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JK二人、過酷な異世界で冒険者になる
JK二人、過酷な異世界で冒険者になる
kuroshu
異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年05月10日
公開日
1.3万字
連載中
とある高校に通う二人の女子高生、渋谷スミカと宮沢リクは、ある日交通事故に巻き込まれた。 二人は怪我をすることはなかった。だが、その代わりに異世界に居た。 それまで相容れること無く日々を過ごしてきた二人が、緊急事態ということで手を取り合う。 中々深まらない絆に困惑しながらも過酷な世界を生き抜いていく物語。

第1話 雨と原生林

 ぼーっとした頭を横に振り、陽光に眩む目を軽くこする。

 光に目が慣れてくると、眼前には白い砂浜と地平線の彼方へ続く様なエメラルドグリーンの海が広がっていた。


 そんな景色に呆然としている私、宮沢リクは現在、浜辺に打ち上げられていた。


「……大丈夫?」


 少しハスキーな耳心地の良い声に語りかけられ、声の主へと視線を移す。

 するとそこには西洋人形ビスクドールを思わせるような、目を見張る程の美少女が立っていた。


 長い睫毛、透明感のある肌、プラチナブロンドのショートボブは、濡れて太陽の光に煌めいていた。

 はだけたワイシャツも透けて、肌に張り付いている。

 健康的な肉感の太ももに付いた砂を軽く払い、海水を吸ったスカートを絞り、軽く額の汗を拭った。


 同性だと言うのに、些細な仕草すら妖艶に見えてしまう。

 彼女は私と同じ高校に通っていた、遊馬あすまキズナという同級生だ。


「宮沢……まだぼーっとしてる?」

「あっ、だ、大丈夫」


 また声を掛けられて、私は慌てて立ち上がった。

 しかし軽い立ち眩みがして、思わずふらつく。

 すると彼女はすぐに隣へ来て、腕を取って支えてくれた。


「こんな状況だから、無理しないで」

「……ありがとう遊馬さん、でも本当に大丈夫。急に色々起こったから、ちょっと頭が整理できてないだけ」

「状況に混乱してるのは、私もそう」


 今一度、私たちは周辺を見回した。


 辺り一面は真っ白なビーチ、地平線の向こうには島すら見えずキラキラと太陽を反射する大海原が静かに波打っている。


 一方で後ろを見ると、見るからに人の手が入ってない原生林が目に入った。


 何故私たちはこんな場所に居るのか。

 具体的な理由は──分からない。


 私達は二人とも、下校中だった。


 横断歩道で信号を待っていると、暴走して来た自動車がこちらに突っ込んで来た。


 私は両耳にイヤホンをしていたので気付かなくて、すぐ近くで私と同じ様に信号を待っていたこの美少女……遊馬キズナに押し飛ばされる様な形で抱き締められた。


 それでも避けるには間に合わず、地面のアスファルトに激突するか、自動車に二人共跳ね飛ばされるか。

 私は行く末を見届けることをせずに目を瞑り、その時を待った。


 そうして倒れ込んだ先は……海。


 最初、私は水たまりに飛び込んだものの助かったのだと、そう思った。

 だが、どう体を動かしても水の中にいる様な抵抗感があり、気管に入った海水で呼吸も出来なくて、完全にパニックに陥った。


 次に私の意識が明確になったのは、遊馬キズナに抱き上げられたまま海上に顔を出してからだった。

 私を小脇に抱えて、このビーチまで泳いで来た彼女は私よりよっぽど疲れている筈なのに、そんな様子はおくびにも出さない。


「……あ、その……遊馬、さん」

「?」

「さっきは、助けてくれて──」

「待って、無駄話は後にしよう。少し不味いかも知れない」


 そう言って彼女は少し遠くの空を見上げた。

 釣られる様に、私もそちらに目を向ける。

 海の方からこちらに吹いてくる少し冷たい風、上空に見えるのは黒い、巨大な積乱雲。


 こちらの空に雲は見えないが、あと一時間もすればあの積乱雲が頭上に来るだろうか。


「この浜辺で雨は……確かに、危ないね」


 とは言ったものの、後ろは森。

 ここが何処なのかも分からず、近くに人が居るとも思えない。


「宮沢、何か使えそうな物持ってる? 私は全部鞄に入れてたから……海に流された」

「私は……ハンカチと圏外になってるスマホだけ」


 他の荷物は彼女と同じ様に、全て海に流されてしまった。

 当然インターネットの環境は無く、使えるのはライトやカメラくらいだろうか。

 それでもこの状況では、どちらもあるだけマシだと言えよう。

 心配なのは充電だが、幸いまだ九割ほどは残っている。


「暗くなったら使うかも知れない、バッテリーの消費は抑えておいて」

