クラリス・ド・ロレンは、美しくも華やかな夜会の中心に立っていた。豪華なシャンデリアの光を浴び、彼女の長い金髪はまるで太陽の光を反射するように輝いていた。今日という日を、彼女はずっと心待ちにしていた。王太子レオン・ヴァン・エルクスとの婚約が正式に発表されるという、人生の中でも最も大切な瞬間になるはずだったからだ。
「クラリス、素晴らしい夜ね。この日が来るのをずっと待っていたわ。」親友のエリザベスが隣で微笑みながら言った。
クラリスはうなずき、幸福感に包まれた。「そうね、私たちの未来が輝かしいものになるわ。」
しかし、その瞬間、宮廷の奥から足音が響き、レオンが姿を現した。彼は王太子としての堂々たる風貌を持ち、誰もが見惚れるほどのカリスマを放っていた。しかし、クラリスはすぐに違和感を覚えた。いつもなら優しく微笑みかけるレオンが、今日は冷たい眼差しを向けていたのだ。
レオンはゆっくりとクラリスの前に立ち、人々の視線が二人に集中した。彼の口元がゆっくりと開かれ、その言葉がクラリスの心を凍りつかせた。
「クラリス・ド・ロレン、私との婚約を破棄する。」
静まり返ったホールで、時が止まったかのような静寂が広がった。クラリスは呆然とし、耳を疑った。自分が何を聞いたのか、信じることができなかった。
「……なぜ、ですか?」声を絞り出すように、彼女は震える声で問いかけた。
「お前が国家反逆の罪を犯したからだ。」レオンの冷酷な声が響き渡る。彼は人々の前で、無慈悲にクラリスを見下ろしていた。
「国家反逆……そんなはずがありません!」クラリスは必死に否定した。彼女は誰よりも忠誠心を持ち、王国の繁栄を願って生きてきた。裏切りなど考えたこともない。それなのに、どうしてこんな嘘が広められているのか、彼女には理解できなかった。
「証拠は揃っている。お前が敵国に機密情報を流したことは確実だ。お前はこの国の裏切り者だ。」レオンは断固として言い放った。
クラリスは震えが止まらなかった。目の前が真っ暗になり、足元が崩れるような感覚に襲われた。かつて信頼していた婚約者が、自分を陥れ、処刑しようとしている――それも、自らの名誉を守るための口実として。
「レオン様、どうして……どうしてこんなことを……」クラリスは涙を浮かべながら問いかけた。
しかし、彼はもう一度冷たく彼女を見つめるだけだった。「お前にはもう、言い訳の余地はない。処刑台に立て。」
その言葉に、クラリスは絶望した。宮廷の貴族たちも誰一人として彼女を助けようとはしない。皆が無言で彼女を見下ろし、まるでゴミを見るかのような冷たい視線を投げかけていた。彼女の友人であるはずのエリザベスも、冷たい微笑を浮かべたまま、何も言わずに彼女を見つめていた。
「エリザベス……あなたまで……」
「クラリス、あなたはあまりにも完璧すぎたのよ。誰もがあなたを羨んでいたわ。だから、あなたが失脚するのを待ち望んでいたのよ。」エリザベスは静かに告げ、さらに一歩クラリスに近づいた。「これでようやく、私がレオン様の隣に立つことができるの。」
クラリスはその言葉に完全に打ちのめされた。親友だと思っていた人に裏切られ、婚約者にまで捨てられた。彼女は何もかもを失い、この場で処刑される運命にあった。
数日後、クラリスは冷たい鉄の枷をはめられ、処刑台へと連行された。彼女の美しいドレスは泥まみれになり、かつての輝きは失われていた。処刑人が剣を構え、人々が彼女を嘲笑しながら見守る中、クラリスは最後の祈りを捧げた。
「どうか、この苦しみを終わらせてください……」
その瞬間、突如としてまばゆい光が彼女の周囲を包んだ。クラリスは驚きに目を見開いた。光の中から現れたのは、美しい女性の姿だった。彼女の長い銀髪が風に舞い、まるで天使のような存在だった。
「あなたは……誰?」
クラリスが恐る恐る問いかけると、その女性は優雅な微笑を浮かべ、優しく彼女に語りかけた。
「私は運命の女神、フローラ。あなたを救うためにここに来たの。」
クラリスは驚愕し、言葉を失った。「私を、救う……?」
「そうよ、クラリス。あなたにはまだやり残したことがある。あなたは裏切られ、無実の罪で処刑される運命にあったけれど、それで終わりではないわ。私はあなたに、運命を変える力を授けましょう。」
クラリスは信じられない気持ちで、フローラの言葉を聞いていた。運命を変える力――それが本当に手に入るのならば、自分はこの屈辱から抜け出すことができるのか。
「あなたが望むのならば、私は新たなチャンスを与えましょう。今度はあなた自身の力で、運命を切り開いていくのよ。」
光がますます強くなり、クラリスの身体がふわりと浮かび上がる。彼女の心には、希望と新たな決意が芽生えていた。
「私は……私の運命を取り戻す……!」
その言葉とともに、クラリスは新たな人生の第一歩を踏み出すことになった。彼女の復讐と成長の物語は、ここから始まるのだ。