偽聖女の失脚という大きな山場を乗り越えたルミナは、王宮から一躍注目を浴びる存在となった。彼女が集めた証拠と、彼女の揺るぎない姿勢は、王宮内外で称賛を受けていた。だが、ルミナ自身にとって、その称賛は彼女が目指すものの一部でしかなかった。
彼女の本当の目標――それは、誰の支配も受けずに自らの力で立つことだった。
---
偽聖女の告発から数日後、ルミナは王宮の庭園でアレックスと歩いていた。広大な庭には美しい花々が咲き誇り、心地よい風が二人の間を通り抜けていく。アレックスはルミナの横顔を見ながら、口を開いた。
「君がこの国を変える一歩を踏み出したことに、多くの人々が感謝している。僕もその一人だよ。」
ルミナは微笑みながら答えた。
「ありがとう、アレックス。でも、これで終わりではないわ。私にはまだやるべきことがある。」
アレックスは彼女の言葉に頷きながらも、どこか心配そうな表情を浮かべた。
「君がこれからどんな道を選ぶにしても、僕は全力で支える。けれど、無理をしすぎないでほしい。」
その言葉にルミナは少し考え込み、そしてゆっくりと口を開いた。
「アレックス、私はもう王宮の中で生活を続けるつもりはないの。これ以上、誰かの影響下で生きるのはやめるわ。」
アレックスの瞳が驚きで見開かれた。
「王宮を離れる……?本気で言っているのか?」
ルミナは真剣な表情で頷いた。
「ええ。私がここにいる限り、過去の婚約破棄や今回の一件で注目を浴び続け、いつまでも“王宮に属する令嬢”の枠から抜け出せない。それでは、本当に自由になることはできないわ。」
その言葉に、アレックスはしばらく黙り込んだが、やがて静かに微笑んだ。
「君らしい決断だ。君が望む未来に向かって進むなら、僕はその背中を押すだけだ。」
---
ルミナは王宮を離れる決意を伝えるため、国王との謁見の場に赴いた。広間には国王と少数の重臣たちが待っており、その中には彼女の元婚約者であるルークの姿もあった。
ルミナは深く一礼し、毅然とした態度で言葉を紡いだ。
「陛下、この度の件で私に発言の場をいただき、心より感謝申し上げます。しかし、これからの私は、自らの力で未来を切り開きたいと考えております。そのため、王宮を離れる決意をいたしました。」
その言葉に、国王は眉をひそめた。
「ルミナ、お前はこの国に大きな貢献をした。そのような人物をここで失うのは痛手だと分かっているのか?」
ルミナは頷きながらも答えた。
「その重みは十分に理解しております。しかし、私がここに留まる限り、過去の出来事に縛られ、真の自立を果たすことはできません。どうか、私の決意をお許しください。」
広間に一瞬の沈黙が流れる中、ルークが一歩前に出た。彼は困惑した表情でルミナを見つめた。
「ルミナ、本当にそれが君の望むことなのか?僕が……僕たちがもっと君を支える方法があるかもしれないのに。」
その言葉にルミナは目を細め、冷静に答えた。
「ありがとう、ルーク殿下。でも、私が望むのは支えられることではありません。自分の足で立ち、歩むことです。」
その言葉に、ルークはさらに何かを言いかけたが、結局口を閉ざした。
---
謁見が終わった後、ルミナは王宮を後にするため、自室で荷物をまとめていた。彼女の部屋に静かに現れたのは、カティアだった。
「これで、本当に新しい一歩を踏み出すのね。」
カティアはそう言いながら、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。
ルミナは微笑みながら彼女を見た。
「ええ。これが私の選んだ道よ。」
カティアはルミナの手を取ると、力強く握った。
「どんな道を進んでも、私はあなたの友人よ。忘れないで。」
---
その夜、ルミナは静かに王宮を去った。彼女が選んだのは、自分自身で築き上げる未来だ。過去の婚約破棄や偽聖女との戦いを経て、彼女は自分の力で立ち上がる決意を固めていた。
暗い夜空の下、ルミナはふと立ち止まり、星々を見上げた。
「私は私の人生を生きる。それが、私の選んだ答え。」
その瞳には、迷いも後悔もなく、新たな未来への希望が宿っていた。