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第498話 ユキナの秘密

 《モルノ町 ギルド》


 モルノ町はミクラルでも田舎のほうに位置しており、普段は冒険者も少ない。だからこそ情報が漏れる心配が少ないと考えて、リュウトはこの場所を集合場所に選んだ……はずだったのだが。


 「どうして今日に限ってこんなに……」


 ギルド内はいつもよりもずっと賑わっていた。


 「あっ! アニキ! リュウトのボウズ!」


 その中からスキップしながら駆け寄ってきたのはジュンパク。嬉しそうにヒロユキへと抱きついた。


 「……ジュンパク、準備はどうだ?」


 「バッチリだよ! それより場所は分かった?」


 「……あぁ。リュウト」


 呼ばれたリュウトは、懐から一枚の地図を取り出す。


 「ほうほう、地図だね? とりあえず座って話そ?」


 ジュンパクが壁際の席へと移動すると、そこにはユキナがボーッと待っていた。


 「……ユキナ」


 「リーダー」


 「……留守番お疲れ様」


 「バッチリ」


 短い言葉を交わし、リュウト・ヒロユキ・ジュンパクの3人はテーブルについた。


 「じゃあ、行くよ」


 リュウトが地図の魔皮紙に魔力を流すと、それは机の上いっぱいに広がり、神の島の場所が浮かび上がる。


 「え!? 日本!?」


 「……しかも、世界地図は“日本”を中心に作られたもの……」


 地図を見たジュンパクの反応は、それを遥かに超えていた。


 「はわ!? ぬぁぬぁぬぁぬぬぬぬぬぬぬぬぇあるるるるるりりりるる???」


 「……ジュンパク?」


 「ジュンパクさん!?」


 突然立ち上がり、目を見開いて過呼吸のようになり、胸を押さえて苦しみだすジュンパク。人間、本当に驚くとこうなるのかと疑ってしまうほどの動揺だ。


 「だ、だ、だ……」


 “大丈夫”と言いたげだが、全く大丈夫ではなさそうだ。周囲の冒険者たちも、さすがに彼の異常な様子に注目している。


 「……ジュンパク」


 「ご、ごごごごめん、今落ち着かせるよアニキ」


 そう言うとジュンパクは両頬をバチンと叩き、胸に手を当てて目を閉じ──


 「よぉし!」


 大きな声と共に、いつもの表情へと戻った。


 「何見てんだ、見せもんじゃねーぞ!」


 気合を入れすぎたせいで、心配していた周囲への態度は少し乱暴だったが、冒険者たちはそういうものだと理解しているのか、すぐに何事もなかったかのように騒がしさを取り戻した。


 「心配かけてごめん、アニキ……」


 「……何があった?」


 「アニキ……」


 「……うん」


 「その【世界地図】……そんなものがこの世に存在しているなんて、思いもしなかった」


 その一言で、ヒロユキとリュウトもようやく合点がいった。


 ――この地図は、2人にとっては異世界に来る前、当たり前のように目にしていたもの。しかし、この世界では“世界地図”などというものは存在しない。


 正確に言えば──人間は、誰もそれを持っていないのだ。


 ダイヤモンドランク以上の冒険者は、その実力が認められ、未開の地で魔物を討伐する《開拓》という国からの直依頼を受けるようになる。これは国土を広げると同時に、地図を作成するための重要な任務でもある。


 そして、ジュンパクは元・海賊。


 地図もなく船旅をしていた彼にとって、どこに陸地があるのかすらわからない状況は、常に命がけの航海だったことだろう。


 だが、今手にしたこの地図があれば──

 どの方向へ進めばよいのか、目的地までどれほど時間がかかるか、ある程度の見積もりが立てられる。


 まさに、海賊にとっての“最高の宝”というやつだ。


 「……なるほど」


 「確かに、ジュンパクさんが驚くのも無理はないですね」


 「……ジュンパク、どれくらいかかりそうだ?」


 ヒロユキの問いに、ジュンパクは真剣な顔で地図をじっと見つめる。


 「そうだね……この数字が距離だとしたら……一番近い港から出航したとしても、うーん……2週間はかかるかも」


 「……ふむ、2週間か」


 「もう少し早くなりませんか?」


 「リュウトのボウズ、それは移動手段の問題、ミーの船はそんじょそこらのボロ舟よりは速いけど……海ってのは何があるかわかんない。慎重に行かないと、途中でドーンッ!って沈没しちゃって、目的地に辿り着く前にバイバイ~ってことになったら、元も子もないでしょ?」


