クナトとヒカリは必死に走る。後ろから聞こえる音はまだ近づかない。しかし遠ざかるわけでもない。常に一定の距離を保っている。まるで狩りを楽しむような動きに二人の心は既に恐怖で埋まっている。
タタタと走る音が二つ重なれど、後ろから来る音から離れる事はない。
異形は常に人を狙う。食事の為なのか、娯楽の為なのか、そのどちらかなのか、いまだに知られていない。異形は人の天敵となるべき、生まれた存在ではないのかと考えられている。
大人ですら勝てない相手だ。ましては子ども二人は必死に逃げるしかない。
「こっちだ!」
奥から声が響く。低い声のそれに二人は希望が見えたのか、足が少しだけ速くなる。
右の壁から、男が体半分出している。そこにドアがあるのだろうか?二人はそこを目指す。男が伸ばしている手をヒカリが掴むと、一気に引っ張られる。
「一人目、確保!!」
声が響く。続けて、クナトが男の手を掴むと、また引っ張られる。
グイッとした浮遊感と共に彼もまた奥へと入る。続けてガン!!と強く閉まる音が響く。
「二人目!確保!!」
続けての怒声が響く。クナトとヒカリは安堵からか、腰を抜かしているのかへたり込んでいる。
その二人を大人三人が囲っている。若い男女二人と中年の男が一人。若い男は呆れた顔とし、女の方は安堵の表情を浮かべている。一見バラバラな三人を同じ場所に所属していると思わせるのはその軍服だ。灰色の軍服を纏うその姿は対異形部隊である
中年は怒りの表情を浮かべている。
「ガキども…!!どうしてここにいるんだぁ?!」
怒声が轟く。ビクッとヒカリとクナトはその姿勢を正す。いわゆる正座だ。
悪戯好きで向こう見ずなヒカリとその付き添いをよくするクナトの二人は説教の対象になりがちであった。叱られている時は正座をすべきだ、と体に沁み込まれているほどだ。
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ、
「何とかな!ここは一般人の立ち入りが禁止されている区域なのを忘れたか?」
若い男性は慰めるが中年の男、鬼神の怒りに油を注ぐだけであった。鬼神は口をパクパクと開け閉めした後、溜息を最後に絞り出す。
「…このガキはどっから来たのか」
「…侵入したんでしょう」
「いえ。急に現れましたので、ちょっと不気味です」
鬼神の言葉に若い二人はこそこそと相談をすうr。
「おい、ガキども。てめぇらはどっから来たんだ?」
「あ、ああああ…ぼぼぼぼ…」
返事をしようとしたクナトは言葉を失ったのか、震える声しかでない。チッと舌打ちをし、ギロリと視線をヒカリへと向ける。
「お、俺たちはC地区の地下街から来た」
「あっ?」
「き!来ました!!」
そこに通路があったのか?と頭の地図を探る為に思わず漏らした声にヒカリは慌てて敬語に直す。自分の部下ではないのでため口だろうが、なめた態度でも気にしていない鬼神は女へと目を向ける。
「おい、
「えーと…いえ、ここはA地区地下ですね」
「…あぁ、くそ」
鬼神は悪態を吐き、男へと視線を向ける。それに察したのか、男もまた顔を顰める。
「奴ですか?」
「あぁ、奴らだ」
誰のことだ?とヒカリとクナトはキョトンとする。説明欲しさに角田へと視線を向けるが、角田もまた顔を顰めている。
「異形の方が楽なのになぁ」
「そもそもここに出ちゃいけないものですので…奴らの手引きしかありえませんね」
「確かに」
はぁと若い二人は溜息を吐く。
「俺は奴らの調査を続行する。石飛と角田はガキを連れて帰還だ」
「ハッ!!」
鬼神の言葉に二人は右手を自身の胸に強く当て、敬礼を行う。
「俺は先に向かう。5分後に行動を開始しろ」
鬼神はそう言い、ドアの外へと出て行った。