{……どうやら、君の言ったことは本当のようだ。約束通り、敷地内は自由に使っていい。今すぐ部下たちも退避させる}
「ありがとうございます」
「ユキ姉貴の言葉を疑うなんて、万死に値するんだぞゴラァ!」
「ジュンパク、黙って」
「へぶっ!」
{…………}
「……相手が相手です。こちらも手加減できるかどうか……最悪の場合、命の保証はできません」
{構わない}
その言葉を最後に、通信は途切れた。
「ありがとうございます……本当は、辛いでしょうに……」
ユキは小さく呟くと、すぐに表情を引き締める。
「さて、準備は整いました。みなさん」
月明かりが差す、広く何もない敷地の中心。ヒロユキたちのパーティーが静かに立っていた。
「……了解」
「ミーも準備おっけーだよ♪」
「…………」
たまこだけが、俯いて動かない。腑に落ちない――いや、心の整理がまだついていないのだ。
それも当然だと、ユキは理解していた。
(……たまこさんにとってレナノスさんは、想い人……きっと、心がまだ決まっていない)
声をかけようとしたその時、先にヒロユキが言葉を発した。
「……たまこ」
「ん?」
「何を迷ってるか知らないけど……兄さんが、こういうときの対処法を言ってた」
「へぇ?どんなの〜?」
「……“全部ひっくるめて、最終的に良い方向の案を実現させろ”……って」
「……なるほどね〜……気に留めとくわよ〜、ありがと」
「さっすがアニキの兄貴!迷うってことは悪い方を考えてるってことだから、逆に進めってことだね!」
「……どんな意味かは、解らない」
「えっ? なんで?」
「……兄さんは、言葉足らずだから」
「「「なるほど」」」
三人の口から同時に漏れる納得の声。
――まるでヒロユキの寡黙さが遺伝したように思われたが……実際はその“兄さん”、意外とよく喋る人物。
「……じゃあ、お願いします。たまこさん」
「…………」
たまこは静かに頷くと、無言で右手を空へと掲げた。
手の甲に浮かぶ紋章が淡く光を帯び――次の瞬間、空間に展開された魔法陣が静かに輝き出す。
やがて、そこから伸びる一本の細い光の柱が、音もなく天へと昇っていった。
それは、六英雄だけが扱える【救難の光】――
近くにいる全ての六英雄へ“召集”を告げる合図である。
そして、静寂が戻る。
光が消えた空の向こうで、誰かがそれを見ている気がした。