扉を開けると、いつもの静けさが迎えてくれた。
カウンターには、磨き上げたグラスと、並べられたリキュールの瓶たち。
木製の棚にかかる微かな酒の香りが、心を落ち着かせる。
——ただし、ここはもう”日本”ではない。
バーテンダーである俺は、ある日突然、店ごと異世界へと転移した。
目を覚ますと、馴染みのあったはずの裏路地は消え、店の表には異世界の街並みが広がっていた。
魔法使いが行き交い、獣人やドワーフが市場で酒を交わす、まさに剣と魔法のファンタジーの世界。
それでも俺は、何かに抗うことなく、店を開けることにした。
幸い、裏口を開けると日本に戻れるらしく、酒の仕入れに困ることはない。
「なら、ここでバーを続けるのも悪くない」——そう考えたのだ。
今日も”異世界の客”が扉を叩く。
カウンターに座るのは、ドワーフの鉱夫だった。