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5-4 幸せの誓い

第五章:永遠の誓い


5-4 幸せの誓い



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戦場に広がる静けさ――隣国の軍はついに撤退し、長く続いた緊張の糸がようやく解けた。ヴィンセント率いる軍の勝利は確実なものとなり、辺りには勝利の歓声が微かに響く。


だが、アリエッタにとってそれ以上に大切なことがあった。彼の無事だ。


「公爵様……!」


ヴィンセントが鎧に僅かな傷を負いながらも、確かな足取りで戻ってくるのを見つけると、アリエッタは胸の奥にこみ上げる感情を抑えきれず、彼に駆け寄った。


「お前、泣いているのか?」


ヴィンセントは彼女の涙を見つけ、呆れたように言う。しかしその言葉とは裏腹に、彼の目には静かな優しさが滲んでいた。


「だって……本当に、無事で良かったんです……!」


アリエッタは涙を拭おうともせず、ヴィンセントの鎧にしがみついた。彼の温もりを感じた瞬間、心の底にあった不安と恐れが一気に解けていく。


「私は、あなたの無事だけを願っていました……。それだけが、私にとって何よりも――」


「分かっている」


ヴィンセントは小さなため息をつくと、彼女の肩にそっと手を置いた。そして、彼女の顔を真っ直ぐに見つめ、金色の瞳に確かな光を宿す。


「私は必ず戻ると約束しただろう。お前のために――そして、私自身のために」


その言葉に、アリエッタは涙をこぼしながらも微笑んだ。戦場の混乱が終わり、彼の言葉だけが静かに心に響く。



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翌日、ヴィンセントとアリエッタは共に軍とともに領地へと帰還した。彼らの勝利と無事を祝うため、村人や領民たちは城門の前で盛大に彼らを迎え入れる。


「公爵様! そして公爵夫人! どうかこれからも私たちをお守りください!」


その歓声の中、ヴィンセントは馬上で静かに手を上げた。その姿は威厳に満ち、領地の守護者としての責務と誇りが彼の背中に宿っていた。そして、アリエッタもまた彼の隣で堂々と顔を上げ、優しい微笑みを浮かべていた。



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夜になり、戦いの終わりを祝う晩餐会が公爵邸で開かれた。広間にはたくさんの笑顔が溢れ、兵士たちや使用人たちも勝利の喜びを分かち合っている。


そんな中、アリエッタは静かにヴィンセントの隣に座り、彼の顔を見つめた。


「公爵様、皆がとても嬉しそうですね」


「ああ。戦いが終わり、ようやく平穏が戻った」


ヴィンセントの声は低く落ち着いているが、その表情は以前とは違う。彼の氷のような態度はすでに崩れ去り、今は静かな安らぎが漂っていた。


「これも……公爵様が守ってくださったおかげです」


アリエッタが微笑みながら言うと、ヴィンセントは小さく首を振った。


「違う。お前がいたからだ」


「私が……?」


「お前がここにいて、私を信じてくれたからだ。お前がいなければ、私はこんな風に領地を守ることもできなかっただろう」


ヴィンセントの言葉に、アリエッタの目に涙が滲む。


「公爵様……」


「だから、これからも私の隣にいろ」


彼の言葉は命令のようでありながらも、どこか温かい愛情に満ちていた。


「私も……ずっと、公爵様の隣にいます。何があっても、離れません」


アリエッタは微笑みながら彼に誓う。その瞬間、ヴィンセントはゆっくりと彼女の手を取り、静かに口づけを落とした。


「お前と共に生きることを、私も誓おう」


その言葉は彼にとって、何よりも重く、そして確かな愛の証だった。



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晩餐会が終わり、夜の静けさが戻った公爵邸の庭で、二人は再び白い花々に囲まれて立っていた。月明かりが花を照らし、冬の終わりの気配が感じられる。


「この庭……本当に綺麗ですね」


アリエッタは静かに呟き、白い花に手を伸ばす。


「お前がここに来てから、よく咲くようになった」


「公爵様も、そう言ってくださいましたね」


アリエッタは微笑みながらヴィンセントの顔を見上げた。その視線に、彼は静かに答える。


「お前のおかげだ。私の心も、この花のように少しずつ温かくなった」


彼の言葉は不器用だが、その真っ直ぐな気持ちが、アリエッタの心に温かく響いた。


「私も、公爵様のおかげです。あなたがいたから、強くなれました」


アリエッタが彼に向かって微笑むと、ヴィンセントはそっと彼女を抱き寄せた。


「……これからも、ずっとお前を守る」


「はい、私も公爵様のそばで、あなたを支えます」


二人は月明かりの下で静かに誓い合う。冷たい冬が終わりを告げ、新たな季節が二人に訪れようとしていた。



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氷の公爵と呼ばれた男は、温かな愛を手にし、彼女と共に未来を歩み始める――。それは永遠に続く、幸せの誓いだった。



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