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第458話 トミーVSリュウト

 「おせぇぞ、オイ!」


 「っ!」


 踏み込んだ瞬間――トミーの金棒が唸る!

 リュウトは咄嗟にレイピアでガードを取るも、まるで野球のフルスイングのような一撃に弾き飛ばされた。


 「くっ!」


 空中で回転しながら、背後の木を蹴る。

 まるで水泳選手のターンのように勢いを反転させ、再びトミーに突進するリュウト――!


 「同じ手を繰り返してどうする、コラァ!」


 2度目の突きも、読まれていた!


 「はぁぁぁあっ!!」


 「っ!」


 ――だが、リュウトは咄嗟に額を突き出し、金棒の一撃を受け止めた。


 バギィッ!!


 鋭い音と共に、金棒がへし折れる――!


 「なっ……あぁ?」


 「ここだッ!」


 トミーの虚を突くように、リュウトは渾身の突きを顔面へと放つ!


 ズガッ!


 しかし!


 「へめー……ふこひはやふひゃねーか」


 「う、うそ、だろ……!?」


 ――レイピアは、確かにトミーの顔を捉えた。だが、それを“口”で咥えて止めたのだ!


 ガリィッ、と鉄を噛むような不快な音と共に――


 「おい、なんだその額……甲殻か?」


 「ちっ!」


 「舌打ちしてんじゃねーよ、コラァ!!」


 トミーがリュウトの装備を掴み、そのままぶん投げる!


 「ぐっ……!」


 しかし、リュウトはその勢いを利用し、崖にぶつかる直前に方向を反転――!


 “そのまま空中へと飛翔する!”


 「――稲妻落とし!!」


 リュウトが天高く放ったレイピアが、雷を纏いながらトミー目掛けて一直線に降下する!


 ゴオォォォォ……!!


 上空から放たれる“雷槍”。


 「…………」


 トミーは冷静に後方へ跳躍して、真上からの一撃を回避する。


 だが――


 「曲がれ!」


 「!?」


 雷を纏ったレイピアが、空中で軌道を捻じ曲げ――トミーを追尾してきた!


 「おいおい……どっかで見たことあんな」


 ポケットから箸のようなものを取り出したトミーは、それを瞬時に十手に変形させ、レイピアを絡め取って地面へ突き刺す。


 その隙に、リュウトは着地を終えていた。


 「……」


 「あーおい……魔王の力を使ってやがるな?」


 「……答える義理はない」


 「あーおい……確かにテメーの手の内を晒す様な事はしないだろう……だがな」


 トミーがレイピアを蹴り飛ばす!


 「ぐあっ!」


 レイピアは一直線に飛び、リュウトの肩へ――深々と突き刺さった!


 「“硬質”が間に合わねぇなら、ただの的だな」


 トミーが口元を吊り上げて言い放つ。


 「たとえ魔王の力の劣化コピーを使えたとしても、俺達六英雄は本物の魔王どもを相手にしてきた連中だぜ?」


 「……それでも、前よりは――“届いてる”感じはする」


 リュウトは顔をしかめつつ、肩からレイピアを引き抜き、再び構える。


 「……あ?」


 互いに次の手を読み合おうとした、その刹那――


 「てやーっ!!」


 「ッ!?」


 茂みから、細く鋭い火柱がトミーに向けて放たれる!


 「あーおい?……邪魔すんじゃねぇよ、殺すぞコラァ!!」


 怒りのままに、トミーは十手を炎の飛んだ方向へ投げつける。


 「落ちろ!」


 リュウトは瞬時に十手の軌道を逸らして地面へと落とさせる。


 「面倒くせぇ能力だなおい……もういい、遊びは終わりだ。お前ごと、そいつもまとめてブチ殺してやるよ」


 ズズン……と足音を立てて、トミーが近づいてくる。


 「……ぐ、はっ」


 「あーおい……やっぱ反動が来やがったか。あんだけ世界の理に干渉したんだ、そりゃタダじゃ済まねぇわな」


 リュウトは膝をつき、血を吐く……身体が、もう限界を訴えている。


 「……だめっ!」


 「はぁ?」


 茂みをかき分けて現れたのは――


 「ユ、ユキ……」


 金髪の、小さな魔法使いの少女だった。


 「ガキがガキを連れて歩いてんじゃねぇよ、オイ」


 「ユキは……がきじゃないです! いまはちょっと変身できないだけで……おとな、です!」


 小さな身体を震わせながら、それでもユキは両手を広げてリュウトの前に立つ――


 「………………」


 「ひっ……」


 トミーの鋭い殺気が、真っ直ぐにユキへと向けられる。


 だが――


 「こ、こわく……ないです! ユキは……ユキは、おかぁさんみたいに……つよくなる、です!」


 小さな身体を震わせながらも、ユキは目を逸らさず、まっすぐにトミーを見つめる。


 涙ひとつこぼさず、拳を握りしめて。


 「……………………………………」


 長い沈黙の後、トミーが小さく、ため息を吐いた。


 「……チッ、なんなんだよ、お前らはよ……」


 呟きながら、ゆっくりとリュウトたちに背を向ける。


 「…………」


 何も言わず、誰も追わず――


 トミーは、その場を静かに去っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《数時間後》


 「…………」


 木の上で目を覚ましたトミーの耳に、通信越しの声が届く。


 {目が覚めたかい、トミー}


 「ミカか……」


 {その通り。みんなのマスコット、ミカたんだよ}


 「おいおい……マスコットだ?てめー、男だろ」


 {うん、肉体的にはね。でも最近の流行りは《男の娘》ってやつらしいよ。性別なんて気にしてるの、もう古いんじゃないかな}


 「知らねーよ」


 {ま、それは置いといて……眠気に襲われたでしょ}


 「…………」


 {隠さなくていい。それ、多分アリエスの称号――“眠りの魔王”由来の影響だよ}


 「……で?」


 {驚かないんだね。まぁ、あの子が《キャンサー》や《サジタリウス》の力を使ってるのも見てるし、今更か}


 「だから何だ。そんなもん、あいつが強くなるためなら何でもありだろ」


 {うん、私もそう思ってる。でも、驚いたのはそこじゃない}


 トミーの眉が僅かに動いた。


 {――どうして、見逃したの?}


 「……」


 {私の視界には、君があの二人を殺せる隙が何度もあったように見えた。魔王力を使われた影響で眠気が来てたとしても……君なら一瞬で終わらせられたはずだよね}


 「…………」


 {おかげで、こっちは計画の練り直しだよ。これ以上進めば……六英雄同士で衝突する未来は避けられない}


 「構わねぇよ……元々、俺が望んで手に入れた称号でもねぇ。切るぞ」


 {……まだ話は――}


 ピッ、と通信が一方的に切断される。


 「………………チッ……あのガキが」


 呟きひとつ。


 トミーは再び木の上に横になり、静かに瞼を閉じた。

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