「おせぇぞ、オイ!」
「っ!」
踏み込んだ瞬間――トミーの金棒が唸る!
リュウトは咄嗟にレイピアでガードを取るも、まるで野球のフルスイングのような一撃に弾き飛ばされた。
「くっ!」
空中で回転しながら、背後の木を蹴る。
まるで水泳選手のターンのように勢いを反転させ、再びトミーに突進するリュウト――!
「同じ手を繰り返してどうする、コラァ!」
2度目の突きも、読まれていた!
「はぁぁぁあっ!!」
「っ!」
――だが、リュウトは咄嗟に額を突き出し、金棒の一撃を受け止めた。
バギィッ!!
鋭い音と共に、金棒がへし折れる――!
「なっ……あぁ?」
「ここだッ!」
トミーの虚を突くように、リュウトは渾身の突きを顔面へと放つ!
ズガッ!
しかし!
「へめー……ふこひはやふひゃねーか」
「う、うそ、だろ……!?」
――レイピアは、確かにトミーの顔を捉えた。だが、それを“口”で咥えて止めたのだ!
ガリィッ、と鉄を噛むような不快な音と共に――
「おい、なんだその額……甲殻か?」
「ちっ!」
「舌打ちしてんじゃねーよ、コラァ!!」
トミーがリュウトの装備を掴み、そのままぶん投げる!
「ぐっ……!」
しかし、リュウトはその勢いを利用し、崖にぶつかる直前に方向を反転――!
“そのまま空中へと飛翔する!”
「――稲妻落とし!!」
リュウトが天高く放ったレイピアが、雷を纏いながらトミー目掛けて一直線に降下する!
ゴオォォォォ……!!
上空から放たれる“雷槍”。
「…………」
トミーは冷静に後方へ跳躍して、真上からの一撃を回避する。
だが――
「曲がれ!」
「!?」
雷を纏ったレイピアが、空中で軌道を捻じ曲げ――トミーを追尾してきた!
「おいおい……どっかで見たことあんな」
ポケットから箸のようなものを取り出したトミーは、それを瞬時に十手に変形させ、レイピアを絡め取って地面へ突き刺す。
その隙に、リュウトは着地を終えていた。
「……」
「あーおい……魔王の力を使ってやがるな?」
「……答える義理はない」
「あーおい……確かにテメーの手の内を晒す様な事はしないだろう……だがな」
トミーがレイピアを蹴り飛ばす!
「ぐあっ!」
レイピアは一直線に飛び、リュウトの肩へ――深々と突き刺さった!
「“硬質”が間に合わねぇなら、ただの的だな」
トミーが口元を吊り上げて言い放つ。
「たとえ魔王の力の劣化コピーを使えたとしても、
「……それでも、前よりは――“届いてる”感じはする」
リュウトは顔をしかめつつ、肩からレイピアを引き抜き、再び構える。
「……あ?」
互いに次の手を読み合おうとした、その刹那――
「てやーっ!!」
「ッ!?」
茂みから、細く鋭い火柱がトミーに向けて放たれる!
「あーおい?……邪魔すんじゃねぇよ、殺すぞコラァ!!」
怒りのままに、トミーは十手を炎の飛んだ方向へ投げつける。
「落ちろ!」
リュウトは瞬時に十手の軌道を逸らして地面へと落とさせる。
「面倒くせぇ能力だなおい……もういい、遊びは終わりだ。お前ごと、そいつもまとめてブチ殺してやるよ」
ズズン……と足音を立てて、トミーが近づいてくる。
「……ぐ、はっ」
「あーおい……やっぱ反動が来やがったか。あんだけ世界の理に干渉したんだ、そりゃタダじゃ済まねぇわな」
リュウトは膝をつき、血を吐く……身体が、もう限界を訴えている。
「……だめっ!」
「はぁ?」
茂みをかき分けて現れたのは――
「ユ、ユキ……」
金髪の、小さな魔法使いの少女だった。
「ガキがガキを連れて歩いてんじゃねぇよ、オイ」
「ユキは……がきじゃないです! いまはちょっと変身できないだけで……おとな、です!」
小さな身体を震わせながら、それでもユキは両手を広げてリュウトの前に立つ――
「………………」
「ひっ……」
トミーの鋭い殺気が、真っ直ぐにユキへと向けられる。
だが――
「こ、こわく……ないです! ユキは……ユキは、おかぁさんみたいに……つよくなる、です!」
小さな身体を震わせながらも、ユキは目を逸らさず、まっすぐにトミーを見つめる。
涙ひとつこぼさず、拳を握りしめて。
「……………………………………」
長い沈黙の後、トミーが小さく、ため息を吐いた。
「……チッ、なんなんだよ、お前らはよ……」
呟きながら、ゆっくりとリュウトたちに背を向ける。
「…………」
何も言わず、誰も追わず――
トミーは、その場を静かに去っていった。
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《数時間後》
「…………」
木の上で目を覚ましたトミーの耳に、通信越しの声が届く。
{目が覚めたかい、トミー}
「ミカか……」
{その通り。みんなのマスコット、ミカたんだよ}
「おいおい……マスコットだ?てめー、男だろ」
{うん、肉体的にはね。でも最近の流行りは《男の娘》ってやつらしいよ。性別なんて気にしてるの、もう古いんじゃないかな}
「知らねーよ」
{ま、それは置いといて……眠気に襲われたでしょ}
「…………」
{隠さなくていい。それ、
「……で?」
{驚かないんだね。まぁ、あの子が《キャンサー》や《サジタリウス》の力を使ってるのも見てるし、今更か}
「だから何だ。そんなもん、あいつが強くなるためなら何でもありだろ」
{うん、私もそう思ってる。でも、驚いたのはそこじゃない}
トミーの眉が僅かに動いた。
{――どうして、見逃したの?}
「……」
{私の視界には、君があの二人を殺せる隙が何度もあったように見えた。魔王力を使われた影響で眠気が来てたとしても……君なら一瞬で終わらせられたはずだよね}
「…………」
{おかげで、こっちは計画の練り直しだよ。これ以上進めば……六英雄同士で衝突する未来は避けられない}
「構わねぇよ……元々、俺が望んで手に入れた称号でもねぇ。切るぞ」
{……まだ話は――}
ピッ、と通信が一方的に切断される。
「………………チッ……あのガキが」
呟きひとつ。
トミーは再び木の上に横になり、静かに瞼を閉じた。