「勝則にも友達の一人ぐらいいるはずだろう」と達也。「お前たちがそんなにべったり引っ付いていなくてもいいはずだ。」
「さあ、どうかしら」と伽耶。「兄さんに友達なんて聞いたことがないわ。」
「麻衣、あなたは何か心当たりはないの?」と真知子。
「親しい友達はいないと思うわ」と麻衣。「中学2年の変な時期に転校しちゃったから。高校も入学早々、あの騒ぎだし。」
「そうだったわね」と真知子。「今考えると可哀そうだったわね。」
「何言ってるのよ」と麻衣。「私はあの時、反対したわよ。」
「仕方ないだろう」と達也。「教育方針が合わなかったんだ。」
「父さんが兄さんの担任にヒステリーを起こしただけでしょ」と伽耶。「何が気に入らなかったのか知らないけど。」
「あの担任が悪いんだ」と達也。「勝則にはあんな成績でも大したものだといったんだよ。」
「悪くない成績だったわよ」と麻衣。
「だが十分じゃない」と達也。「お前たちとかけ離れてるじゃないか。」
「勝則は勝則よ。一緒にしちゃ可哀そうよ」と麻衣。「特に伽耶と沙耶は異常なのよ。」
「あいつはもっと努力するべきだし、努力できる環境で育つべきだよ」と達也。
「どうかしらね」と麻衣。「今ではすっかりいじけて萎縮してるわ。」
「あいつの性根が腐ってるからだ」と達也。
「兄さんは学校の勉強ができなくても、優しくて感受性が豊かだわ」と伽耶。「それで十分よ。」
「あんな臆病で泣き虫な軟弱者を男とは認めん」と達也。「父親として恥ずかしい。」
「兄さんは父さんのメンツのために生きてるわけじゃないわ」と伽耶。
「父親として言っているんだ」と達也。「ちゃんと社会で生きていけるようにしてやるのが親の責任だ。」