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第464話 《六英雄》全員集合

 「ヒロユ__」


 ユキが名前を言い終わる前に、レナノスの小刀が容赦なく振るわれた。ユキの首が落ちる。そして、すぐさまたまこの首元へと刃が添えられる。


 「……」


 「……」


 「どうしたの〜……?」


 たまこの声は柔らかく、それでいて揺るがなかった。


 「……どうやら、君は“本物”らしい」


 「ふふ、流石ね〜」


 レナノスの後ろで、倒れていたヒロユキたちの“死体”がボロボロと崩れ、やがて土の塊へと変わっていく。


 「アクエリアスの力……それに幻覚は……カプリコーンか」


 「……どうして気付いたの〜?」


 「勇者の頬をかすめた時、血が出なかった。あの時から違和感はあった。そして、このドームも……同じ類だろう。俺たちは魔王と戦ってきた。その記憶も、紋章と共に刻まれているはずだ」


 「……なるほどね〜」


 「それで、君は何をしている?……死にたいのか?」


 「私はね、アナタに会えるこの日を……ずっと、ずーっと待ってたのよ」


 「……」


 「アナタのためなら……何だってできる、そう思ってた」


 「……」


 「でもね……実際に目の前にしてみたら……私は迷ったの」


 「だから俺に、殺されようと?」


 「ううん。これは……私の賭け。……そして、私の勝ちよ〜」


 「!?」


 たまこは、そっとレナノスを抱きしめた。


 「アナタは、私を殺せなかった……」


 「……たまこ……俺は__」


 レナノスが何か言いかけたその時。


 ――バキィッ!


 土のドームが音を立てて崩れ始めた。


 「危ない!」


 崩れ落ちる天井――それを見たレナノスは、ためらいなくたまこの体を抱き寄せ、影へと沈んでいった。


 ____


 ドームが完全に崩壊し、光源バーストの効果も切れる。再び辺りに、濃い闇が戻る。


 その闇の中から、レナノスとたまこが静かに現れた。



 「あーおい?社内恋愛が禁止じゃねぇのはいいとしてよ……よくわかんねぇドーム作って、2人きりでイチャイチャするなら他でやれや」


 「武神か」


 「トミーさん〜?」


 長槍の柄で自分の肩をポンポン叩きながら、出てきたレナノスたちを面倒くさそうに見下ろしている男――それがドームを破壊した張本人、トミーだった。


 それに気づいたレナノスとたまこは、さりげなく少し距離を取る。


 「それより……救難信号、出したのはお前だな?」


 「そうよ〜。さっきレナノスさんに助けてもらったの〜」


 「ああ、そりゃあ良かったな。“俺たちは、ちっとばかし遅かった”ってワケか」




 トミーの言葉に続くように、空から凛とした女の声が降ってきた。


 「……遅れはしましたが、無事で良かったです」


 月を背にして降り立ったその姿は、人間味の薄い白い肌と、輝く尻尾をもつ女――


 「ウジーザス様」


 「…………」


 レナノスはその場で静かに頭を垂れ、たまこは黙ってその姿を見つめていた。


 「顔を上げてください。それと……もう出てきていいですよ、マーク」


 ウジーザスの言葉に応じて、森の方から暗闇でも際立つ純白のスーツとシルクハットの人物が、ゆったりと歩いてくる。


 「俺はこのまま出なくても良かったと思いますけどねぇ、ボス?」


 「ふふ。例えこれが“偽の救難信号”だったとしても、こっそり聞き耳を立てて帰るのはどうかと思いまして」


 「……偽の、救難信号〜?」


 「えぇ。それ以上、あなたは何も言わなくて大丈夫です。私には、すべて見えてますから」


 「…………」


 「で、こいつの処分はどうしますか? ボス?」


 マークは手袋に包まれた指先から魔法陣を展開し、たまこに向ける。


 「……」


 それを見たレナノスが、すっとたまこの前に立って小刀を構えた。


 「おやおや、どういうつもりですかね? “暗殺神”レナノスさん」


 「彼女は……勇者にたぶらかされているだけだ。正気に戻れば、我らの戦力になり得る」


 「はぁ……」


 マークは小さくため息をついてから、ウジーザスに視線を送った。


 「今は仲間同士で争っている場合ではありません、マーク」


 「……そうですか。じゃあ俺は帰りますよ」


 「……いいえ、待ってください、マーク」


 帰ろうと背を向けたマークに、ウジーザスがぴたりと言葉を投げる。


 「まだ、話は終わってません」


 「……なんです?」


 「本当に残念です」


 「……?」


 「“仲間同士で争っている暇はない”というのに……ねぇ、トミーさん?」




 「はッ! 相変わらず厄介だなぁ……【未来視】ってのはよ、おい!」




 トミーは足元の石を蹴り飛ばし、それをナイフに変形させてウジーザスに向けて放つ――が、白い尻尾で軽く弾かれ、ナイフは地面に突き刺さった。



 「……どういうつもりだ、武神。その行動は……我らを“裏切る”と見ていいのか?」


 レナノスの問いに、殺気はない。だが、確かに問い質す意志だけは伝わってくる。


 「あーおい? “裏切る”もクソもねぇ。そもそも俺は昔から、テメーらと“組んだ覚え”なんてねぇんだわ」


 トミーは長槍の柄を肩に担ぎ直しながら、面倒そうに吐き捨てた。


 「……ただでさえ目ぇ覚ましたら、新入りの顔しか見ねぇ。そんなガキどもがいきがってんじゃねぇよ、おい?」


 「やれやれ……親父から“武神は敵に回すと面倒だ”って言われてたけど……やっぱり、か」


 状況を読み込んだマークは、たまこに向けていた魔法陣をそのままトミーに向けなおした。


 「どうしますか、トミー……あなたひとりで、私とこのふたりを止められるとでも?」


 「あぁ? 二人? あの獣人は数に入れてねぇのかよ。アイツ入れても余裕なんだけど?」


 「彼女の未来は複雑に絡み合っています。確定していない者は“戦力”とは見なしません」


 「…………」


 たまこは言葉も出せず、ただ沈黙のまま見守るしかなかった。


 「死ぬ前に一つ、教えてください。どうして裏切ったんですか?」


 「あぁ? “死ぬ前”? 逆だろ。てめーらの“冥土の土産”に教えてやるよ」


 トミーは懐から魔皮紙を取り出し、無造作に魔力を通す。


 「――俺達の大将だ」


 その瞬間、風が荒れ狂い、草木がたわみ、疾風と共に“何か”が現れた――


 「疾風参上っ!」


 風をなびかせながら現れたのは、整った金髪と優美な曲線を持つ美少女。


 「えーっと……初めまして、かな?」


 白く透き通るような肌。吸い込まれるほど深い、青い瞳。


 「新しく《六英雄》の一員になりました、『女神』のアオイです。よろしくお願いしますっ♪」



 ――この世の美と可憐を宿した彼女の手の甲には、確かに六英雄の紋章が光っていた。










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