「……!」
ヒロユキたちが静かに構える中、不気味に影が蠢き出す。
「なるほど……俺は誘い出されたか。兄者が気付いたのも、何か関係があるんだろうな?」
「っ!」
たまこは、その姿を目にした瞬間、こみ上げる涙を必死にこらえる。
現れたのは――六英雄の一人、《暗殺神》レナノスだった。
「ヒロユキさん!」
「……あぁ」
ヒロユキが頷くと同時に、地面が大きく隆起し、彼らを包むように巨大な土のドームが形成される。
「【光源バースト】!」
真っ暗になった空間に、ユキが小型の太陽のような魔法を打ち上げ、辺りを照らす。
「皆さん、まぶしいですが我慢してください! 相手は“影”を使います!」
「ふふっ……ついに来たか、ミーの眼帯解禁タイム!」
「「「…………」」」
「……え? なんでみんな『忘れてた』みたいな顔してるの!?」
「……すまん」
「アニキまで!?」
「とにかく、これで夜のレナノスさんの強みは封じました。できれば、戦いたくはありません。話し合いで解決できませんか?」
「俺の能力まで知っておきながら、それを言うか……」
「えぇ。ですが、もしあなたが冷酷な暗殺者だったなら、今この場に私たちの首はなかったはずです」
――彼が手を下さない理由。それは、ヒロユキたちの中に“たまこ”がいるからだ。
ユキはそれを知っていた。たまこの存在がなければ、今ごろ皆殺しにされていただろう。
「……兄者が俺を見つけられたのも、お前の仕業か?」
「はい。あなたが命日になると、あの道場にバンガさんを見に来ることを利用しました」
「……それを、なぜ知っている?」
「さあ……本人が、つい話したんじゃないですか?」
「……もういい。君と話すことはない。――それで」
レナノスはたまこに目を向けた。
「……君が、救難信号を出したのか?」
「…………えぇ」
「自分が何をしたか、わかっているのか?」
たまこは無言で、しかし強く頷く。
「……そうか。君は俺の命の恩人だ。戦いたくない。……此方へ来い、たまこ」
「……迷っていたのだけど……」
「?」
「一緒に、戦えないかしら~?」
「……誰と?」
「……魔神よ」
その言葉が出た瞬間、レナノスの空気が変わった。
「……何を、言っている」
「私たちが力を合わせれば、魔神にも――」
「黙れ!」
「っ!?」
声と同時に、全員が“逆鱗”に触れたと理解する。
「魔族が、世界中で怯えている……! 生き残った者たちは、洞窟に身を潜め、自分たちが滅ぼされる日をただ待っている!」
「そ、それは――」
「それが、なんだ? 確かに魔族の中には、人間を虐げた者もいた。だが、そいつらは魔族の中でも犯罪者として扱われ、俺たち自身の手で裁いていたんだ!」
「……」
ヒロユキたちは言葉を失う。
だが、何かが違う……そう思った時には、もう遅かった。
「……構えろ。お前たちは、壊しすぎた」
レナノスが小刀を構えたと同時に、たまこ以外の全員が戦闘態勢に入った。
「影が少なくとも俺はお前たち如きには負けんぞ」
レナノスの手の紋章が光出してヒロユキパーティーとの戦闘が開始された。