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点焔2

 フェンスを越えると緩やかな下りが現れる。二人は忍び足で進む。徐々に暗くなっていく道にヒカリすらも不安を覚える。

 気づいたら空が見えなくなっていた。空の暗さに不安になったのかクナトは思わずヒカリの袖を引く。

 ヒカリは舌打ちをして、それを払う。


「きしょい」

「あ、ご…ごめん」


 クナトは思わずペコリと頭を下げたがヒカリは気にせずに歩き続ける。臆病なクナトはいつも隣にいるヒカリが眩しく思えた。常に堂々と歩く姿は憧れでもあった。

 お互い超能力はない。平凡な人間二人、その歩幅は気付いたら大きくなっていた。

 ヒカリは前を見ていた。常にその歩幅は大きく。勇ましい。その背中をずっと見ていた。

 遠いなと思い、いつか追い付くのかな?と歩幅を小さくしていた。


「何もねぇな」

「う…うん」


 ヒカリの言葉にクナトは静かに頷く。一本道の路地裏の先は地下になっているのか。常に暗い。足元をゆらりと照らす足元灯は道を示すが先を示さない。見えない向こう側を眺めながら、ヒカリは溜息を吐いた。


「帰るか」

「え?」

「帰りたい帰りたいと言ってたのは、誰だ?」


 ヒカリは呆れた顔をする。ガシガシと長い髪を掻き、後ろを向く。

 じろっと視線を向けられたクナトは思わず視線を逸らす。いつも、こうだ。とクナトは溜息を呑み込む。威圧的な態度をとるヒカリと相対すると思わず視線を逸らしてしまう。

 クナトは自分よりも背が少しだけ高いヒカリの顔を長い間ちゃんと見ていない気がする。中等部に入り、背丈に差が出始めたのもあるが、それ以上に彼の覇気に負けている。怯えては俯き、自然と猫背になっていった。気づいたら、身長は実際の数字以上の差ができた気がする。


 それほどに彼はしっかりとしている。


「…い!おい!クナト!!」

「え?あ!はっ…はい!」


 ヒカリの怒声が響く。思わず大声で返事をし、そして慌てて両手で自分の口を塞ぐ。それにヒカリは何も言わない。ただ静かにクナトの後ろへと視線を向けていた。

 何を見ているんだろうと、クナトは静かに後ろを向こうとした瞬間だった。ガシッとヒカリは両肩に手を置く。


「後ろを向くな」

「…」

「良いから黙って、前に進め」


 有無を言わさないヒカリの発言にクナトはブンブンと壊れたように頷く。ヒカリは後ろに一歩下がり、それにクナトは倣う。

 カツンカツンとスニーカーが床を叩く音が静かに響いた。ぺたりと後ろで何かが動く音が響く。

 カツンカツンとお互いの一歩進むたびにぺたりと音が、まるで素足で歩く音が鳴る。二人の音の間に別の異質な音が遅れてやってくる。

 冷たい空気が二人の間を通る。


 カツン…カツン…ぺたり、ぺたり。


 音が静かに増えた。ゾワと鳥肌が立ったクナトは顔だけを後ろへと少しだけ向ける。

 視界の隅に異形を捉えた。

 細長いそれは黒い人型だと認識できた。それは天井まで届く体を曲げていた。細い体を支える足は三本であり、一本だけ人、他は蹄である。凡そ体の中部からは人間らしい腕が一対生えているが、手首から生えているその手は二つある。二つの手首から生える四つの手もまた腕を持っている。カリカリと持っている腕の手が動く。

 ぱっくりと4つに割れた頭部は明らかに磨り潰す様な形をしている。


 異獣。

 それは異形の一種。つまり人類の天敵だ。


「おい!」


 クナトの視線が何を捉えたのを察したのか、ヒカリは怒声を出し、クナトの意識を逸らそうとしtが、無理であった。 

 ジジジジジジと異獣が響く。明らかに獲物を見つけた声だ。


「走れ!」


 パン!とクナトの頬を叩き、ヒカリは走り出す。それに驚くが、命の危機なのか、足を必死に動かす。

 タタタと二人の走る音が響く。それにぺたりぺたりと歩む速度を変えず、異獣が歩む。


 狩りの時間だ、と。ただただ二人を暗い暗い奥の道へと追い詰めていった。

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