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第3話:違和感

「主催者」を名乗る影の言葉が終わると、次の瞬間、目の前に淡く光る封筒が音もなく現れた。


思わず息を呑む。

この中に俺の“能力”が書かれているというのか?


恐る恐る手を伸ばし、封筒をつまみ上げる。

重さはない。だが、やけに現実味のある紙の手触り。


ゆっくりと封を切る。中には──1枚の紙。


開く。


……何も、書かれていない。


(……白紙?)


再び空間に響いたのは、主催者とは異なる、無機質な声だった。


『山田はじめ様の能力は、“記載されているとおり”です。』


耳元で、システムのような声が告げる。


周囲を見回す。他の参加者たちも、各自の紙を読み込んでいるようだ。

白紙なのは、俺だけじゃないのか?


声が俺の疑問に応じたこと──

それが“思考に反応するシステムメッセージ”であることも、直感的に理解していた。


それよりも。


なぜ俺は、こんな状況を“受け入れて”いる?


どう考えてもあり得ない。

数分前まで、自分の部屋の前にいたはずだ。

黒い影、能力、決闘、果ては思考に反応するシステムメッセージ?──現実の感覚からかけ離れすぎている。


けれど誰一人、叫びもせず、泣きもせず、現実を否定しようとしない。


おかしい。何かがおかしい。


(……夢?)


試しに手を叩く。

痛みがある。感触も、現実と同じだ。


(……じゃあこれは、現実? でも……)


主催者が言っていた“仮想空間”という言葉を思い出す。

とても現実にはあり得ないことが起こっている。

しかしそれらすべて仮想現実であると考えればすべてつじつまが合う。


背筋が冷たくなる。

まるで、そう理解するように事前に情報を埋め込まれたかのように──

俺は疑いなく主催者の言葉を信じようとしていた。

誰かに、思考そのものを誘導されている……?


考えが追いつくよりも早く、足元に違和感が走った。


床が──沈む。

世界が、再び“落ちる”。


「ちょっと待っ──」


抗う間もなく、視界が崩れ──

俺の身体は、次の“戦場”へと吸い込まれていった──


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