「っ!」
「……やめろ、リュウト」
反射的にレイピアを構えたリュウトはヒロユキに静止される。
「どうして止める! 吸血鬼と言えば、アオイさんが倒したはずの魔王だぞ!」
「……分かっている。だがナオミが言っただろう……つまり、全て知っている」
「っ……」
「話は終わったか?」
「……あぁ」
頭に血が上ったリュウトに代わり、ヒロユキが落ち着いた口調で答える。
「……王はどこに行った?」
「王? ここに居るではないか。私が王だ」
「……」
「ふん、冗談が通じない奴め。もういいぞ、出てこい」
アビが玉座に腰掛けたまま軽く手を振ると、その後ろから30歳ほどのすらりとした男が姿を現した。
「まったく、アビ様も人が悪い。最初から私が出ていればこんなことにはならなかったでしょうに」
「あの馬鹿の真似をしてみたが、なかなかに面白かったぞ」
「はぁ……」
勇者二人が静かにそのやり取りを見守る中、男はリュウトたちに向き直った。
「失礼、まずは自己紹介をさせていただこう。私はミクラル王国国王のアレン。この姿が私の本来の姿です。ヒロユキさんはご存じでしょう?」
「……あぁ」
「え!?」
突然の展開に驚くリュウトを見て、アレンは軽く微笑みながら姿を中年の老人に変える。
「リュウトさんが驚かれるのも無理はありませんね。それとも、こちらの姿の方が話しやすいでしょうか?」
「い、いえ……それより、なぜ魔王と一緒に……」
「アビ様は元魔王。現在は私と同じ【神の使徒】なのです」
「え!?」
「……魔王が?」
「その通りです」
アビもまた、玉座に頬杖をつきながら口を開く。
「ふん……この立場も望んで得たものではないさ。実に滑稽な話だろう?」
アレンは静かに頷きながら続ける。
「ちなみに私が使徒となったのもごく最近のことです。王国会議で呪いにかかっているところをルコサたちに救われ、人質となっていた我が息子たちも無事に保護していただきました。その後は呪いにかかったふりをして、スパイとして動いていたというわけです」
それを聞いてリュウトは1つ心当たりがあった。
「もしかして、あの時のカードは!」
「いかにも、【勇者リュウトに真実を見せる】と言うのが神からの指令だった」
「……」
リュウトはその時に見た無惨な姿の小さな人魚の娘を思い出す。
それを察したのかアビはアレン国王の代わりに言う。
「言っとくが、神からの指令は私達が自由に設定出来るわけじゃない「他の方法があったはず」など私たちに言ったところで意味がない」
「…………」
「それで、そんな答え合わせする為にここに来たのではないだろう」
「あぁ、単刀直入に言う……神の島に行きたい、どこにある?」
アビはそれを聞いて1つの魔皮紙を魔法でリュウトの所まで飛ばした。
「これは?」
「魔王だけが所持しているこの世界の地図だ、人間の国で言うところの王国会議の時、我ら魔王も神の島で集まるのでマークされている」
「それとこれを」
アレン国王はリュウトの横にいるヒロユキに近づいて魔皮紙を渡す。
「……?」
「これは我がミクラル王国の倉庫にある『ある物』を取り寄せる転送魔皮紙、それをヒロユキパーティーに居るユキナという少女に渡してください」
「……」
ヒロユキは何も言わずにうなづいて魔皮紙をしまった。
「では、言ってください」
「……リュウト」
「最後にひとつ、聞いていいか?」
リュウトはアビを真っ直ぐ見る。
「なんだ?」
「俺たちは今から魔神を倒しに行く、お前からしたら特別な存在だろ?ここで俺たちを行かせていいのか?」
「図にのるな人間、お前達ごときに魔神様が倒せる確率は0だ、ここでお前達を止めようが止めまいが結果は変わらん!これ以上、無駄口を叩く暇はない!早く行け!」
「……リュウト、行くぞ」
「あぁ」
こうして2人は部屋を出て転移して行った。
「つまらん仕事だったな」
アビは勇者の2人が居なくなったのを見て玉座を立つ。
「アビ様」
「ふん、様は良せ、もう私は魔王で貴様らを管理していない」
「しかし」
「それより次の仕事だ、俺はルダを連れ、あいつらを助けに行く、お前はここで重症患者を受け入れる準備をしておけ」
「はい」
そういってアビは世界の時間を止めグリード城へ向かった。