目を覚ますと夕方だった。伽耶が小屋にいて、沙耶は外に出ていた。
「兄さん、目が覚めたのね。」と伽耶。「今、食事を用意するから待ってて」
勝則は出されたソーセージや目玉焼きやトーストを頬張った。最後にコーヒーをすするとひと心地着いた。隣に伽耶が座り肩が触れた。勝則はとても幸せな気持ちになった。
日が暮れるころ、沙耶が小屋に戻ってきた。「お客さんが来たわ。」
「予定通りね」と伽耶。
三人が小屋から出ると、何台かの車が止まりドアを閉める音が聞こえた。父親のだみ声と気の弱そうな母親の声も聞こえた。赤い回転灯が点灯しており、二台のパトカーがいることがわかった。
三人は山道に出たが、すぐに見つかって追われた。その奥は少し広がった場所で、その上り坂の先は崖だった。
崖に近いところまで、三人は追い詰められた。両親と警官たちに向かって、「それ以上近寄らないで!」と沙耶が叫んだ。
「無駄なことをしないで、うちに帰ってきなさい!」と達也。
「いやよ!」と沙耶。「絶対にうちには帰らないわ!」
「お前たちの話をちゃんと聞いてあげるから、帰ってきなさい!」と達也。
「そんな言葉、信用できないわ!」と沙耶。「また私たちをだまし討ちにするのでしょう!」
両親と警官が少しずつ近づいてきており、勝則たちは少しずつ後ずさりしていた。
崖の下は以前自殺した人がいるという噂のある滝つぼだった。今は簡単な柵が張ってある。沙耶が昼間のうちに、内側に入れるように柵の一部を切っておいた。三人は柵を超えて後ずさりした。
沙耶が父親と言い合いをしている間、伽耶が勝則の耳元でささやいた。「兄さん。大丈夫だから私たちを信じて。」
勝則がうなずいた。
「私たちを後ろから抱きしめて。絶対に離さないで」と伽耶。
満月の夜だった。逆光の月の光が三人のシルエットを浮かび上がらせた。
「そっちは崖だ!馬鹿なことを考えるな!」と達也と叫んだ。「こっちに来なさい!」
沙耶がリュックを下して、前に投げた。「ここに遺書が入ってるわ。」
警官たちが駆け寄ってくるのと同時に、三人は崖から落ちていった。ドボーンと水面に落ちる音がして、水しぶきが上がった。