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4-4 新たな愛





数週間の時間が過ぎ、季節が初夏に差し掛かった頃、ルミナは自分の生活を少しずつ形にしながら、新しい日々を送っていた。そんな中、アレックスとは定期的に会うようになり、彼との時間が彼女にとって特別なものになりつつあることに気づいていた。


ルミナの心の中には、かつての婚約破棄で傷ついた自尊心を回復し、自立したいという強い思いがあった。だが、アレックスが見せてくれる優しさや誠実さは、彼女がこれまで感じたことのない安心感を与えていた。彼の存在は、過去の痛みを癒しながらも、新しい未来の選択肢を示してくれるようだった。



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ある日の午後、アレックスがルミナの家を訪れた。彼はカゴいっぱいの花を抱え、彼女の庭に立っていた。

「ルミナ、今日は少しだけ君を外に連れ出したいんだ。いいかな?」


ルミナは驚きつつも、彼の表情にある真剣さを感じ取り、頷いた。

「ええ、いいわ。でも、どこへ行くつもりなの?」


アレックスは軽く微笑みながら答えた。

「それは着いてからのお楽しみだよ。」



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二人が向かったのは、町から少し離れた丘の上だった。その場所は一面に花が咲き誇り、風が穏やかに吹き抜ける美しい場所だった。丘の上に着いたルミナは、息を呑んだ。

「こんな場所があるなんて……本当に美しいわ。」


アレックスはカゴから花を取り出しながら、静かに言った。

「僕は、君のように美しいものを見つけると、つい君を思い出すんだ。だから、今日はこの場所を君に見せたかった。」


その言葉に、ルミナの胸が温かくなった。アレックスの気持ちは、いつも誠実で真っ直ぐだった。それが彼女の心をゆっくりと満たしていくのを感じていた。



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丘の上で二人はしばらく話をしていた。アレックスは、これまでの彼女との時間がどれほど大切だったかを語り、ルミナもまた、自分が感じている彼への感謝の気持ちを伝えた。会話が途切れた時、アレックスが少しだけ遠くを見つめながら口を開いた。

「ルミナ、君にもう一度伝えたいことがあるんだ。」


彼の声には、いつもの穏やかさだけでなく、何か深い決意が込められていた。ルミナはその瞳を真剣に見つめた。

「なにかしら?」


アレックスはルミナの手を優しく握り、彼女の目をまっすぐに見つめた。

「君が選ぶ道がどんなものであっても、僕は君と共に歩みたい。君が自分の未来を切り開きたいと思う気持ちは、僕も理解している。けれど、その未来に僕を含めてほしいんだ。」


ルミナはその言葉に心が大きく揺れた。彼の告白は真剣で、まるで彼女の全てを受け入れる覚悟が込められているようだった。しばらくの間、彼の言葉を噛み締めながら沈黙が続いた。


やがてルミナは、彼の手を少し強く握り返した。

「アレックス、あなたが私にとってどれほど大切な存在か、私自身ようやく気づき始めているわ。私はまだ、自分の未来がどこに向かうのかを完全には分かっていない。だけど、あなたと一緒にその未来を見つけていきたい。」


その言葉に、アレックスの顔に安堵の表情が広がった。彼は静かに微笑み、もう一度彼女の手を握りしめた。

「ありがとう、ルミナ。その言葉を聞けただけで、僕は幸せだよ。」



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二人は夕暮れの空の下、丘の上で静かに座り続けた。赤く染まる空が彼らを包み込み、風が穏やかに吹き抜けていく。その瞬間、ルミナは初めて、自分の心が完全に穏やかになったことを感じた。過去の痛みや不安が、彼の存在によって少しずつ癒されていくのを感じていた。


「アレックス、これからの道がどんなに困難でも、私たちなら乗り越えられるわね。」


アレックスは微笑みながら頷き、彼女をそっと抱き寄せた。

「ああ、僕たちならきっと大丈夫だ。」



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その夜、ルミナは家に帰りながら、自分の心の中にある新しい感情を噛み締めていた。彼女は初めて、自分の人生に新たな愛を受け入れる準備ができていることを実感していた。そして、それがアレックスという存在であることに、何の迷いもなかった。


過去を乗り越え、自分で立ち上がったルミナにとって、アレックスとの未来は希望そのものだった。



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