「勝則、家に帰ってきなさい」と麻衣。「母さんが父さんに話すのは時間の問題よ。そうなれば、警察があなたたちを探すわ。」
「家には帰れないよ」と勝則。「父さんにまた寮のある学校に行かされるだけだよ。」
「そうはさせないわ」と麻衣。「私から父さんに話すわ。」
「父さんが納得するはずないよ」と勝則。
「説得できるわ」と麻衣。「伽耶と沙耶、それに私があなたの味方よ。あなたを家から追い出せば私たちが出ていくと言うわ。父さんは反対できないはずよ。」
「そうかな」と勝則。「父さんはまたヒステリーを起こして怒鳴り散らすよ。そして母さんが金切り声で泣き叫ぶ。もうたくさんだよ。」
「きっとそうね」と麻衣。「だけど私が何とかするわ。」
「もう、うんざりなんだ」と勝則。
「わかってる」と麻衣。「だけどもう少しが我慢しなさい。私はもうじき成人するわ。あなたはあと二年ほどよ。そうなれば、社会に出て自由に生きられる。」
「それまで逃げるほうがいいよ」と勝則。
「あなたはいいかもしれないけど、伽耶と沙耶はどうするの?」と麻衣。「大人びてるけど、あの子たちはまだ中学生なのよ。」
勝則は返事をしなかった。
「父さんのことは私に任せなさい」と麻衣。「私は偽りの女狐なのよ。絶対に言いくるめるわ。」