「それで、勝則は起きてこないのか?」と達也と不満そうに言った。
「ええ、ベッドで寝てるわ」と伽耶。
「沙耶に添い寝されてか?」と達也。
「そうよ。胸にもぐりこんで寝てるわ」と伽耶。「母犬と子犬みたいに。」
「なんだと!」と達也。「怪しからん!」
「父さん、変な想像してるの?」と伽耶。
「黙りなさい!」と達也。「私はお前たちの心配をしてるんだ。」
「兄さんは私たちに甘えてるだけよ」と伽耶。「何もやましいことはないわ。」
「妹に甘えるなんておかしいだろう」と達也。
「私たちはもう子供じゃないわ」と伽耶。
「だから心配なんだ」と達也。
「意味が分からないわ」と伽耶。「私たちは兄さんのそばにいてあげてるだけよ。何がおかしいのかしら。」
「添い寝するなんておかしいだろ」と達也。
「おかしくないわ」と伽耶。「兄さんには必要なことだから。」
「高校生にもなって、妹の添い寝がなぜ必要なんだ?」と達也。
「兄さんは疲れているのよ」と伽耶。「心身ともに。」
「俺か母さんが添い寝をしてやる」と達也。「だから勝則を起こしてきなさい。」
「父さんが兄さんの添い寝なんて気持ち悪いわ」と伽耶。
「妹だって気持ち悪いだろう」と達也。
「私たちには愛情があるわ」と伽耶。「親しい兄妹の。」
「愛情なら私や母さんにもある」と達也。
「兄さんがどう感じてるか、聞いてみたらどうかしら?」と伽耶。
「もういい」と達也。「母さん、勝則を起こしてきなさい。」
「勝則は体調が悪いのよ」と麻衣。「寝かせておかないと治らないわ。」
「毎日一緒に食事をするって約束したじゃないか」と達也。
「それは私たちのことよ。勝則はそんな約束してないわ」と麻衣。
「少しは母さんの気持ちを考えてあげなさい」と達也。「勝則のことをとても心配しているんだ。」
「その話なら、昨日の昼間に散々したわ」と伽耶。
「あの時は混乱してたのよ」と真知子。
「今更兄さんになんて話しかけるの?」と伽耶。
「わからないわ」と真知子。「でも何か、あなたたちの話に入らせてくれたっていいでしょう?」
「兄さんは昨日から私たちにも何もしゃべってないわ」と伽耶。「多分ここに連れてきても何もしゃべらないはずよ。」
「そうね。きっと鼻水をすすりながら、気まずそうにご飯を食べるだけよ」と麻衣。「そして父さんが、お前がいると飯がまずくなるって言うのよ。」
「そんなこと言わない」と達也。
「今まで言ってたわ」と麻衣。
「そうだったか」と達也。