視界の先、紅蓮の炎が波打っている。
あの火柱を突き破る。目の前に迫る、燃える壁。
それでも、恐怖の中に、ほんのわずかな冷静さが生まれる。
──熱風が肌を焼き、視界が歪む。
だが、炎が燃え上がるほど、意識ははっきりとしていく。
近づくほどに感じるのは、炎の中にある“薄さ”だ。
この火壁は、単なる障害──越えられる。
「うおおおおおっ!」
叫びとともに、突進する。足を速く、強く──
炎に吸い込まれぬよう、息を殺し、全身を突き進める。
刹那、全身に吹きつける高熱と蒸気。
目を開けていられない。だが、もう、止まらない。
目を閉じたまま、一歩一歩踏み込む感覚が、逆に力を与えてくれる。
熱を浴びた肌が一瞬で焼けるような痛みを感じるが、それを感じている暇はない。
水分がすぐに気化し、体を包み込みながら蒸気となる。
その蒸気が肌を濡らし、温度差に一瞬の冷たさを与える。
だが、そのすぐ後に、炎が再び肌を焼く。熱が突き刺さる。
──でも、もう耐えている余裕なんてない。
(俺の仮説は…間違っていたのか…?)
目を閉じて耐えた瞬間、体が弾けるように進む。
炎の壁を抜けられたことを肌で感じ、しばらくしてからようやく目を開けた。
目の前には、炎使い──あの男が、炎の中心に立っていた。
「ぐっ…!」
炎の壁を正面から突破されるとは、炎使いにとっては予想外だったらしい。
彼の表情に一瞬、動揺が走る。それを見逃すわけにはいかない。
すかさず、全力でタックルを放つ。
体重を乗せたその衝撃が、炎使いの体を揺さぶった。
彼の顔が歪む。
そして、炎に包まれたままやって来た男が、足元をふらつかせる。
──今だ!
躊躇う暇はない。
俺はそのまま、力を込めて踏み込む。
「うあああぁぁぁッ!」
叫びとともに突進。
水で重くなった足が地面を打つ。その音とともに、膝を全体重をかけて叩き込む。
その瞬間、がくん、と膝に重みが乗る感覚が伝わってくる。
炎使いの体がバランスを崩し、そのまま地面へと倒れ込んだ。
──ドサッ。
炎使いが崩れると、すかさずその上に乗る。
首に脛を押し当て、反撃を封じ込める。
「……はぁ……っ、はぁ……っ」
荒い息を吐きながら、俺は膝をつく。
なんとか追い詰めた──知恵とタイミングだけで、明確な能力差を覆すことができた。
だが、立ち上がれば──その瞬間、炎がすぐ目の前に迫ってくる。
わずか一歩で、炎に呑まれる距離だ。
制御を失った炎の壁が、俺たち二人を包み込もうとしている。