目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第468話 師弟対決!


 「どうしたんですか?師匠、こんな所に」


 「…………アオイ、この紋章の意味がわかるか?」


 「?」


 アオイはじいさんの紋章をジーーッと見る……だが


 「シャッフル○盟かなんかですか?」


 アオイはこの時点ではまだ何も知らなかった……


 「ふむ、そうか……」


 「ところで、さっきの……」


 「誰かと通信をしていた様だがそちらは聞こえてない、じゃがお前のその格好とさっきの言動で察しがつくわ」


 「あ、はは……お恥ずかしい」


 「__」


 「__!」


 一瞬だった……


 「ほう、これくらいなら止めれるくらいまで成長しておったか」


 師範はその場からノーモーションでアオイに距離を詰めて下から顎に向けて【魂抜き】をくりだしたのだ。

 アオイは本能的に動いた手でたまたまガードが出来た。


 「な、何のつもりですか」


 「新装備に慣れるのだろう?ワシが相手では不満かな?」


 「お手合わせ、ですか?」


 「左様、全力でかかってきなさい」


 「……」


 アオイは師範の足をいなそうとするが動きが読まれ容易く避けられ後ろに距離を取られる。


 「はぁ!」


 すかさずアオイは師範に距離を詰めて連続で攻撃を仕掛けていくが、まるでどこに攻撃が来るか最初から分かっているように師範は軽々と全て避けていく。


 「まだまだじゃのぅ」


 「流石師匠です、新しい装備で前より早くなってるはずなのに当てれる気がしません」


 「ホッホッホ、じゃが弟子に手加減されるとは__」


 「っ!」



 アオイから2メートル程距離をとっていた師範は視界から消え次の声はアオイの耳元で聞こえた。


 「__舐められたものじゃな」


 アオイの腹に拳が叩き込まれそのままアオイは殴り飛ばされる。


 「ガハッ!」


 糸が身体に薄い膜の様に張り巡らされてるのは本当だろう……アオイに叩き込まれた拳の威力は糸を通して分散し和らげ身体の芯までは届かないようにしたが威力が凄まじく殴り飛ばされる結果になったのだ。



 そのままアオイは木の枝を背中で折りながら最後はギャグアニメの様に山の崖地層に突っ込んで中で止まった。



 「し、師匠……流石にやりすぎでは」


 何とか這い出てくると既に師範はアオイを待っていた。


 「何がじゃ?」


 「それ、究極奥義の【変わり身】を応用した攻撃ですよね……さらに僕を殴った技も究極奥義の何かでしょう……飛ばされてる間に何度も追加で衝撃が来ました」


 「ホッホッホ、よく知っておるの?」


 「はい、勉強、してましたからね……○クターストレンジって映画で同じような人が居たので参考にね」


 「相変わらず道場にいた時からよく分からない事を言うやつじゃ……じゃがそれだけか?」


 「……え?」


 「ワシが【変わり身】を使った時、初めて見た割には動揺が無かった……まるで“究極奥義を見た事がある”ようじゃったが」


 「…….…」


 アオイは黙った。

 そう、アオイは師範の孫であるアイが使っていたのを身に体験しているのだ。


 「ワシが本気を出さねばお主も本気が出せぬじゃろう?」


 師範は構え、アオイも構えようとするが__


 「遅い」


 「っ!」


 また同じ手で今度は上に殴り飛ばされた。


 「歳のわりにあわねぇ!」


 アオイは空高い空中で身体を翻して下を向けると地面には師範はいない!


 「ど、どこに!」


 「ここじゃよ」


 「!!!!」


 師範の声はアオイの頭上から聞こえてきた。

 アオイが飛ばされたのは大雑把に見積もっても50メートル!

 それをアオイが飛ぶよりも先にもっと飛んでいたと言うのだ。


 「ほれ」


 師範はアオイの無防備な背中に蹴りを入れる。


 重力で落ちていたアオイはその勢いを増して落下し地面に激突する。


 「これで絶対終わりじゃない!」


 新装備のおかげでこれだけの攻撃をくらってもダメージはほとんどない……それを師範も分かっていたのだろう、アオイはすぐに仰向けになって空を見ると拳を構えながらアオイに向かって落ちてきていた。


