ルミナが王宮を離れ、新たな生活を始めてから数週間が経った。広い邸宅や使用人のいる生活とは異なり、自分で食事を用意し、自分で家を整えるという日々は、思った以上に骨の折れるものだった。しかし、その不便さが彼女に「自分で生きる」という実感を与えていた。毎朝目覚めるたびに、過去の自分とは違う未来へ歩み出していることを確信していた。
そんなある日、ルミナは商業地区の小さなカフェでアレックスと待ち合わせをしていた。彼が仕事で隣国から一時的に戻ってくると聞き、近況を報告するためだった。
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カフェのドアが開き、アレックスが姿を現した。彼はいつも通りの穏やかな笑顔でルミナに向かって手を振る。だが、その瞳の奥には、何か特別な決意のようなものが宿っているようだった。
「待たせてしまったかな、ルミナ。」
「いいえ、私も今来たところよ。」
ルミナは微笑みながら彼を迎えた。
二人は席に着き、しばらくはお互いの近況を語り合った。アレックスは隣国の情勢や、自身の公爵家としての仕事について語り、ルミナは新しい生活の中で見つけた楽しさや苦労を話した。
「君がこんなに生き生きと話す姿を見ると、本当に安心するよ。」
アレックスはそう言いながら、少しだけため息をついた。
「でも、僕には少し不安もある。君が一人で全てを抱え込んでいないか、そう思うとね。」
ルミナは驚いたように彼を見つめたが、すぐに微笑んだ。
「ありがとう、アレックス。でも、今の私は昔の私じゃないわ。今は一人でいることが、私にとって自分を取り戻すための大切な時間なの。」
アレックスは少しだけ眉をひそめた後、静かに頷いた。
「そうだね。君がそう言うなら、僕は君の言葉を信じる。でも、今日は僕も自分の本当の気持ちを君に伝えたくてここに来たんだ。」
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その言葉に、ルミナは一瞬驚き、彼の瞳を真剣に見つめた。
「本当の気持ち?」
アレックスは椅子に座り直し、深く息を吸い込むと、真剣な表情で彼女を見た。
「ルミナ、僕は君に惹かれている。いや、それ以上に、僕は君を愛している。」
その言葉はまるで静かな波のように、ルミナの心に広がった。彼の告白は突拍子もなく、軽いものではなかった。これまで一緒に戦い、彼女を支え続けてくれたアレックスが、ずっと胸の内に秘めていた本心を今ここで明かしてくれたのだ。
「僕は、君の自由を何よりも尊重したいと思っている。君が自分の力で未来を切り開く姿は、本当に美しい。でも……君がその未来に僕を含めてくれるのなら、僕はどんな形でも君と歩みたい。」
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ルミナは彼の真剣な眼差しに心を揺さぶられた。これまで彼を「頼りになる友人」として信頼してきたが、彼の言葉を聞いた今、彼が自分にとってどれほど大切な存在であるかを改めて実感していた。
しばらくの間、ルミナは言葉を探した。やがて、静かに口を開く。
「アレックス、私はあなたの支えがなければ、ここまで来られなかったと思う。あなたがそばにいてくれたから、私は何度も立ち上がることができた。」
彼女の言葉に、アレックスはじっと耳を傾けていた。
「でも、私はまだ自分の未来がどこに向かうのか分からないの。だから、あなたに今すぐ何かを約束することはできない。」
その言葉に、アレックスは微笑んだ。
「君らしい答えだね。君が自分の未来を探す間、僕は君のそばにいさせてほしい。それだけで十分だ。」
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その後、二人は日が沈むまでカフェで語り合った。アレックスはルミナに急かすことなく、ただ彼女の思いを受け止め、自分の気持ちを伝えた。彼の誠実さと温かさが、ルミナの胸に深く刻まれた。
別れ際、アレックスは彼女に一輪の白い花を差し出した。
「これは、君への贈り物だ。君が新しい未来を切り開くための祝福だと思って受け取ってほしい。」
ルミナはその花を手に取り、微笑みながら答えた。
「ありがとう、アレックス。私は、この花にふさわしい未来を作っていくわ。」
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その夜、ルミナは自室で白い花を見つめながら、自分の心と向き合った。アレックスの存在が自分にとってどれほど大きいものかを思いながらも、自分の足で未来を歩むためには、まだ多くのことを考える必要があると感じていた。
「私の未来には、どんな選択肢があるのかしら。」
彼女の瞳には迷いもあったが、それ以上に、新たな道を見つけるための強い決意が宿っていた。
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このセクションでは、アレックスがルミナに告白する場面を通じて、二人の関係が新たな段階に進む様子を描きました。アレックスの誠実さとルミナの自立心が絡み合い、これからの未来に向けての期待感を高める内容になっています。