 『!?』


 「!?」


 {【キャハッ♪どうしたの?鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して!お母様はなんとなく解ってたんでしょ?』}


 『......』


 {【ね?お母様?』}


 『うーん、何言っちゃってるのかなぁ?あんたみたいなの知らないんだけどぉ、それにその呼び方やめてくれない?』


 {【キャハッ♪なにそれー?歳を感じるから?お母様ずーっと大昔から居るのに今さら気にしてるの~?』}


 『それを言うならあんたこそ喋る赤ん坊で気持ち悪い~』


 「ええぃ!貴様らの歳なぞどうでもいい!貴様は誰だ!」


 {【私はアオイ。『女神』で【神】のハーフよ』}


 「『女神』で【神】?」


 {【そ、私はどちらでもないの♪』}


 『......』


 {【この身体、お母様が作ってくれたんだよね?すごいよ!すごい!完璧な身体よ!でもざーんねん、この身体はもう私のもの♪』}


 『ふーん......そ』


 思ったよりの反応の薄さに【アオイは特に気にしていない』


 {【今は私たち三人で話してるの、【神】の後介入はご遠慮くださーい』}


 ......


 「それで、そのハーフが俺になんの様だ?」


 {【あなた、だけじゃなくあなたたち二人ね?』}


 「......」


 『......』


 {【そう言うわけで!初めまして!こんにちは!こんばんわ!ばいばーい』}


 {}


 「ほう……存在の証明と言うことか__まるで道化の真似事だな。残された情報は、ただ“ハーフ”という曖昧な響きのみ。あれを“存在の証”と呼ぶつもりか?」


 『はぁ~?知るわけないじゃな~い?何あいつ、ほんっとぅに腹立つんですけどぉ』


 「お前の事をお母様と言ってたが?」


 『それ以上言ったら──殺すわよ?』


 「何を言っている。元より、俺に無礼を働いた者が“生きて帰れる”と思う方がどうかしているだろう」


 『キャハッ♪いいのかしらぁ?あんた、今相手してる“存在”が誰か、本当に理解してるぅ?』


 「フン、貴様こそ俺を見誤ったか……その身体。見たところ“借り物”のようだな?ずいぶんと動きにくそうに見えるぞ?」


 『…………』


 「今の貴様など、魔王三体分程度の力……恐れるには値せんな」


 『ふふっ♡……その口、後悔させてあげるわよ。あんたも──あの“わけのわからない奴”も、まとめてねぇ♪』


 「……ぁ、あのっ……」


 空気が弾けるように歪み始める。

 圧倒的な魔力と殺気が空間を満たし、あたりの空気は凍りついたかのようだった。

 本来なら、そこらの上位魔物をも圧倒する力を持つみやですら、震えながらも口を挟む。


 「ちっ……まだ居たか」


 『ほんっと、水を差すわねぇ♡ キャハッ、そんなに死にたいのぉ?』


 「こ、これ……」


 みやの手の中には──一本の《黒髑髏薔薇》。


 「!?」


 『!?』


 それを見た瞬間、【魔神】は一言も発さず、空間に魔法陣を展開した――そこから解き放たれたのは、灼熱の斬光。


 炎すら蒸発する高密度の熱線がみやを焼き尽くさんと奔った――だが、その刹那。


 「きゃはっ♡ざーんねんっ♪」


 白銀の翼がみやの前に降り立ち、狂い咲くかのように広がる。


 『女神』の翼がその一撃を弾き、背後の壁を抉った。

 そして、そこから放たれた斬光は海と空を縦に裂き、地平の彼方へと消え去った。


 「どういう風の吹き回しか、先程までお前はソイツを殺すつもりで居たはずだが、『女神』」


 その声に、『女神』はくすくすと笑いながら翼を霧のように消す。


 『女はね……♡気まぐれで生きる生き物なの……そのくらい、知っときなさぁい♪』


 「ふん、その身体もそろそろ限界のようだな?その姿で、俺の“次”に耐えきれるとでも?」


 【魔神】の背後に再び展開されていく魔法陣の群れ。まるで世界を包み込むかのような圧が空間をきしませる。


 『ちっ! それ!寄越しなさいっ♡』


 「ぁ……っ」


 みやの手元から『黒髑髏薔薇』を掴み取り、花弁をそのまま口へ運ぶ。


 『あむっ♡……にっがぁ……♡でも……好きよ、こういうの……♡』


 黒い花びらを咀嚼しながら、『女神』の目に妖しく光が灯る。


 そして――狂気を含んだ声で、高らかに告げた。


 『その魔法陣は全部、不発に終わった』


 「ッ……!」


 空間を圧していた魔法陣群が、一斉に崩壊する。

 【魔神】の表情がわずかに歪んだ。


 『きゃはっ♡かーいかーん♡』


 再び、『女神』が翼を広げる。

 今度は四枚。先ほどとは比にならないほど、大きく、妖しく、美しく――そして、禍々しい光を放ちながら。


 『ふーん♪ そっか……そっかそっかそっかそっかそっか!【アオイ』!』


 『挨拶には手土産が必要よねぇ♡ いいわ、いいわ、いいわいいわ!もう、さいっっこうに気持ちいい♪ イっちゃいそう♡』


 『わたしの機嫌は、最高潮! 【アオイ』、あんたを殺すのは――こいつを殺してからにしてあげる♡』


 「ふん、俺を殺すだと? 力を少し取り戻したくらいで、この俺が……」


 『ああほんとっ……バカよねぇ♡ あんたを殺すのは、わたしじゃないわ♡』


 「ほう?」










 『あんた達を殺すのは――【勇者】よ♡』


 その言葉と共に、『サクラ』は微笑を浮かべながら、禍々しく魔力を込める。


 直後、空間がゆがみ、【転移魔法】が発動。


 その場にいた国王三人と、みやの姿が、一瞬で掻き消えるように転移していった。


 「……」


 静まり返った空間に、ふわりと舞う一枚の羽。


 純白の、『女神』の羽が静かに床へと落ちる。


 「【勇者】か……」


 【魔神】は、その言葉を懐かしむように噛みしめながら、ふ、と笑みを浮かべ、自らも転移して姿を消した。






















 『さぁ――これからが本番よ♡』





















 『【勇者】対【魔王】の戦いが、始まるんだからぁ♡』

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