 「2回目!」


 アオイは横にクルリと回って位置をずらすと元居た位置の顔面付近に拳が突き刺さりそこから地面に亀裂が走って文字通り小さな【地割れ】が起こった。


 「ほう、油断していないとはやるのぅ」


 「ちょっと前にまったく同じ攻撃をしてきた人が居ましたからね」


 「…………アオイ、どうしてアイを殺さなかった?」


 師範はもう何もかも知っているのだろう、それを察してアオイも立ち上がり体勢を整えながら応える。


 「殺したくないからです」


 「どうしてじゃ?相手はお前を本当に殺そうとしていたじゃろう?」


 「それでも、何というか……」


 「?」


 「何だろう、かっこいい理由とかそう言うのじゃないんです、ただ単純に自分の手で相手の魂を消す感覚が耐えられない」


 「自分の手で?ならばお前じゃなくお前の部下やパーティーメンバーが殺すのはいいのか?」


 「…………卑怯な質問ですね……だけど僕はこう答えます」


 アオイは迷わずにハッキリと言った。


 「はい」


 「クズじゃな」


 「自分でもそう思います、だけど、僕は物語の主人公じゃない、ただの人です……清廉潔白じゃなく悪い所もあるんです」


 「…………」


 「生命が死ぬのを見たくない……これが僕のワガママです、正義の心とかそう言うのじゃなくて単純に見たくない」


 アオイの脳裏に焼き付いているヒロスケの死と獣人2人の死、おそらく死ぬまで一生忘れない死の記憶だろう。


 「…………それがお主の力を邪魔しておるんじゃ」


 「え?」


 「お主はこう考えておるんだろ?本気を出したら儂を殺すと」


 「……」


 「その事で頭が固くなっておるのだ、もう少し柔らかく考えろ、【魂抜き】は力任せにすると相手の首を吹き飛ばすが調整次第では気絶させるだけじゃ、そうじゃろう?」


 「はい」


 「初心を思い出せ、お主は今まで本気を出しても相手は死ななかった、今は相手を容易に殺せる力が手に入った……だが、それ即ち」


 師範はそこで言うのを辞めた。

 アオイの雰囲気が変わったのだ。


 「最後まで言わずとも気付いたようだな、それを踏まえてもう一度言う……本気でかかってこい」


 「解りました!師匠!」


 アオイの手に魔法陣が展開され2つの小さなクナイを出す。


 そして__


 「はぁぁあ!【地割れ】!」


 思いっきり足を前に出して地面を踏み込むと地震と共にアオイの爪先から地面にヒビが入っていき巨大な地割れが出来ていく。


 「ほっほっほ、真の【地割れ】を出す者なぞ儂以外で久しぶりにみたぞい」


 師範は空に飛び上がり喜びながらアオイの作った地割れを見る。


 「隙ありです!」


 ジャンプすると分かっていたのだろう、すかさずアオイはクナイを構えて師範に飛んでいって斬りつけようとしたが


 「その程度の動きなら対処できるぞ?」


 手刀でアオイの手を叩き衝撃でクナイは離され地割れの中に消えていった。


 「ほれ」


 そのまま空中でバランスを崩したアオイを横に蹴りとばしたが


 「まだまだぁ!」


 「!」


 蹴り飛ばした足に【糸』が絡み付いていてアオイと一緒に師範も持っていかれる。


 「ほう、これが【武器召喚】の糸か」


 今度は背中からぶつかるような無様な動きは見せず、アオイは【空歩】を使って空中でふわりと泳ぐように身を翻した。水泳選手がターンを決める時のような、しなやかで優雅な回転__


 「うおりゃぁぁあ!」


 __そして、そのまま糸で引き寄せられている師範めがけて、もう片手に握っていたクナイを鋭く振りかざす!


 「単純な一方通行攻撃じゃ儂は倒せんぞ!」


 「なっ!? 加速──!?」


 クナイを振り下ろそうとしたその瞬間、師範が予想外の行動に出た。目の前に迫るアオイに向かって、自らも【空歩】を展開――しかも前方へと加速する。


 「っぐ!」


 空中で迎え撃つ形になった師範の加速によって、アオイの動きの計算が一瞬で狂った。クナイを振る前に、逆にぶつけられる形で衝突して空中でラグビーのタックルをくらった形になる。


 「くっ、このぉ!」


 アオイは執念でクナイを振り下げる、しかし──


 「ほれ」


 師範の手刀が正確に叩き落とした。


 さらに次の瞬間、空中で体勢を立て直した師範は遠心力を使いアオイを地面へと投げ飛ばす。


 「ぐっ……!」


 アオイの身体は勢いを増し、背中から地面に落下して大きな穴を開けた。


 「くそっ!」


 地面から這い出すと師範はすでに待っていた。


 「まだまだ本気が出せるだろう?」


 「……えぇ、出せますよ。はぁ……はぁ……」


 アオイは荒い息を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。


 「……ですが、師匠の負けです」


 「む? なに……__っ!」


 師範の背に、カシュッと音を立てて突き刺さったのは──一本のクナイ。


 それは、戦闘の最初、アオイが手刀で落とされたあのクナイ。

 地面の割れ目へと消えていったかに見えたが──


 持ち手には、細く目立たない【糸』が繋がれていた。


 「……隙あり、です。師匠」


 アオイの指先がかすかに動くと同時に、クナイの魔法陣が光り、痺れ毒が師範の身体へと流れ込む。


 「…………見事」


 ぽつりとそう呟いた師範の身体が、ゆっくりと崩れ落ちた──。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?