「それは良いけど……。この後、どうする?」

「……どうするにしても、取り敢えずは雨を凌がないと」


 雨で気温が下がるとなると、この濡れた制服のままで居るのもあまり良いとは言えない。


「……他に行ける所も無いから、森に入るしかなさそう」


 そんな訳で、私と遊馬さんは雨雲から逃げる様な形で足を進めた。

 歩き始めてから、雷鳴が耳に入って来るまで大した時間はかからなかった。

 私達は積乱雲を背にして、歩く足を早める。


 それから、歩き辛い濡れた制服とローファーで、体感的には三十分ほど。


 その後に雨雲に追いつかれて、周囲には強い雨が降り始めた。

 時を同じくして、私達は雨を凌ぐ為に、見るからに人の手が加えられてない原生林を走った。


 木々の隙間や枝葉から落ちる雫こそあれど、遮る物がない草原と比べれば、余程マシと言えそうな原生林の中。

 鬱蒼と繁茂した森の様子からして、この周辺は雨が多いのだろうか。


 歩きづらい土や隆起した木の根に注意しつつ少し進むと、人が入っても問題が無さそうな程に大きな樹洞の空いた大木が高々と伸びていたので、私達はその中で雨宿りをすることにした。


「大丈夫? 走り辛そうにしてたけど」


 濡れた長い黒髪を軽く絞っていると、不意に隣からそう聞かれた。


「んと……靴擦れが、ちょっと」

「いや、そっちじゃなくて」

「え?」


 思わず顔を上げると、確かに遊馬さんは私の足を見ていなかった。彼女の視線は靴では無くて──


「っ……何処見て言ってるの!?」

「胸、あんなに走って痛くないの?」

「余計なお世話だから!」


 同年代と比べると発育は良い方だ。自分の容姿が整っていると思ったことは無いが、この発育のせいで視線を浴びる事があったのは事実。

 けど身長も平均より大きいから、バランスの悪いスタイルでは無い筈だ。


「……少し、羨ましいかも」


 言葉の意味は分かっても、彼女がそう言った意図は分からなかった。

 私は寧ろ、遊馬さんの容姿……は少し目立ち過ぎるからあまり羨ましくは無いが、運動が得意そうな体型なんかは羨ましく思う。


 遊馬さんは、私よりも少しだけ身長が高くて、スポーツをやっていたのか細身ながらも筋肉質だ。スレンダーなモデル体型だと言えよう。

 それに、私と比べるとあまり疲れていない様に見える。


「遊馬さんって、スポーツとか……その、部活とかしてた?」


 話を逸らすついでに、この状況から少しでも気を紛らわせたくて、私はそんな質問をした。

 遊馬さんは考えるように唇に手を当てると、少し間を置いてから質問に答えてくれた。


「高校では何も。中学では、バスケ部に居た」

「うちの高校、バスケは強かったんじゃなかった?どうして入らなかったの?」


 遊馬さんは少しだけ眉を顰めて視線を逸らし、外で振り続ける雨に目を向けた。


「馬鹿らしいから」

「……?」


 可憐な横顔に、若干の苛立ちを含ませて少女はゆっくりと話し始めた。


「中学の時、目標にしてた大会の直前で、チームメンバーの喫煙が発覚して出場できなかった」

「喫煙って、中学生で?」

「そう。チームスポーツだから私一人が大真面目にやっても意味ないの。百歩譲って、実力で足を引っ張られるなら良い。でも、タバコがバレたから大会に出れませんって……やる気も無くなるよ」


 彼女は苛立ちを隠すこともせずに堂々と愚痴を吐き出した。

 ふと、遊馬さんはスカートのポケットを触って、不満気にため息を吐いた。


「普段気にして無かったけど、いつも持ってる物が無いと妙に心細い」

「あぁ、そうだよね……スマホ」

「……慣れるまで時間かかりそう」


 遊馬さんの呟きに苦笑いしか出来ず、私は樹洞の外に目を向けた。

 降り止みそうのない土砂降り、風が強くここにも少し雨粒が入ってくる。


「ねえ、宮沢はここ、何処だと思う?」

「何処……って言われても。正直言って、見当もつかない」

「……私たち、割と都会に居たよね」

「まあ、地方とは言え、田舎か都会かで言うと、都会だったと思う」


 私は出身が地方で少し田舎だったから、規模の大きい共学校の周辺の町というだけで十分都会だと思っている。


「何にせよ、あの状況から考えて、ここは──」


キイイイイィィィィイイイイ!!!


 不意に聞こえた、雨音に混じる異音。

 遠吠えの様な、咆哮の様な、比喩をするのも難しい聞き馴染みのない妙な音。


「──異世界、とか?」


 私は思わず、そんな現実味のない単語を口にした。

 無意識に顔を見合わせていた私と遊馬さんは、どちらも引き攣った様な苦笑いを浮かべていた。

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