――純喫茶スプートニクの朝!
「ああーっ! ウィザードのやつ、一人だけ行きやがったああああ」
ユカは、目を覚ましてすぐ、メモに気が付き、声を張り上げた。
「なんだなんだ? ユカりんどうしたよ?」エミリー・チャンが即応。
「ウィザードのやつ、一人で土浦に行っちゃったよ」
メモには一言だけ、こう書かれていた……。
(――ユカへ おれは自宅に戻る 後のことはよろしく!)
「ぷっ、なんだこりゃあ? 篠原くんらしいわ」
「ちょっと、笑い事じゃないわよ。んもー、相変わらず言葉足らずなヤツなんだからあ!」
ユカは腕を組み、どうしたものかと思案をしていると、
「いつ都内の電力供給が回復するか、まったく見込みが立ってない以上、私たちもこのままここにいても、何も出来ないわね」エミリー・チャンが冷静に状況判断をした。
「うーん、追いかけちゃおっか? 二人で」
ユカが少しいたずらっぽくそういうとエミリー・チャンもそれに呼応して、
「行っちゃうぅぅぅ? ふふふ」
――ダンダンダン!
その時、店の裏口を激しく叩く音が鳴り響いた。
「警察だ! ここを開けなさい!」
警察だった。朝の6時に裏口からくるとは、セオリー通りのやり方だ。
「……!」
「この声は……サンダーボルト・ジョウ!!」
ユカとエミリー・チャンは、顔を見合わせて驚いた。
「なぜ、あいつがここに……そもそも管轄が……」
――ダンダダン! ダンダダン! おい開けろ!
「えー、めんどくさ」
エミリー・チャン、警察だろうが稲妻刑事だろうが、またくびびらない、ひるまない。
「しょうがない、入れてやるか……」
――ガチャッ!
「なんだなんだ?」
「えっ? 警察?」
ケルベロスの二人、佐竹ちゃんが目を冷ました。
「エミリー・チャン! らんらんマークタワーの器物損壊の件について話を聞きに来た。あと、横浜市内の大規模停電やらシステムトラブルについての話もな……」
「はぁ? ジョウったら何言ってくれてんの? 私になんの関係が……」
「とぼけても無駄だエミリー・チャン! お前が動き、ハマの狂犬・ケルベロス三兄弟が動いてんだ。何もないわけがなかろう?」
「そんなバカな? 状況証拠すらなく、推測だけで言ってる?」
「ちょ、いきなりやめましょう稲妻さん、冷静に話を聞きましょうよ」
王刑事が、暴走する稲妻刑事をなだめながら、エミリー・チャンたちに向け軽くウインクをした。
――とりあえず経緯を話す、エミリー・チャンとそれを聞く王刑事
「なるほど、わかりました」
王刑事、理解が早い。エミリー・チャンも一息つけた。
「ほらあ、稲妻さん、だから言わんこっちゃない。まぁた、冤罪でしょっぴいて始末書かくところですよ?」
「ん、いや……まぁ、そういう事もあるさ。俺は直感とイマジネーションで動くのを信条としているからな」
「そういう問題でもないでしょう。とにかく、どうやらこの人たちはシステムトラブルの解決を試みようとしているというのはわかりましたし、これ以上被害が拡大する前に、警視庁にも協力を要請しましょう」
「そ、そうだな……しかし、都内でも停電と……携帯電話が使えないとはなぁ」
さすがに騒がしくなってきたので、佐藤と山之内も目を覚ました。
「一体なんの騒ぎです?」
「あっ、山之内さん、おはようございます。なんかえみりーちゃんが破壊活動でしょっぴかれる……ところ?」
「違う違う! 暴走した稲妻刑事が早とちりしただけだよ。まったく……」
エミリー・チャンがそう答えると、佐藤さんは微笑みながら言った。
「やだな、分かってますって! 冗談ですよ。うふふ」
――午前8時半……
「稲妻さん……なんか外が騒がしいですね」
「ん? なんだ? 防災無線か?」
「ちょっと外に出てみましょう」
「そうだな……」
気になった皆で、外に出てみた。
防災無線の放送が、神田神保町の空に響き渡る。
普段なら通勤客やら、観光客、地元の住民などで歩行者や車がひっきりなしに行き交う地下鉄入口前の交差点も閑散としていた。
ポーン! 「こちらは……防災千代田区です。……現在、都内では……大規模な……停電が……発生しています。停電の影響で、交通機関はすべて運休となっています。都内の道路は、車両の通行ができません。都内にお住まいの方は自宅で待機してください。なお、都内の避難所はすべて閉鎖されています。避難所にお越しの方は、近くの公園や広場で待機してください」
「今更こんな放送に意味があるのかな……」
「どうだろう……停電解消の見込みとか分からないのかな……」
「私たちも、土浦に行きましょう!」
ユカが、突然提案をした。
「は? 篠原くんの家にかい?」
エミリー・チャンが疑問をぶつけた。
「えぇ、あそこはまだ停電してないでしょうし、いつ復旧するか分からないここにいてもしょうがない……」
「王、俺達は警視庁に行ってみよう。ここからならすぐだ。皇居の向こう側だ」
「そうですね、稲妻さん……我々も情報が足りないので、警視庁の中島さんに合流しましょう」
「じゃ、俺達は桜田門の警視庁に行くわ……」
「あっ、エミリーさん、これ、私の名刺です。メールアドレスも書いてありますので、なにか情報が入りましたら私に連絡をください。電話は復旧していないが、インターネットはまだ大丈夫なようなので……」
王刑事が、内ポケットからいそいそと名刺を取り出し、エミリー・チャンに渡した。
「しょうがないねぇ、ハイ……私のアドレス!」
エミリー・チャンがメモ用紙に自分のメールアドレスを走り書きして王刑事に手渡した。
「ん!」
「それじゃあ、私は佐竹ちゃんを乗せるから、二郎と三太は、ユカりんと佐藤さんをのせてくれる?」
エミリー・チャンが段取りをしていると、佐藤さんが、
「いや、私はここに残ります。ここは官公庁に近いので、緊急時に直接出向いて連絡がとれますので……。 代わりに山之内さんを連れてってやってください。ここに山之内さんが来ているって事は篠原さんの判断で、必要な事があると思っての事でしょうし」と、いい残る事になった。
稲妻・王の二人の刑事は警視庁へ、ユカ達はケルベロスのバイクと、エミリー・チャンのバイクにタンデムで土浦に向かう事になった。
いつのまにか雨も止み、雲の切れ間から陽射しがアスファルトの路面を乾かし始めていた。
―― 第二章おわり 第三章へつづく ――