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第463話 【暗殺神】レナノス

 レナノスは一瞬で姿を消した。


 「……っ!」


 気づけば、ヒロユキの太刀が宙に浮かされ、その刃先が上空へ逸らされていた。


 「アニキ!」


 すかさずジュンパクが横合いから鎌を振るう――だが。


 「甘い」


 レナノスの小刀が鎌を受け止め、火花が散る。


 「ジュンパク!そのまま!」


 ユキの叫びと同時に、魔力が炸裂する。爆炎がその場を包み、巨大な火柱がレナノスとジュンパクを呑み込んだ。


 「仲間ひとりを犠牲……ではないか」


 「ご名答!ユキ姉貴の最大弱点は範囲の調整!今まではミー達が邪魔で撃てなかったけど、今回は装備に極限まで炎耐性をつけ__」


 「……話が長い」


 レナノスは炎の中から飛び出し、後方へ回避――だが、その着地を狙っていた者がいた。


 「……」


 空中から落ちてきた太刀を、ヒロユキが逆手に掴む。勢いを乗せて振り下ろした斬撃がレナノスを襲う。


 「連携か……悪くない」


 レナノスは腰の二本目の小刀を抜き、無造作に投げる。


 「っ!」


 小刀はヒロユキの頬をかすめ、天井へ突き刺さる。直後、レナノスはもう一方の小刀で下からヒロユキの太刀を受け止めた。


 「……」


 「流石、魔王を斃しただけはある。だが……この程度では届かん。何か、隠しているな?」


 刃を交えたまま、レナノスは余裕すら感じさせる声音で呟く。

 ――ヒロユキがいかに力を込めようとも、小刀はびくともしない。まるで地に根ざした鉄柱のように、受け止めている。


 「…………【グラビヴィティー】」


 「!?」


 呟きと同時に、圧が走る。

 レナノスの身体へ“重力”がのしかかる――瞬間、太刀が押し返し始めた。


 「っ……これは……!」


 「……」


 形勢は、逆転した。

 重力の制御――魔王を倒した代償として得た力。


 「(……なるほど、魔王を殺せばその力が宿るというのか……侮れん)」


 「……!」


 レナノスはヒロユキの“影”に入り込んだ。


 「アニキ!」


 ジュンパクがすぐさま駆け寄り、ヒロユキと背中を合わせて構える。


 「これがユキのアネキが言ってた【影移動】だね」


 「……あぁ」


 「一度入られたら最後、出てくるまでこちらからは攻撃できない……」


 「だが、【光源バースト】のおかげでこのドーム内にある影は、俺たち自身のものだけだ」


 「いや〜ほんとアレ凄いよねっ!【光源】に魔力をめっちゃ注いだらバーストになるとか、よく気づいたよユキ姉貴……略してユキ姉!」


 「……ジュンパク、喋るのはいいが気は抜くな」


 「もちろん!命に代えてもアニキの背中は守るって決めてるからねっ。アニキが信じるミーを信じてっ!」


 「……あぁ」


 ふたりは地面の影を注視しながら、緊張を保っていた――




 ――だが、それでも甘かった。


 影は、“光の角度によって上にも生まれる”のだ。


 「っ! ヒロユキさん、ジュンパク!」


 異変に最初に気づいたのはユキだった。

 彼女は周囲の影を見て、ほんのわずかな“違和感”に反応したのだ。


 「上ですっ!」


 「!!!」


 声に即応してふたりが天井を見上げた、その刹那――


 「もう、遅い」


 瞬間、レナノスの小刀が影から現れ、


 ___ふたりの首は、音もなく地に落ちた。











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