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第2話:説明

白い閃光と、耳をつんざく無音の衝撃のあと──

気がつくと、俺はまったく知らない場所に立っていた。


足元には光沢のある白いタイル。

天井も、壁も、果てしなく白い。どこまで行っても境界が見えない。

まるで全方位から発光しているかのような、真っ白な空間。

巨大な無菌室。あるいは、何かを“隔離するため”の牢獄のようだった。


視線を巡らせると、周囲にも人影があった。

老若男女──年齢も性別もまちまち。けれど、その誰もが冷静だった。


誰も叫ばない。取り乱さない。

自分の体を確認する者、荷物を点検する者、周囲の人数を数える者。

混乱はある。だが、それは静かな混乱だった。

空間全体を、奇妙な緊張感が覆っている。


「……なんだこれ」


ぽつりと漏れた俺の声は、やけに小さく、けれども空間全体に反響した。


「おそらく、“選ばれた”ってことじゃない?」


背後から落ち着いた声が聞こえた。

振り返ると、長い髪の女性が腕を組んで立っていた。

その目は怯えていない。むしろ、すでにある程度の状況を把握しているかのようだった。


「なるほど……」

小さな声が漏れ、他の者たちもざわつき始めた──

だがそのざわめきは、すぐに凍りつく。


空間の中央、何もなかったはずの場所に“黒い影”が現れたのだ。


はじめは、ただの影だった。

しかしそれは、ゆっくりと、意志を持つかのように“形”を取りはじめた。

人のようで、人でない。漆黒のシルエットだけが浮かび上がる、得体の知れない存在。


その“何か”が、まるで舞台の幕を上げるように、口を開いた。


「──ようこそ、挑戦者たち。」


その声は低く、穏やかでありながら、どこか懐かしさを感じさせるような響きを持っていた。

だが、その音色はどこまでも冷徹で、心の奥深くに冷気をもたらす。

それが人間の声でも、機械の声でも、ましてや神の声でもないことは一目で分かる。

ただただ、無機質で不気味な、どこか異質な“何か”の声だった。


全身の神経が、その存在を無視しようと必死に働きかける。

関わってはいけない、この存在には触れてはいけない、そんな本能的な警告が脳裏を駆け巡る。

だが、体はまるで金縛りにかかったかのように、動かない。

全ての力が、その声に引き寄せられて、従わざるを得ないのだ。


黒い影──自らを「主催者」と名乗ったそれは、司会者のように、流暢に語り始めた。


「君たちの肉体は、安全な場所に保管されている。」

その言葉は、異常に冷徹で、そして不安を煽るような響きを持っていた。


「ここは、君たちの精神だけが転送された仮想空間だ。」

その説明は、現実とはかけ離れた言葉であり、空間の空気さえ凍りつかせた。


「選ばれた六十四人、君たちはすべて、「物語の主役たりえる存在」だ。」

その言葉がもたらす重圧に、誰もが息を呑む。


「そして、この世界における唯一のルール──それは、“最後の一人を選ぶこと”だ。」

その瞬間、空間に一瞬の沈黙が訪れた。


「最後の一人には、この世界で僕が持っているすべての“力”を与える。

 世界を創り変える力さえも、ね。」

静かな声で告げられた言葉に、誰もがその意味を噛み締めることができなかった。


その後、主催者の言葉はさらに続く。


「第一ステージは、一対一の決闘だ。

君たちには、それぞれに能力が割り当てられている。

封筒の中身を確認して、準備を整えたまえ。」


その言葉が終わると、次の瞬間、目の前に淡く光る封筒が音もなく現れた。


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