レナノスは一瞬で姿を消した。
「……っ!」
気づけば、ヒロユキの太刀が宙に浮かされ、その刃先が上空へ逸らされていた。
「アニキ!」
すかさずジュンパクが横合いから鎌を振るう――だが。
「甘い」
レナノスの小刀が鎌を受け止め、火花が散る。
「ジュンパク!そのまま!」
ユキの叫びと同時に、魔力が炸裂する。爆炎がその場を包み、巨大な火柱がレナノスとジュンパクを呑み込んだ。
「仲間ひとりを犠牲……ではないか」
「ご名答!ユキ姉貴の最大弱点は範囲の調整!今まではミー達が邪魔で撃てなかったけど、今回は装備に極限まで炎耐性をつけ__」
「……話が長い」
レナノスは炎の中から飛び出し、後方へ回避――だが、その着地を狙っていた者がいた。
「……」
空中から落ちてきた太刀を、ヒロユキが逆手に掴む。勢いを乗せて振り下ろした斬撃がレナノスを襲う。
「連携か……悪くない」
レナノスは腰の二本目の小刀を抜き、無造作に投げる。
「っ!」
小刀はヒロユキの頬をかすめ、天井へ突き刺さる。直後、レナノスはもう一方の小刀で下からヒロユキの太刀を受け止めた。
「……」
「流石、魔王を斃しただけはある。だが……この程度では届かん。何か、隠しているな?」
刃を交えたまま、レナノスは余裕すら感じさせる声音で呟く。
――ヒロユキがいかに力を込めようとも、小刀はびくともしない。まるで地に根ざした鉄柱のように、受け止めている。
「…………【グラビヴィティー】」
「!?」
呟きと同時に、圧が走る。
レナノスの身体へ“重力”がのしかかる――瞬間、太刀が押し返し始めた。
「っ……これは……!」
「……」
形勢は、逆転した。
重力の制御――魔王を倒した代償として得た力。
「(……なるほど、魔王を殺せばその力が宿るというのか……侮れん)」
「……!」
レナノスはヒロユキの“影”に入り込んだ。
「アニキ!」
ジュンパクがすぐさま駆け寄り、ヒロユキと背中を合わせて構える。
「これがユキのアネキが言ってた【影移動】だね」
「……あぁ」
「一度入られたら最後、出てくるまでこちらからは攻撃できない……」
「だが、【光源バースト】のおかげでこのドーム内にある影は、俺たち自身のものだけだ」
「いや〜ほんとアレ凄いよねっ!【光源】に魔力をめっちゃ注いだらバーストになるとか、よく気づいたよユキ姉貴……略してユキ姉!」
「……ジュンパク、喋るのはいいが気は抜くな」
「もちろん!命に代えてもアニキの背中は守るって決めてるからねっ。アニキが信じるミーを信じてっ!」
「……あぁ」
ふたりは地面の影を注視しながら、緊張を保っていた――
――だが、それでも甘かった。
影は、“光の角度によって上にも生まれる”のだ。
「っ! ヒロユキさん、ジュンパク!」
異変に最初に気づいたのはユキだった。
彼女は周囲の影を見て、ほんのわずかな“違和感”に反応したのだ。
「上ですっ!」
「!!!」
声に即応してふたりが天井を見上げた、その刹那――
「もう、遅い」
瞬間、レナノスの小刀が影から現れ、
___ふたりの首は、音もなく地に落ちた。