新たな愛を受け入れたルミナの生活は、静かで穏やかな幸福に包まれ始めていた。過去の苦しみや傷が完全に癒えたわけではないが、アレックスという支えがそばにいることで、彼女の心には揺るぎない安定感が生まれていた。日々の些細な出来事の中で、彼との未来を少しずつ築き上げているという実感が、彼女をさらに強くし、前向きにさせていた。
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ある日、ルミナは朝の陽光が差し込む中庭で花の手入れをしていた。これは彼女の日課であり、同時に過去の思いを整理するための時間でもあった。ふと空を見上げ、穏やかな風が頬を撫でる感覚を味わいながら、彼女は静かに呟いた。
「これが私が探し求めていた静寂なのかもしれない。」
その時、背後から聞き慣れた声が響いた。
「朝から考え事かい?」
振り返ると、アレックスが微笑みながら立っていた。彼は手に籠を持ち、中には新鮮な果物が詰められていた。
「市場でいいものを見つけたから、君にも分けようと思って。」
ルミナは彼の心遣いに微笑みを返しながら、彼を中庭に招き入れた。二人は並んでベンチに座り、果物を分け合いながら穏やかな朝を楽しんだ。
「アレックス、私は時々思うの。この幸せは、私があの日、王宮を出ると決めたから手に入れられたのだと。」
アレックスは静かに頷きながら答えた。
「確かに、君が自分で道を切り開くと決めたことが、今の君を作り上げた。でも、それだけじゃない。君がその道を進む勇気を持ち続けたからこそ、ここまで来られたんだよ。」
彼の言葉に、ルミナの胸が暖かくなった。彼はいつも、彼女が忘れそうになる自分の強さを教えてくれる存在だった。
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その日の午後、ルミナは一人で近くの丘へ向かった。この丘は、彼女が初めてアレックスと訪れた場所であり、自分の心と向き合う特別な場所でもあった。彼女は草原に座り、遠くの景色を眺めながら、過去を振り返っていた。
婚約破棄を宣告されたあの日のこと。偽聖女との戦い、そして王宮を去るという決断。それら全てが、今の彼女を形作るために必要だったと感じていた。
「もし過去に戻れるとしても、きっと同じ道を選ぶわ。」
そう静かに呟くと、彼女の瞳には強い決意が宿っていた。
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夕方、ルミナが家に戻ると、玄関先でアレックスが彼女を待っていた。彼はいつになく真剣な表情を浮かべていたが、その中には柔らかな微笑みもあった。
「どうしたの、アレックス?」
彼は一瞬ためらったように見えたが、やがて静かに口を開いた。
「ルミナ、君に聞いてほしいことがある。」
彼は彼女の手を取り、その場に膝をついた。ルミナは驚きながらも、彼の目を見つめた。
「君と共に未来を歩みたいと思っている。それは前にも伝えたけれど、今日はもう一歩進んだ形で伝えたい。ルミナ、僕と結婚してくれないか?」
その言葉に、ルミナは一瞬息を呑んだ。アレックスの瞳には真剣な思いが込められており、その言葉に嘘偽りがないことが分かった。
ルミナは一呼吸置いて、微笑みながら答えた。
「アレックス、私の人生に再び信頼と愛を教えてくれたのはあなたよ。私も、あなたと共に未来を歩んでいきたい。」
彼の顔に満面の笑みが広がり、彼はそっと彼女を抱きしめた。二人の間には、言葉では表せない温かさが流れていた。
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数日後、ルミナとアレックスは家族や友人を招いて、ささやかな婚約の報告会を開いた。そこには、カティアやエリオットも駆けつけ、二人を祝福した。過去の苦しみを知る友人たちは、ルミナの幸せを心から喜び、未来へのエールを贈った。
カティアはルミナに寄り添い、微笑みながら言った。
「あなたが選んだ道が間違っていないこと、今ここで証明されたわね。」
ルミナは彼女に感謝の言葉を返し、これまでの支えがなければここに立つことはできなかったと改めて思った。
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夜が更け、ルミナとアレックスは庭で星空を眺めていた。ルミナは彼の肩にもたれながら、静かに呟いた。
「私、これからどんな困難があっても、もう怖くないわ。あなたがそばにいてくれる限り。」
アレックスは彼女の手を握りながら答えた。
「僕も同じだ。君と一緒なら、どんな未来でも乗り越えられる。」
その夜、二人の未来は永遠に輝き続ける星のように、穏やかな希望に満ちていた。