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第7話:勝負

視界の先、紅蓮の炎が波打っている。

あの火柱を突き破る。目の前に迫る、燃える壁。

それでも、恐怖の中に、ほんのわずかな冷静さが生まれる。


──熱風が肌を焼き、視界が歪む。


だが、炎が燃え上がるほど、意識ははっきりとしていく。

近づくほどに感じるのは、炎の中にある“薄さ”だ。

この火壁は、単なる障害──越えられる。


「うおおおおおっ!」


叫びとともに、突進する。足を速く、強く──

炎に吸い込まれぬよう、息を殺し、全身を突き進める。


刹那、全身に吹きつける高熱と蒸気。

目を開けていられない。だが、もう、止まらない。

目を閉じたまま、一歩一歩踏み込む感覚が、逆に力を与えてくれる。

熱を浴びた肌が一瞬で焼けるような痛みを感じるが、それを感じている暇はない。


水分がすぐに気化し、体を包み込みながら蒸気となる。

その蒸気が肌を濡らし、温度差に一瞬の冷たさを与える。

だが、そのすぐ後に、炎が再び肌を焼く。熱が突き刺さる。


──でも、もう耐えている余裕なんてない。


(俺の仮説は…間違っていたのか…?)


目を閉じて耐えた瞬間、体が弾けるように進む。

炎の壁を抜けられたことを肌で感じ、しばらくしてからようやく目を開けた。

目の前には、炎使い──あの男が、炎の中心に立っていた。


「ぐっ…!」


炎の壁を正面から突破されるとは、炎使いにとっては予想外だったらしい。

彼の表情に一瞬、動揺が走る。それを見逃すわけにはいかない。

すかさず、全力でタックルを放つ。

体重を乗せたその衝撃が、炎使いの体を揺さぶった。


彼の顔が歪む。

そして、炎に包まれたままやって来た男が、足元をふらつかせる。


──今だ!


躊躇う暇はない。

俺はそのまま、力を込めて踏み込む。


「うあああぁぁぁッ!」


叫びとともに突進。

水で重くなった足が地面を打つ。その音とともに、膝を全体重をかけて叩き込む。


その瞬間、がくん、と膝に重みが乗る感覚が伝わってくる。

炎使いの体がバランスを崩し、そのまま地面へと倒れ込んだ。


──ドサッ。


炎使いが崩れると、すかさずその上に乗る。

首に脛を押し当て、反撃を封じ込める。


「……はぁ……っ、はぁ……っ」


荒い息を吐きながら、俺は膝をつく。

なんとか追い詰めた──知恵とタイミングだけで、明確な能力差を覆すことができた。


だが、立ち上がれば──その瞬間、炎がすぐ目の前に迫ってくる。

わずか一歩で、炎に呑まれる距離だ。

制御を失った炎の壁が、俺たち二人を包み込もうとしている。

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