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第391話 魔王メイト討伐?

  メイトは苦悶の声を上げながら体勢を崩し、私たちから距離を取る。



 「ッグ……ガ……っ」



 傷は浅いはず。だが、様子が――おかしい。

 魔王メイトは、顔を押さえたまま、苦しそうに眉をひそめていた。



 「ヒロユキ殿、ありがとうございます!」



 「……クルッポー」



 混乱している。

 メイトは、明らかに困惑している……効いてる!



 今しかない。このチャンスを――絶対に逃さない!



 「そのまま、畳みかけますよ!」



 「……クルッポー」



 私は鎧の内側から魔皮紙を取り出し、短剣を転送。

 そのまま、前のめりにメイトへと踏み込む!



 「ックソ!!」



 魔王は、明らかに焦っている。

 危機を察知し、咄嗟に上空へ飛び上がる――が。



 ……動きが、さっきよりも、わずかに――遅い!


 「――甘い! ヒロユキ殿!」



 「……クルッポー」



 その一瞬の隙を、私たちは逃さなかった。


 二人同時に、跳ぶ。


 そして――すれ違いざま、同時に斬りつける。



 「ッッッ!!」



 斬られた魔王メイトは、空中に留まることができず――

 そのまま地面に落下し、膝をついた。



 「我に……我に、何をした……!」



 斬りつけられた箇所を押さえ、うめくメイト。

 もはや、顔をこちらに向ける力すら残っていない。

 地面を見つめたまま……崩れ落ちそうに揺れている。



 「私とヒロユキ殿の爪には――

  アヌビス族にとっての《猛毒》が塗ってある」


 「……毒、だと……?」



 「この毒は、体内に入るとアヌビス族の組織が過剰反応を起こし、

  あらゆる能力を低下させ、血液を凝固させる」



 「この、我が……そのようなものに……!」



 「さらに言えば――先程で、三撃。

  毒の巡りも加速し……今、お前はもう“立ち上がることすら”困難なはずだ」



 ……これが、リラックスピルクルの“もう一つ”の効果。


 原料に使われた魔植物の毒は、通常では効かない。

 だが――加工と濃度調整によって、偶然にも“アヌビス族限定の猛毒”として作用した。


 すべては……この日のために。



 私はゆっくりと歩み寄り、メイトの目の前に立つ。


 もはや、メイトは動かない。

 話すことすらできない。

 ただ、時が止まったように地面を見つめている。



 「……勝負、あったな」



 私は魔皮紙から、毒を塗っていない短剣を取り出す。

 処刑人のように、それを静かに構え――



 「そう言えば、名乗っていなかったな」



 剣を振り上げながら、私は告げる。



 「――私の名は、キール」



 「……冥土の土産に、持っていくといい」



 無言のまま、魔王メイトはうなだれていた。



 そして私は――



 その首を、静かに――切り落とした。




 「……終わりましたね、ヒロユキ殿」



 「……クルッポー」



 あっけないものだ。

 あれほど力の差があった魔王が――毒ひとつで、逆転されるとは。


 いや……これは、ユキさんの“親友”による成果だ。



 我々人間が、アヌビス族や魔族と本格的に戦争になったなら――

 正面からの戦いでは、勝ち目は限りなくゼロに近い。


 だからこそ、こうして“弱点”を突くのは、当然の戦術だ。


 ……この毒の効力。

 もしかしたら――これは、歴史的な大発見になるのかもしれない。



 「……クルッポー」



 「ヒロユキ殿の身体は……まだ、変化なしですか」



 やはり。

 “天秤”を破壊しなければ、解放されないのだろう。



 「ここで少し魔力を回復して、外に出ましょう」



 私は魔皮紙から、《シクラメレンジュース》を取り出す。

 キャップを開けながら、もう一度、メイトの方を見やる。


 その首はすでに切り落とされていたが――

 毒の効果により、血はすでに凝固し、流れ出ることもない。



 「取りあえず、魔皮紙で連絡を――」



 私はジュースを口に含みながら、振り返った。



 「…………ヒロユキ殿?」



 さっきまで――確かに、すぐそこに居たはずの、

 黒いベルドリの姿が。



 どこにも――なかった。


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