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点焔 4

 鬼神が去って5分してから四人は作戦通り通路へと出る。暗い道をほんのりとした明りがじっくりと否定しようとしている。

 角田は前を歩き、その後ろにクナトとヒカリ。そして最後尾に石飛が着いた。

 恐る恐ると歩く四人。牛歩ながらもその歩みを止めることはなかった。


「あ、あの…」


 クナトはちょっとだけ口を開き、そして黙る。何か言いたげに言葉を探し、しかし何も言わずに黙々と進む。クナトには気になっていることが一つある。後ろにいるヒカリも同じ意見だろうか、後ろから突かれた。思わず睨もうと後ろを見るがヒカリの睨まれ、静かに前を向いた。


「あの…角田さん」

「はい、何でしょうか?」

「あ、いえ…えーと」


 クナトの言葉に角田は柔らかく返事する。クナトはちょっとだけ口ごもる。それに角田は何も言わない。


「ガキんちょ、そいつさ旦那さんはもちろん、お子さんもいるからな。ナンパは止しとけよ」

「ち、違いますっ…」


 後ろか石飛が茶化す。それに思わず顔を朱色に染めたクナトは小さく反論する。その反応にヒカリはちょっとだけ笑う。笑い声が真赤になった耳まで届いたのか、クナトは俯いた。


「石飛さん、茶化さないでください」

「へいへい」

「それで質問は何でしょうか?」


 角田の言葉にクナトは静かに口を開く。


「”奴ら”って何ですか?」

「…異形の事ですよ」


 角田は静かに返す。嘘だ、と直感が囁くがそれを証明する方法などはない。それ以降何も言わずに着いていくことにした。無言を貫けば、自然と足音が大きく聞こえる。

 談笑する空気はなく、緊張感が四人へと静かに反響する。カツンカツンと2つの硬い足音がカツカツと響く弱い足音を消している。

 ぺたりと何かの音が混ざった。


「っつ?!」

「角田さん、検知できましたか?」

「はい。目の前に…」


 角田は静かに言う。彼女はピリピリと静かに電気を纏う。目の前をゆっくりと睨む。

 角田は発電能力者アストラキネシスだ。普段は自分の中にある微細な電気信号を何倍にも増幅し、操作する能力である。

 特に角田は電気の繊細な操作を得意としている。繊細な電気を飛ばしては反射により物の位置を把握する事を特技としている。一種のソナーとして、鬼神が重宝している人材の一人だ。


 ぺたりと足音が響く。

 音が前方から来ているのはわかる。石飛はゆっくりと右手を開く。


「に…」


 角田の声は消えた。

 ビシャとクナトの顔に暖かい液体が掛かる。鉄の臭いがするそれが血なのを理解するのに時間は掛からなかった。

 何故なら、クナトの前でポロンと角田の首は落ちた。ブドウを房からもぎ取るよりも簡単に落ちた。

 どさと角田が目の前で倒れた。

 転がった頭をクナトは目で追う。それは暗がりの奥へと向かう。

 ぺたりぺたりと奥からそれはゆっくりと現れる。脚は二つ。素足のそれは人の足にしては歪だ。踵から四つに分かれた橙色の太い指は人の指と近い構造をしている。ぐにゃりと不快そうな動きで足が上がり、床へと着く。ぺたりと足音が響く。

 胴は細かった。細枝と例えるべきか、内臓はないのをわざわざ開かなくとも、外から察するだろう。頭を支えるには不格好であり、そもそも頭部自体が不格好だ。

 人の大きさに迫る程の大きさのそれは、だらりと無数の腕を中央から一本ずつ垂らせていた。頂点には口があり、その中には人の顔程の大きさの目玉が一つ。目は明らかに三人を捉えていた。


「二人共!下がれ!!」


 固まっていたクナトとヒカリは竦んでいた足を必死に動かそうとする。ブオンと二人の間に突風が通る。

 後ろにいた石飛が二人の前に飛び出す。


 それと共にバンと目の前の異形が暗闇の奥へと吹っ飛ぶ。

 石飛の風操作者アネモキネシスの能力だ。自身の周りの気圧を操作し、高低差を生み出す事で風を操る能力である。突風を生み出すには気圧の層を幾千も重ねなければならず、極めるには膨大な集中力が必要な能力でもある。


「俺が引き受ける!だから!逃げろ!」


 石飛はそう叫び、再び手に風を纏った。

 パン!と石飛の左腕が飛ぶ。


「つっ!」


 ぶわぁと纏った解除される。奥からゆっくりと異形が現れる。静かに頭を垂れ、その巨大な瞳を静かに石飛へと向けている。

 キランと異形の目が輝いた。やばいと、石飛は痛みを耐えないと、と目を瞑り歯を食いしばる。


 ドン!と鈍い振動が響いた。

 カンと地面に何かが当たる硬い音が響く。石飛は目を開けると目の前に地面が広がっている。自分の上に誰かがいるような感覚がする。

 震えているのは恐怖からだろう。何故か熱く感じるそれはクナトだ。


 チリチリと背中が焼ける感覚に石飛は驚く。


「クナト!」


 後ろからヒカリの悲鳴に近い声が響く。

 臆病な癖に何故、とヒカリは固まる。チリチリと赤と黄色の何かがクナトの近くで飛び回る。


 それが火の粉なのをヒカリは知らない。クナトもわからなかった。

 なんせ、二人は臆病な学生だからだ。超能力など覚醒していない。覚醒する時期はとっくに過ぎたはずの少年だからだ。


 クナトは点焔てんかした。



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