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第8章 VS魔神編

第496話 ミクラル王の所へ?

 時は遡り──


 《ミクラル城 控え室》


 「いらっしゃい、ダーリン!あんたから連絡くれるなんて、あたしゃ幸せ者だよ!」


 扉を開けた瞬間、ヒロユキの体を抱きしめるナオミ。その身体はヒロユキの倍はある大柄で、以前よりも筋肉も増え、傷跡も随分と増えていた。


 「……」


 「急に来てすいません」


 「リュウトも久しぶりだねぇ。……ありゃ?今日は勇者揃って2人だけかい?」


 ヒロユキを抱きしめたまま、リュウトに笑いかける。


 「はい。……他の人たちは今、別の準備をしていて」


 「……話なら聞いてるよ、魔神討伐の件だろ?」


 「はい。信じられないかもしれませんが、この世界は──」


 「信じるさ」


 その言葉と共に、ようやくヒロユキを解放するナオミ。


 「……ずいぶん聞き分けがいいな」


 「ダーリンほどじゃないけどね。……あたしの場合、ま、そういうもんさ」


 「……?」


 「聞くより見たほうが早いってね。アレン国王も仕事がひと段落したら話してくれるから、それまでここで待ってな」


 「はい、分かりました」


 「……ナオミ」


 「ん? どうしたい?」


 「……色々、すまないな」


 「いいってことよ。お礼なら、平和になった後の世界で身体で払ってくれりゃあね」


 「……断る」


 「つれないねぇ」


 軽口を交わすと、ナオミはくすっと笑って控え室を出て行った。


 「……」


 「……」


 「ダーリンって言ってたけど、ヒロユキ……まさか……」


 「……違う」


 「だ、だよな。ははは……」


 「……」


 「……」


 2人は控え室のソファに、向かい合うように腰を下ろし、呼び出されるのを静かに待っていた。


 「こうして2人きりになるの、いつぶりだろうな」


 「……最初の馬車の中以来だ」


 「あー、あの時か……この世界に来てから、なんか時間の感覚もおかしくなってるよな」


 「……次から次へと、いろんなことが起こるからな」


 「ほんと……いろいろあったな」


 「……あぁ」


 「ユキさんのこと……心配じゃないのか?」


 「……?」


 「いや、もし俺だったら、自分で助けに行くかもって思ってさ」


 「……一言で言うなら、“心配していない”」


 「え?」


 「ユキは今まで一度も、俺に助けを求めたことがなかった。……今回も、それは変わらない」


 「それでも、今回ばかりは……ってこと、あるかもしれないだろ?」


 「……その時は、助けに行かなかった自分を恨みながら、生きていく」


 「……」


 リュウトは言葉を失う。


 “助けに行かなかった自分を恨む”


 それは、人生に刻まれる深い悔いとなるだろう。ヒロユキの言葉は、単なる割り切りではなかった。

 覚悟を背負ってなお、彼はその選択をしたのだ。


 「……すまん。軽率だった、悪いことを言った」


 「……気にするな」


 「そういえば、俺のパーティーにもユキって子がいてさ――」


 そのタイミングで、控え室のドアが音を立てて開く。


 「時間だよ」


 ナオミが顔を覗かせた。


 「お、待ってました」


 「……行こう」


 2人は立ち上がり、ナオミに続いて廊下を歩き出す。


 「一つ言っておくけど、ダーリンもリュウトも……城の中で戦闘は厳禁だよ?」


 「……?」


 「いきなり何の話だよ?」


 ナオミの言葉に、2人は顔を見合わせる。


 「まぁ……行けばわかるさ」


 意味深な笑みを浮かべながら、ナオミは歩を進める。


 そして、大きな魔法扉の前で立ち止まると、扉が淡い光と共に開いた。


 その先には、巨大な転移魔法陣が刻まれていた。


 「転移魔法?」


 「この城は広いからね。他の国の城の四、五倍はある。歩いて移動なんてしてられないのさ」


 転移魔法陣が発動し、2人の姿は光に包まれて消える。




 転移された先は、広々とした玉座の間だった。だが、その玉座に座っていたのは――


 「……誰だ?」


 「あなたは?」


 2人の疑問に応えるように、その人物は静かに立ち上がった。


 月光のような肌、赤い瞳。そして優雅な所作。


 「ようこそ、勇者ども。……私は吸血鬼の元魔王、“アビ”と申します。以後、お見知りおきを」




 ミクラル王国をかつて支配していた“魔王”が居た。

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