『!?』
「!?」
{【キャハッ♪どうしたの?鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して!お母様はなんとなく解ってたんでしょ?』}
『......』
{【ね?お母様?』}
『うーん、何言っちゃってるのかなぁ?あんたみたいなの知らないんだけどぉ、それにその呼び方やめてくれない?』
{【キャハッ♪なにそれー?歳を感じるから?お母様ずーっと大昔から居るのに今さら気にしてるの~?』}
『それを言うならあんたこそ喋る赤ん坊で気持ち悪い~』
「ええぃ!貴様らの歳なぞどうでもいい!貴様は誰だ!」
{【私はアオイ。『女神』で【神】のハーフよ』}
「『女神』で【神】?」
{【そ、私はどちらでもないの♪』}
『......』
{【この身体、お母様が作ってくれたんだよね?すごいよ!すごい!完璧な身体よ!でもざーんねん、この身体はもう私のもの♪』}
『ふーん......そ』
思ったよりの反応の薄さに【アオイは特に気にしていない』
{【今は私たち三人で話してるの、【神】の後介入はご遠慮くださーい』}
......
「それで、そのハーフが俺になんの様だ?」
{【あなた、だけじゃなくあなたたち二人ね?』}
「......」
『......』
{【そう言うわけで!初めまして!こんにちは!こんばんわ!ばいばーい』}
{}
「ほう……存在の証明と言うことか__まるで道化の真似事だな。残された情報は、ただ“ハーフ”という曖昧な響きのみ。あれを“存在の証”と呼ぶつもりか?」
『はぁ~?知るわけないじゃな~い?何あいつ、ほんっとぅに腹立つんですけどぉ』
「お前の事をお母様と言ってたが?」
『それ以上言ったら──殺すわよ?』
「何を言っている。元より、俺に無礼を働いた者が“生きて帰れる”と思う方がどうかしているだろう」
『キャハッ♪いいのかしらぁ?あんた、今相手してる“存在”が誰か、本当に理解してるぅ?』
「フン、貴様こそ俺を見誤ったか……その身体。見たところ“借り物”のようだな?ずいぶんと動きにくそうに見えるぞ?」
『…………』
「今の貴様など、魔王三体分程度の力……恐れるには値せんな」
『ふふっ♡……その口、後悔させてあげるわよ。あんたも──あの“わけのわからない奴”も、まとめてねぇ♪』
「……ぁ、あのっ……」
空気が弾けるように歪み始める。
圧倒的な魔力と殺気が空間を満たし、あたりの空気は凍りついたかのようだった。
本来なら、そこらの上位魔物をも圧倒する力を持つみやですら、震えながらも口を挟む。
「ちっ……まだ居たか」
『ほんっと、水を差すわねぇ♡ キャハッ、そんなに死にたいのぉ?』
「こ、これ……」
みやの手の中には──一本の《黒髑髏薔薇》。
「!?」
『!?』
それを見た瞬間、【魔神】は一言も発さず、空間に魔法陣を展開した――そこから解き放たれたのは、灼熱の斬光。
炎すら蒸発する高密度の熱線がみやを焼き尽くさんと奔った――だが、その刹那。
「きゃはっ♡ざーんねんっ♪」
白銀の翼がみやの前に降り立ち、狂い咲くかのように広がる。
『女神』の翼がその一撃を弾き、背後の壁を抉った。
そして、そこから放たれた斬光は海と空を縦に裂き、地平の彼方へと消え去った。
「どういう風の吹き回しか、先程までお前はソイツを殺すつもりで居たはずだが、『女神』」
その声に、『女神』はくすくすと笑いながら翼を霧のように消す。
『女はね……♡気まぐれで生きる生き物なの……そのくらい、知っときなさぁい♪』
「ふん、その身体もそろそろ限界のようだな?その姿で、俺の“次”に耐えきれるとでも?」
【魔神】の背後に再び展開されていく魔法陣の群れ。まるで世界を包み込むかのような圧が空間をきしませる。
『ちっ! それ!寄越しなさいっ♡』
「ぁ……っ」
みやの手元から『黒髑髏薔薇』を掴み取り、花弁をそのまま口へ運ぶ。
『あむっ♡……にっがぁ……♡でも……好きよ、こういうの……♡』
黒い花びらを咀嚼しながら、『女神』の目に妖しく光が灯る。
そして――狂気を含んだ声で、高らかに告げた。
『その魔法陣は全部、不発に終わった』
「ッ……!」
空間を圧していた魔法陣群が、一斉に崩壊する。
【魔神】の表情がわずかに歪んだ。
『きゃはっ♡かーいかーん♡』
再び、『女神』が翼を広げる。
今度は四枚。先ほどとは比にならないほど、大きく、妖しく、美しく――そして、禍々しい光を放ちながら。
『ふーん♪ そっか……そっかそっかそっかそっかそっか!【アオイ』!』
『挨拶には手土産が必要よねぇ♡ いいわ、いいわ、いいわいいわ!もう、さいっっこうに気持ちいい♪ イっちゃいそう♡』
『わたしの機嫌は、最高潮! 【アオイ』、あんたを殺すのは――こいつを殺してからにしてあげる♡』
「ふん、俺を殺すだと? 力を少し取り戻したくらいで、この俺が……」
『ああほんとっ……バカよねぇ♡ あんたを殺すのは、わたしじゃないわ♡』
「ほう?」
『あんた達を殺すのは――【勇者】よ♡』
その言葉と共に、『サクラ』は微笑を浮かべながら、禍々しく魔力を込める。
直後、空間がゆがみ、【転移魔法】が発動。
その場にいた国王三人と、みやの姿が、一瞬で掻き消えるように転移していった。
「……」
静まり返った空間に、ふわりと舞う一枚の羽。
純白の、『女神』の羽が静かに床へと落ちる。
「【勇者】か……」
【魔神】は、その言葉を懐かしむように噛みしめながら、ふ、と笑みを浮かべ、自らも転移して姿を消した。
『さぁ――これからが本番よ♡』
『【勇者】対【魔王】の戦いが、始まるんだからぁ♡』