《魔神城》
「来たか勇者よ」
「来たぞ、魔神!」
「……あぁ」
魔神はヒロユキとリュウトの2人の勇者を見た後__隣にいる人物を見て確信する。
「ほう……みや__コイツが例の想い人か?」
みやは魔神の視線を浴び、びくりと身を震わせながら、リュウトの袖をきゅっと掴んだ。
「大丈夫だ、みや」
リュウトはそっと彼女の頭を撫で、安心させるように言葉をかけた後、魔神を睨む。
「“魔神”を名乗るわりには、たった一人のイレギュラーを気にしてるじゃないか?まさか、怖じ気づいたんじゃないだろうな?」
「ほざけ。無知なる勇者風情が、我に戯れ言を吐くか──我が貴様らに恐怖など感じる道理はない。ただ、ここまで辿り着いた胆力だけは認めてやろう」
「へぇ、そりゃどうも。だったらそのまま倒されてくれよ!勇者として、お前を倒し世界を救う! ……行くぞ、ヒロユキ、みや!」
「……ああ」
「うんっ!」
魔神はゆっくりと両腕を広げ、不遜な笑みを浮かべながら告げる。
「来るがよい……その力、我が手で全て否定してくれよう。愚かなる“勇者”よ」
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《グリード城》
『キャハッ♪ やるじゃない。本気を出してないとはいえ、ここまで追い詰めるなんてね』
城の壁は無惨にひび割れ、瓦礫が床に散乱している。呪われた騎士たちの屍が無言で横たわる中、黒い鎖で拘束された女神は、まるで愉快な見世物を楽しむかのように笑っていた。
「……そうだね。君が“本気を出さない”──いや、“出せない”からこそ、ここまでやれたんだ」
ルコサは血に染まった白い神父服の裾を揺らしながら、肩で荒く息をしている。
その後方では、クロエとオリバルが地に伏していた。全力を使い果たし、もはや立ち上がることすらできない。そのまま、うつ伏せの姿勢で声を絞り出す。
「はっ……全力でぶつかって、なお殺せねぇとはな。……つくづく、“女神”ってのは規格外だ」
「だが──俺たちの勝ちだ」
「タソガレ、立てるか?」
「……はい、キー……ル様」
キールはタソガレの腕を支え、無理やり立たせた。
『で? どうするつもり? 私をこんな鎖で縛ったところで──時間が経てば解けるのは、分かってるでしょう?』
「分かってる。だが、それで十分だ……俺たちには“時間”が必要だった」
『ふぅん? 時間稼ぎね。──もしかして、私に“見せたくないもの”でもあったのかしら?』
「……ご名答だ。そして君は、その拘束が解けるまで──『神の目』を使えない」
『…………』
「……今までで一番キツかったな、この命令。“女神を拘束しろ”だなんてさ……」
息を吐きながらルコサは呟く。
「──まぁ、でも。次で最後の仕事だ。……みんな、行くよ」
そう言って、血のにじむ手で世界地図を広げ、目的地に指を滑らせる。
次の瞬間、ルコサと神の使徒たち、そしてタソガレの姿は光と共に消えた。
──そしてその直後、崩壊が始まる。
きしみを上げて揺れる城。壁が砕け、天井が落ち、柱が軋み、音を立てて瓦礫と化していく。
『……精々足掻きなさい。どうせ結末は決まっているのだから』
血に濡れた笑みを浮かべながら、女神は拘束されたまま崩れゆく城の中心で高らかに笑った。
『キャハッ……キャハハハハハハハハハハハッ!!』
──そして『女神』は瓦礫の海に沈んでいった。