《数日前》
「どうだ?アオイの解析は」
アバレー王国所有地の名もない山の中の地下研究所。
元々ここはレイロウが率いる『女神の翼』の奴隷教育の施設だったのを改造したのだ。
エスは魔法コンピュータの前に座っている白髪ツインテールの白衣を着た男……ミカに後ろから話しかける。
「素晴らしい、それとしか言いようがないよ、彼女は」
エスに対して背を向けたまま話すミカ。
「それは分かってる」
「いや、分かってない、彼女を調べれば調べるほど解らない事が出てくるんだ「それを解ってる」などと軽く__」
「お前の言う“素晴らしい”は調べ上げて答えは出るものなのか?」
「…………」
それを言われてミカは黙る……エスの言うことは正しい。
「それで、結果は?」
「まぁ待ちなよ、さっきも言った様に彼女の身体は調べれば調べるほど謎が出てくるんだ……今わかってるものを一つずつ説明しよう」
そういってミカはエスの方向を向いて映像をエスに投げる。
「まず彼女の魔力についてだが、常人より遥かに少ない、普通の人を100とすると彼女の魔力は5と言うところだろう、ちなみに家庭の水を出すのに必要な魔力は1だ、そう考えると彼女は毎日魔力切れを起こす生活になる」
「……」
「だが、これを見てくれたまえ」
ミカはグリード城で作っていたアオイの装備服をエスに投げた。
「?」
「その装備には筋力を超人的にする身体強化の上位魔法陣も組み込まれている、その他にも多種多様な魔法があるが、君が言うにはまったく発動してなかったんだろ?」
「あぁ、まるで装備を着ていないのと変わらなかった、不良品だったのか?」
「言葉に気をつけたまえ、私達が作っていてそれはあり得ない……まぁ、そうだな、あり得ない事が起こっていた」
「?」
「魔法陣がほとんど壊滅的に壊れている」
「魔法陣が壊れる?聞いた事ないぞ」
「聞いた事ないだろうね、商品化されている魔皮紙や装備はそう言うテストをクリアしてるものばかりなのだから」
「なるほど、テストが甘かったんじゃないのか?実際、市販の装備は発動してた様だが?」
「本当に君は私達を馬鹿にしたいらしいな……それは装備の力じゃ無く彼女の中にいるボスの力だ、理に干渉する神の力を使って魅せていただけ……そりゃそうだろう?「足装備に魔力を流してスピードがアップする」なんて文で読めば誰もが装備のおかげと思うに決まってる」
「話が長い」
「これだからバカは困る、例えを出そう、一般人が使う【光源】ですら魔法陣を壊すのに超級魔法2つ分の魔力が必要だ、その何100倍もの魔力を注いでもこの装備は壊れないぞ……つまり__」
「……っ」
「……異様な装備で顔を隠してても嬉しそうなのは解る」
「ふんっ……」
エスはアオイが褒められてる様で心の底で嬉しかったのをミカに見透かされた。
「魔力が小さいのに魔法陣を壊すほどの魔力量、まずはここに私は注目して調べた……結果、やはり彼女の身体が特別だった様だ」
映像の画面が切りかわる。
「普通の人間は魔力を貯蔵しそれから魔法陣を通してこの世界に干渉させている、その貯蔵量は人により違って努力をすれば増幅する……そうだな人間の筋肉みたいなものだ、当然維持をしようと訓練を怠ると少しずつ減っていく」
「……」
「まぁ、人や魔物の生命を魔力に変換して自分のものにする君にはもう縁のない事だ」
「それで、アオイの身体は何なんだ?」
「一言で言おう、彼女は無限の魔力を持っている」
「無限?」
「あぁ、私達の魔力を外に出す手順は細かく言うと……1.身体の魔力をイメージで使いたい部分へ持ってくる。2.手や足、髪の毛など身体の一部を魔法陣に当てる。3.魔法陣がゲートとなり魔力を吸い出して変換、通った魔法陣によって色々な事が起こる」
「基本だな」
「そう、学校を途中でやめた割には覚えてるじゃないか」
「ちっ……」
「彼女の場合2.5の手順が存在する」
「それは?」
「2.5__魔力が身体を通した瞬間、魔力量が変換され増幅して出てくる……それも私達の想像より遥かに多く」
「それが魔法陣の壊れた理由か」
「そうだとも」
「無限ではなさそうだが」
「想像以上に増幅されて出てきてる、1が100万になって出てくるんだ、人間に備わっている自然回復量の方が勝ってる……つまりどんな特大魔法を撃ち続けてもずーっと満タンのままなんだ」
「なるほど」
「強くなりたいって言ってたんだね?充分強いさ、今まではただ彼女の能力を最大限に活かせなかっただけ……だけど、安心したまえ」
そう言ってまた映像が切りかわるとそこにはアオイの新装備の詳細が出てきた。
「私が来たからには彼女を最強にしてあげよう」