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4-3 過去の清算

 ルミナが自分の新しい生活を築き始めてから数週間が経った頃、突然の訪問者が彼女の元を訪れた。それは、かつて婚約者であり、彼女の人生を大きく変えることになった人物――第二王子ルークだった。



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その日、ルミナはカティアと共に商業地区を訪れ、今後の計画について話していた。街の活気を楽しんでいる中で、彼女の背後から一声かけられる。

「ルミナ、久しぶりだな。」


その声に振り向くと、そこには見慣れた金髪の男性が立っていた。第二王子、ルーク。彼がここにいることに驚きを隠せないルミナは、冷静さを保ちながらも問いかけた。

「ルーク殿下、どうしてここに?」


ルークは少しだけ視線をそらし、まるで言葉を探すかのように答えた。

「話がしたい。……できれば、二人きりで。」


カティアがルミナの顔を見て静かに頷き、その場を離れる。ルミナは短い沈黙の後、ルークの言葉に応じることにした。



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二人は近くのカフェに入り、静かな席に座った。しばらくの間、どちらも口を開かず、互いの顔を見つめるだけだった。やがてルークが重い口調で話し始めた。

「ルミナ、あの時のことを謝りたい。」


彼の言葉に、ルミナは眉をひそめた。

「あの時?婚約破棄のことを仰っているのですか?」


ルークは頷き、視線をテーブルに落とした。

「そうだ。僕は、あの時の判断が正しいと思っていた。王宮の計画に従い、偽聖女を選ぶことが国のためだと信じていた。だけど、それがどれほど君を傷つけたか、どれほどの間違いだったか、今になってようやく分かったんだ。」


その言葉を聞いても、ルミナの表情は揺るがなかった。彼女は淡々とした口調で返す。

「それに気づいたのなら、どうしてもっと早く謝罪しなかったのですか?」


ルークはさらに肩を落とし、静かに答えた。

「僕は、自分のプライドに縛られていた。君に向き合う勇気を持てなかったんだ。」



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ルミナは彼の言葉を受け止めながらも、内心では複雑な感情が渦巻いていた。かつての彼の婚約破棄は、彼女にとって屈辱であり、大きな転機だった。しかし同時に、それがあったからこそ、今の自分があるとも言える。


彼女は一息つき、静かに口を開いた。

「ルーク殿下、あなたの謝罪は受け取ります。でも、それで私の過去が変わるわけではありませんし、今さらどうにかなるものでもありません。」


彼の顔が悲しげに歪む。

「分かっている。それでも、君に言わなければならなかったんだ。僕の間違いを認めて、君に赦してもらいたかった。」



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その時、ルミナは少し考え込み、やがて穏やかな声で答えた。

「ルーク殿下、私はあなたを恨んでいません。過去の婚約破棄がなければ、私はここにいない。自分の力で立ち上がるきっかけをくれたのは、ある意味であなたのおかげです。」


その言葉に、ルークは驚いたように顔を上げた。

「君は、本当に強いんだな……。僕は、君をずっと見くびっていた。」


ルミナは淡い微笑みを浮かべたが、その表情には明確な距離感があった。

「私は今、自分の未来を歩むためにここにいます。殿下の過ちを責めるつもりはありませんが、過去に縛られるつもりもないのです。」


ルークはそれ以上言葉を続けることができなかった。ただ、彼女の言葉が自分の胸に深く刺さるのを感じていた。



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カフェを出た後、ルークは街の賑わいの中に消えていった。ルミナはその背中を見送りながら、小さく息をついた。彼が何を思い、何を感じているのか、彼女には分からない。しかし、自分の心が過去に囚われていないことを確認できたことは、彼女にとって一つの節目となった。



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その夜、ルミナは家でアレックスにその出来事を語った。アレックスは彼女の話を黙って聞き終え、優しい声で言った。

「君が過去を清算できたのなら、それでいい。ルークがどう感じようと、君の未来には関係ない。」


ルミナは微笑みながら頷いた。

「ええ、そうね。私はもう、過去を振り返る必要はないわ。」


その言葉に、アレックスは少し安心したように微笑んだ。





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