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第461話 救難信号

 {……どうやら、君の言ったことは本当のようだ。約束通り、敷地内は自由に使っていい。今すぐ部下たちも退避させる}


 「ありがとうございます」


 「ユキ姉貴の言葉を疑うなんて、万死に値するんだぞゴラァ!」


 「ジュンパク、黙って」


 「へぶっ!」


 {…………}


 「……相手が相手です。こちらも手加減できるかどうか……最悪の場合、命の保証はできません」


 {構わない}


 その言葉を最後に、通信は途切れた。


 「ありがとうございます……本当は、辛いでしょうに……」


 ユキは小さく呟くと、すぐに表情を引き締める。


 「さて、準備は整いました。みなさん」


 月明かりが差す、広く何もない敷地の中心。ヒロユキたちのパーティーが静かに立っていた。


 「……了解」


 「ミーも準備おっけーだよ♪」


 「…………」


 たまこだけが、俯いて動かない。腑に落ちない――いや、心の整理がまだついていないのだ。


 それも当然だと、ユキは理解していた。


 (……たまこさんにとってレナノスさんは、想い人……きっと、心がまだ決まっていない)


 声をかけようとしたその時、先にヒロユキが言葉を発した。


 「……たまこ」


 「ん?」


 「何を迷ってるか知らないけど……兄さんが、こういうときの対処法を言ってた」


 「へぇ?どんなの〜?」


 「……“全部ひっくるめて、最終的に良い方向の案を実現させろ”……って」


 「……なるほどね〜……気に留めとくわよ〜、ありがと」


 「さっすがアニキの兄貴!迷うってことは悪い方を考えてるってことだから、逆に進めってことだね!」


 「……どんな意味かは、解らない」


 「えっ? なんで?」


 「……兄さんは、言葉足らずだから」


 「「「なるほど」」」


 三人の口から同時に漏れる納得の声。


 ――まるでヒロユキの寡黙さが遺伝したように思われたが……実際はその“兄さん”、意外とよく喋る人物。


 「……じゃあ、お願いします。たまこさん」


 「…………」


 たまこは静かに頷くと、無言で右手を空へと掲げた。


 手の甲に浮かぶ紋章が淡く光を帯び――次の瞬間、空間に展開された魔法陣が静かに輝き出す。


 やがて、そこから伸びる一本の細い光の柱が、音もなく天へと昇っていった。


 それは、六英雄だけが扱える【救難の光】――

 近くにいる全ての六英雄へ“召集”を告げる合図である。


 そして、静寂が戻る。

 光が消えた空の向こうで、誰かがそれを見ている気がした。

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