白い閃光と、耳をつんざく無音の衝撃のあと──
気がつくと、俺はまったく知らない場所に立っていた。
足元には光沢のある白いタイル。
天井も、壁も、果てしなく白い。どこまで行っても境界が見えない。
まるで全方位から発光しているかのような、真っ白な空間。
巨大な無菌室。あるいは、何かを“隔離するため”の牢獄のようだった。
視線を巡らせると、周囲にも人影があった。
老若男女──年齢も性別もまちまち。けれど、その誰もが冷静だった。
誰も叫ばない。取り乱さない。
自分の体を確認する者、荷物を点検する者、周囲の人数を数える者。
混乱はある。だが、それは静かな混乱だった。
空間全体を、奇妙な緊張感が覆っている。
「……なんだこれ」
ぽつりと漏れた俺の声は、やけに小さく、けれども空間全体に反響した。
「おそらく、“選ばれた”ってことじゃない?」
背後から落ち着いた声が聞こえた。
振り返ると、長い髪の女性が腕を組んで立っていた。
その目は怯えていない。むしろ、すでにある程度の状況を把握しているかのようだった。
「なるほど……」
小さな声が漏れ、他の者たちもざわつき始めた──
だがそのざわめきは、すぐに凍りつく。
空間の中央、何もなかったはずの場所に“黒い影”が現れたのだ。
はじめは、ただの影だった。
しかしそれは、ゆっくりと、意志を持つかのように“形”を取りはじめた。
人のようで、人でない。漆黒のシルエットだけが浮かび上がる、得体の知れない存在。
その“何か”が、まるで舞台の幕を上げるように、口を開いた。
「──ようこそ、挑戦者たち。」
その声は低く、穏やかでありながら、どこか懐かしさを感じさせるような響きを持っていた。
だが、その音色はどこまでも冷徹で、心の奥深くに冷気をもたらす。
それが人間の声でも、機械の声でも、ましてや神の声でもないことは一目で分かる。
ただただ、無機質で不気味な、どこか異質な“何か”の声だった。
全身の神経が、その存在を無視しようと必死に働きかける。
関わってはいけない、この存在には触れてはいけない、そんな本能的な警告が脳裏を駆け巡る。
だが、体はまるで金縛りにかかったかのように、動かない。
全ての力が、その声に引き寄せられて、従わざるを得ないのだ。
黒い影──自らを「主催者」と名乗ったそれは、司会者のように、流暢に語り始めた。
「君たちの肉体は、安全な場所に保管されている。」
その言葉は、異常に冷徹で、そして不安を煽るような響きを持っていた。
「ここは、君たちの精神だけが転送された仮想空間だ。」
その説明は、現実とはかけ離れた言葉であり、空間の空気さえ凍りつかせた。
「選ばれた六十四人、君たちはすべて、「物語の主役たりえる存在」だ。」
その言葉がもたらす重圧に、誰もが息を呑む。
「そして、この世界における唯一のルール──それは、“最後の一人を選ぶこと”だ。」
その瞬間、空間に一瞬の沈黙が訪れた。
「最後の一人には、この世界で僕が持っているすべての“力”を与える。
世界を創り変える力さえも、ね。」
静かな声で告げられた言葉に、誰もがその意味を噛み締めることができなかった。
その後、主催者の言葉はさらに続く。
「第一ステージは、一対一の決闘だ。
君たちには、それぞれに能力が割り当てられている。
封筒の中身を確認して、準備を整えたまえ。」
その言葉が終わると、次の瞬間、目の前に淡く光る封筒が音もなく現れた。