「あぁ?……おい、てめぇに名前を名乗った覚えはねぇんだけど?」
「こっちは苦い記憶が残ってる……調べてさせてもらった」
「へっ……人間からかき集めた情報なら、肩書きと伝説くらいは拾えるか」
「……あぁ。英雄譚は美化されるもんだからな」
「チッ、反吐が出るぜ……あの頃は“暴れ場”があるって話に乗っかって手伝っただけだ。遊びのつもりが、気づきゃこのざまだ……」
トミーが手の甲を掲げる。光とともに浮かび上がるのは《六英雄》の紋章。
「で? なんで今さら俺の前に現れた?」
「あぁ? 決まってんだろ」
トミーが地面から適当に拾った木の枝を握ると――
瞬時に、それはリュウトのレイピアと同型の武器へと変貌する。
「“てめぇを殺す許可”が出たから、殺しに来た」
「させないっ!」
リュウトの前に立ち塞がるみや。両手を広げて、彼を守ろうとする。
「あ? てめぇ……」
「リュウトは……ここで死ぬような存在じゃないっ!」
「へぇ? “存在”じゃねぇ? だったらどうする気だ?お前ごときが前に出て、何か変わると思ってんのか?」
「…………」
「……いい、みや。下がってろ」
「!? リュウトっ……」
「みんなも隠れるな。もう意味はない」
その声に応じて、岩陰からパーティーメンバーたちが姿を現す。
ユキ以外、全員が武器を構えていた。
「動かなくていい。こいつは……最初から気づいてる。下手に攻撃した奴から順に殺されるだけだ」
「……ようやく話が通じる奴になったな」
「…………」
「……この場所じゃ狭ぇな。変えるぞ」
「……あぁ」
「お前らは、ついてくんなよ?」
トミーは手に持ったレイピアを、みやの足元へと無造作に投げ突き刺す。
――それは“リュウトだけ来い”という、無言の合図。
「……」
「…………」
トミーが無言で歩き出す。それに続いて、リュウトも静かに歩き出した。
「……なぁ」
「んだよ」
「なぜ……あの時、俺を見逃した?」
「は?」
「……あの時の俺は弱かった。殺すなら、簡単だったはずだ」
「……おいおい、殺すのに“今”とか“昔”とか関係ねぇだろ。結局、やるかやられるか……それだけだ」
「…………」
「――この辺りでいいか」
トミーが地面に転がる石を拾う。その石は形を変え、無骨な金棒へと変化する。
リュウトもレイピアを構え、深く息を吐いた。
「……あーおい、全力で来いよ。手ぇ抜いたら、死ぬぞ」
「行くぞ、《六英雄》――!」
リュウトが地を蹴った。
踏み込みとともに、レイピアが突き出される!