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第394話 砂漠に森

 《再び 魔王ピラミッド内部》




 「キールさん! 援護に来たよ!」




 「アオイ……さん? どうしてここが……」




 「アオイさんだけじゃありませんよ!」




 「肯定、二人」




 「ユキさん! ……と?」




 「名前、ユキナ」




 魔王メイトをぶっ飛ばしたアオイの後ろから、ユキとユキナがピラミッドに駆け込んでくる。




 「キールさん、今なら立てるはずです」




 ユキのその言葉に、キールは力を込めて地面を押す――

 ……先ほどまでの異常な重力が、まるで嘘のように消えていた。




 「……どうして?」




 戸惑うキールに、ユキが簡潔に説明する。




 「アオイさんの放った【零式拳砕】は、魔力のバランスを崩す技です。魔王の重力支配も今だけは崩れているはず」




 「なるほど……だが、それを魔王もすぐ察知するだろうな」




 「ですから、“今のうちに”です。外へ!」



 「……了解した!」






 「ヒロユキさんも、気配遮断ローブを着て近くにいるんですよね? ……出てこなくていいです。今、悟られるわけにはいきませんから」




 「っ……」




 キールは一瞬だけ、言葉に詰まった。


 ヒロユキが気配遮断ローブを使っていたのは事実。

 だが――アオイもユキも、まだ“真実”を知らないのだ。




 「キールさん?」




 「……いや、何でもない。ヒロユキ殿も、きっと聞いていると思います」




 キールは嘘をついた。

 今、真実を話せば動揺が広がる。判断が狂う。

 ――それだけは避けなければならなかった。




 「アオイさんも、行きますよ!」




 「うん!」




 首を切られた黄金の鎧と、崩れ落ちた魔王を残して――

 一行はピラミッドの外へと走り出る。




 「……っ、こ、これは……」




 キールは足を止め、目の前の光景に言葉を失った。




 かつて肌を焼いていた強烈な太陽は、いまや灰色の雲に隠され――

 無限に広がっていたはずの砂漠は、その表面から木々を芽吹かせていた。


 ピラミッドを中心に、まるで“森”が育っているように。




 「驚くのは後にしてください、こちらです」




 ユキが足早に向かったのは、ピラミッドのすぐ横。

 地面に魔皮紙をあてがうと、土が割れ、《地下シェルター》の扉が開いた。




 「灯台もと暗しってやつです。一旦ここに隠れましょう」




 次々に仲間たちが中へと入っていく中――

 ユキは一人、静かに周囲を見回し、誰もいない空間へ声をかける。




 「ヒロユキさんも、入りましたよね? ……閉めますからね。入ってなかったら……知りませんよ」




 扉が閉まり、上から土がゆっくりと覆い隠していく。




 ユキのその言葉は、

 誰にも――届くことはなかった。



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