 「確かに……そうですけど……」


 「そもそも場所すら分からなかった神の島を見つけられただけでも、大進歩なんだよ? ここはミー達の船を──」


 その時、ヒロユキはふと、あることに気付いた。


 「……神の使徒は、これを見越していたのか?」


 「?」


 「アニキ?」


 「……今まで、オリバルさんやクロエさん、ルコサさんが俺たちを導いていた。

  ……そして問題にぶつかるたび、必ず“次のヒント”をくれていた……」


 リュウトも思い当たる節があったのか、「確かに……」と呟いて考え込む。


 「……そうなると、今回俺たちが“急いで行動する”ことも……最初から想定済みだったのかもしれない」


 「ってことは、もしかして!」


 「……これか」


 ヒロユキは、アレン国王から渡された魔皮紙を取り出す。


 「アニキ?それ、なんの紙?」


 「……正直、わからない。けど」


 ヒロユキは紙に魔力を込める。

 すると、魔皮紙から──漆黒に輝く一輪の薔薇が現れた。


 「!」


 「……ユキナ?」


 先ほどまでジュンパクの騒ぎにも無反応だったユキナが、黒薔薇を見た瞬間、目を見開く。


 「リ、リーダー」


 「……アニキ、それって──『黒髑髏薔薇(くろどくろばら)』じゃない?」


 「……黒髑髏薔薇?」


 ヒロユキはそれを見て、以前龍牙道場の門で見たものと同じだと気付く。

 あの時は魔力を吸われて魔力酔いを起こしたが、今は何ともない。


 「しかも、これは“完成形”だよ……数年前から違法で流通し始めたって話を聞いたことある」


 「……違法?」


 「うん。冒険者のアニキにはあんまり縁がないかもだけど……

  ミーは元・海賊だから、そういう裏情報がよく入ってくるの」


 ジュンパクは真面目な顔で説明を続ける。


 「その花びら1枚を酒の樽に入れるだけで、天国にでも昇った気分になれるって言うくらい、気持ち良くなるらしいよ。

  ……でも、その分中毒性も高くて、今じゃ闇市場で高値で取引されてる危ない代物だね」


 「……国王から貰ったものだが?」


 「考えられるのは違法品だから騎士たちが頑張って“かき集めた”ってことだね」


 「……“ユキナに渡せ”、国王がそう言ってた」


 「ユキナに?」


 全員の視線が、ユキナへと集まる──。


 「あ、う」


 「……ユキナ」


   「…………………………………………………………………。。。。。。。。。。。。。。リーダー。」


 「……なんだ?」


 「移動手段、任せて」


 「「????」」


 リュウトとジュンパクはなぜユキナがその言葉を出すのか理解不能だったが、当然“任せて”を聞いたこの人は


 「……任せた、時間はどれくらい必要だ?」


 即答した。


 「まったく……ミーを差し置いてアニキにサプライズなんてユキナもすみにおけないねぇ」


 ジュンパクも慣れたことなのかヒロユキの方針に従って何も聞かない。


 「俺もここで聞くのはヤボって奴かな、移動手段はそっちに任せるよ、俺はアカネ達と合流して集合場所に行く、どこに何時に行けばいい?」


 リュウトも何も聞かずに時間と場所を聞くとユキナは珍しく悩んでるのが顔に出て答えを出した。


 「時間、目立ちたくない、深夜2時、ナルノ海岸」


 「決まりだね!よーし!」


 ジュンパクは立ち上がって声を張り上げた!


 「野郎ども!深夜2時にナルノ海岸出発だ!それまでに準備しておけ!装備も魔皮紙の補給も最後の晩餐もぜーーーーんぶ終わらせる様に全員に伝えろ!金は全部ヒロユキのアニキのおごりだー!」



 それを聞きギルド内に居た全員が声を出してそれぞれ動き出した。




 「まさか……今日ここにいる人達って……」





 「ふふん、リュウトのボウズは知らないだろうけど、ホワイト団はアニキを中心に1つの大きな組織になったんだよ〜、ここにいるのは全員幹部、魔神と戦争するんだ、こっちも全戦力を投入するぜ」








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