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第36話友人+一人?

 俺は陽気な気分で廊下を歩く。玄関で靴に履きかえ外に出る。向かう先は正門であり、足を伸ばせばそこには四人の女子生徒が会話する姿が見えてきた。


 その内の一人。それは、皆と同じ制服姿のミルフィアだ。新品の制服に袖を通し三人の話を丁寧に聞いている。


「それよりも聞いてよミルフィア、私は恵瑠のために頑張ったのに、恵瑠ったらすぐに逃げ出すのよ?」

「だって、無理ですよ~」

「ねえ、ミルフィアさんって動物なにが好きなの?」

「えっと、私は……」

「おいミルフィア、答えなくていいぞ」


 なにやら危ない質問が聞こえてきたのですかさず声を掛ける。俺からの呼びかけにミルフィアは驚いたように振り返った。


「主!?」

「神愛遅い!」

「神愛君、お疲れ様です」

「宮司君……、どうして邪魔するの?」


 同時に三人の声も投げかけられる。とりあえず三人は無視して、俺は緑の少女に近づいた。


「お前、ミルフィアを巻き込もうとするんじゃねえよ」

「そうね。これは誰も立ち入ることの出来ない二人だけの秘密の関係の方がいいわね」

「秘密の関係!? 主! 秘密の関係とはなんですか!?」

「ちげえええええ!」


 紛らわしい言い方するんじゃねえよ、それと俺は違うって言っただろうが! 天和は相変わらずだがあとでしっかりと説明しておかないとな。


「ところでさ神愛、気になってたんだけど」

「ん?」


 すると加豪が俺に聞いてきた。


「事件があったあの時。どうして体育館に現れたのよ? よく分かったわよね。まあ、それで助かったんだけどさ」


 そう言いながら加豪はどこかもじもじしていた。


「あー、あれか」


 俺は思い出す。ヨハネ先生が三人を体育館で襲った時、間一髪というタイミングで俺は現れたわけだが、それには理由があったのだ。


「お前らと別れてから喉が渇いてな。体育館の近くに自販機があること思い出して行ったんだよ。そしたら中から女の悲鳴が聞こえてきたから、なんかエロいことでもしてるのかと思ってな、木を登ってみたんだよ」

「ちょっと待って! あんた落ち込んでたんじゃないの!?」

「しゃーねえだろ、気になっちまったんだから! それで見てみればお前らが大ピンチだったから飛び込んだのさ」

「サイテー、聞かなきゃ良かった」


 ヒーローよろしく登場した俺だがそういう経緯だった。加豪はなんだか落ち込んでいる。仕方がないだろ、そう不貞腐れるなよ。


「それよりも皆さん! これからボクたち遊びに行くんですよね!?」


 と、今度は恵瑠が大声で呼びかけてきた。実はこれから皆で遊びに行く予定になっているのだが、そのことを熱気の帯びた声で確認してきた。


「そうよ」

「うをおおお!」


 加豪の返事を聞いて何やら恵瑠があらぶっている。ビームでも出すのかこいつ?


「それではさっそく行きましょう! お洒落な喫茶店でお話してカラオケで歌って最後には皆でプリクラを撮るんですよね? 分かります!」

「待て待て待て、その女子が女子による女子のための女子会コースに、男である俺が一人っきりで参加するのか?」

「行きましょう!」

「聞けよ!」


 逸る気持ちを抑えきれず小動物は走り出してしまった。その後を慌てて加豪が追いかけ天和も自分のペースで歩き出す。すっかり出遅れてしまい、やれやれと頭を掻いた。


「仕方がない、俺たちも行くか」

「はい、主」


 隣から返事が聞こえる。振り向けばそこにいるミルフィアと目が合った。


 制服を着たミルフィア。皆と同じ服装で、これからは学校でも消えていなくてもいい。ずっと皆と一緒にいられるようになったんだ。普通の女の子として学校にも通えるし、友達のように皆と話すことも出来る。


 そしてミルフィアの腕章には、俺とお揃いの黄色のダイヤが印されていた。


「なあ、ミルフィア」


 隣にいる少女は、とびっきりの美少女だという点を除けばどう見ても普通の女の子だ。気品のある佇まいと可憐な瞳で見上げてくる女の子。


 そんな彼女に、俺は、ふと聞いてみた。


「俺と、友達になってくれないか?」


 言葉は自然と出てきた。今なら聞ける気がしたんだ。


 一緒に通学して、同じクラスメイトで、ずっと傍にいる彼女。学園に通うミルフィアはもう普通の女の子と変わらない。加豪や恵瑠と天和とも友達のようにこれから遊びに行く。


 果たして願いは叶うのか。


 けれど、ミルフィアは寂しそうに笑うんだった。


「それはなりません」


 断られた。まるでフラれたみたいだ。いや、フラれたのか。ちくしょう、それでも可愛い。


 ミルフィアは左胸に手を当てて、申し訳なさそうに笑っていた。


「私は主の奴隷。ミルフィアは、ずっとあなたにお仕えいたします」


 穏やかで、優しい声が俺の願いを否定する。


「…………ハッ」


 ミルフィアの答えに、けれど俺は笑った。それは皮肉った笑いではなく、気持ちの整理がついた笑い声だった。俺は晴れた表情で相変わらずの隣人を見つめる。


「ああ、そう言うと思ってたよ」


 ミルフィアは変わらない。初めて出会った時からずっと。きっとこれからも自分は奴隷だと言って接してくるのだろう。


 降参だ。でも、それは今はという話。すぐにでは無理でも、いつしか友達になってやる。


 俺は決意を改める。だというのに、


「我が主。私はずっとあなたの傍にいます。そこであなたを支えます、永遠に」


 誇らしそうにそう言ってきた。金髪がきらりと光り、青い瞳が真っ直ぐに俺を見つめている。


「……ったく、知ってるよ」


 やれやれ、だいぶ先になりそうだな。


 何度も聞いた台詞に投げやりに答えて、俺は三人の後を追いかけた。続いてミルフィアも歩き出す。

 まるで友達のような奴隷を引き連れて、俺はこれから友達と遊びに行く。頭上に目線を向ければ澄み切った青空がどこまでも広がっていた。


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