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第2話 誓約書

 三人は再びソファーに並んで座った。沙耶がポットの湯で三人分のお茶を入れた。


「兄さん、寂しかったから家出したんでしょ」と伽耶。


「まあ、そうかな」と勝則。「何もかも、いたたまれなくなって……」


「わかったわ」と沙耶。「これからは私たちが兄さんと一緒にいてあげる。」


「へ?」と勝則。


「父さんと母さんと話をして、兄さんのことを私たちに任せてもらったの」と伽耶。「だからもう寂しくさせないわ。」


「それはうれしいけど……」と勝則。「よく意味が分からない……」


「もう、兄さんに家出してほしくないの」と沙耶。


「家出はもうしないよ」と勝則。「それに、したくてもできない。」


「GPSの発信機を付けられたから?」と伽耶。


「知ってるの?」と勝則。


「ええ、父さんから聞いたわ」と沙耶。「足首に付けてるって。」


「うん。外国で元犯罪者や保釈中の人に付けるやつだよ」と勝則。「簡単に外せないし壊せない。」


「見せて」と伽耶。


 勝則は左足のズボンの裾をまくってまた戻した。


「兄さん、すぐには無理だけど、お父さんとお母さんに発信機を外すのを私たちから頼んであげる」と沙耶。


「そんなことできるの?」と勝則。


「お父さんと約束したの、兄さんが素直になったら外すって」と伽耶。


「本当?」と勝則。


「ええ、本当よ」と沙耶。「でもその代わり、私たちの言うことを聞いてほしいの。」


「言うことって」と勝則。「どんな事?」


「この家の中では私たちと一緒に過ごすこと。そして私たちの言うとおりにすること」と伽耶。「私たちが食事や洗濯なんかの生活の面倒を見るから。」


「もちろんいいけど」と勝則。「沙耶と伽耶の迷惑にならない?」


「ならないわ」と沙耶がくすくす笑いながら言った。「兄さんに二度と双子の魔女なんて言わせないつもりなの。」


「わかったよ」と勝則。


「じゃあ兄さん、約束して」と伽耶。「ちゃんと言葉で誓ってほしいの。」


「この家の中では、沙耶と伽耶の言うことをきいて、いつも一緒に過ごします」と勝則。


「この紙にも書いて」と沙耶が紙と万年筆を出した。


「わかったよ」と勝則。


 書き終わると伽耶が朱肉を出し、「ここに拇印を押して」と言った。


 勝則は少し変だなと思いながら、拇印を押した。沙耶はその誓約書をきれいに折りたたんで封筒にしまった。沙耶と伽耶は、やれやれという顔をした。


「誓約書を書かされるとは思わなかったよ」と勝則。


「お父さんとお母さんにも書いてもらったわ」と伽耶。「私たちは真剣だから」と少し怖い顔をした。


「あの二人が?」と勝則。


「ええ」と沙耶。「お兄さんのことは、私たちに任せますって書いてもらったの。」


「二人とも仕事で忙しいから、寮付の学校に入れられるのかと思った」と勝則。


「私たちもそう思ったから先手を打ったの。」と伽耶。「でもそんなことは絶対にさせないから、安心して。」



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