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13.8人制サッカー②

後半は相手のキックオフからだった。緑チームは前半と同様の作戦で挑んできた。GKの星島を信頼しているためであった。緑チームの自陣でボールをショートパスで回し、じわじわと攻め込んでいた。


(とりあえず俺は俺から見て右側、月岡君がいる方向に攻撃をさせるように誘導すればいいんだな)


玉緒は相手のCBにボールが渡ったので、左側からプレッシャーをかけた。相手のセンターバックは左側にパスが出せなくなったため、右サイドにボールを渡した。それを見越して白チームの右サイドMFが距離を詰めた。そして相手チームの選手はたまらずに中にボールをパスした。しかし、それを月岡は見逃さなかった。素早いスピードでパスをインターセプトし、そのままゴールへとドリブルを開始した。


(月岡君はそのまま右サイドを駆け上がっている。てことは・・・)


玉緒はマークされながらもペナルティエリアに入った。そして月岡が右サイドを駆け上がったところで相手の選手がゴールの近い方、ニアサイドを埋めてきた。その瞬間、玉緒は後ろへ下がった。玉緒は感覚だけでシュートモーションを作れるスペースを確保した。


(ナイスだ! 修斗! よし、このまま修斗にクロスボールだ!)


月岡はピッチの端から中央にボールを寄せるクロスボールというパスをあげた。それを見た玉緒は足では蹴ることができ無いと判断し、ジャンプをした。そしてそのままヘディングを行った。


(甘いぜ! コースがよ!)


しかし、星島がそれをパンチングでゴールを防いだ。ボールはゴールラインを割り、白チームの左側のコーナーキックで再開をすることになった。


「修斗、今のヘディングは良かったぞ。篤じゃなかったら多分入っていた。気にするな。それより、次のコーナーキック、手を上げたら俺のそばに来てくれ。パス出すからドリブルで切り込んでくれ」


「分かった」


月岡は玉緒に指示を出し、コーナーキックをするために準備をした。そして月岡は手を上げて蹴る合図をすると同時に、玉緒は月岡に近づきパスを受けた。そしてそのままドリブルで切り込んだ。


(くっ! この黒ジャージ、めちゃくちゃドリブル上手い・・・)


緑チームの選手はすぐに玉緒にプレッシャーをかけたが、玉緒はとっさにボールを相手の股に通して切り抜けた。そしてそのままペナルティエイア内入るとシュートを放った。


(くそ! 当たれ!)


 星島は左側に思いっきり飛んだ。精一杯手を伸ばしてブロックをしようとした。そしてかろうじて指の先がボールにかすり、軌道をずらすことに成功した。ボールはゴールの上のポストに当たって入ることはなかった。そして緑チームのDFがそれを白チームのコートに返し、クリアをした。


「上がれ! カウンターだ!」


星島が倒れたまま緑チームに指示を出した。緑チームのFWはクリアされたボールに追いついた。そしてそのまま白チームのゴールに向かってドリブルを開始した。しかしすぐに後ろをカバーしていた白チームのMFと守谷を含むDFが進路とパスコースを塞いだため、白チームのFWは一旦自陣にボールを返した。そのままゲームは膠着状態に入り、残り5分となっていた。そしてボールは白チームのスローインから始まった。


「修斗聞いてくれ、スローインのボールは俺が受ける。そしたらオフサイドに気をつけて逆サイドから上がってくれ。俺がそこにロングパスをする。修斗のスピードなら相手チームのDFはおいていけると思うから。タイミングは俺がボールを受けてすぐだ」


「・・・了解」


玉緒はこれが攻撃の最後のチャンスだと感じていた。今回の試合にアディショナルタイムという延長時間はない。ここまでくればもう引き分けが見えていたが、月岡は最後にカウンターされるリスクを背負ってでも玉緒に賭けることを選んだ。そして最後のスローインが行われた。


(よし! 月岡君にボールが渡った!)


ボールの位置を確認した玉緒はオフサイドに気をつけながら一気にコートを上がった。そしてそれを見た月岡は逆サイドにパスを出した。


(さすが月岡君、上手いな!)


そのパスは見事に通った。玉緒はそのまま右サイドを駆け上がっていった。しかし緑チームのDFとMFは玉緒が上がったのと同時にすぐに自陣に下がっていた。もうすでに緑チームの中で玉緒は単なる素人ではないと判断していた。そのため、玉緒のマークについていた二人はボールを見ず、玉緒だけを見ていたのですぐに反応できた。


(抜かせない!)


緑チームのDFは玉緒の進行方向に立ちふさがり、ドリブルのコースを塞いだ。しかし玉緒はドリブルのスピードを落とさなかった。そして玉緒はボールにタッチする振りをして、右足のかかとをボールの前に通過させて大きくまたいだ後、右肩を少し落としながら左足のアウトサイドを使って緑チームのDFの逆をついた。この時、玉緒は自然とシザースというドリブル技術を誰に教えられているわけでもないが、完璧に成功させていた。


(ま、まじかよ・・・)


そのままDFを抜いた玉緒はそのまま中央へとドリブルを開始した。そして中央に戻っていたMFに玉緒は囲まれたが、MFの股を通すドリブルを行い、またしても3人抜きを達成した。そしてGKの星島と一対一になった。


(まだシュートモーションには入っていない。なら!)


星島は前に出た。シュートモーションに入っていない今ならボールをダッシュできると踏んだ。そしてそのまま星島は横に倒れ込みながらボールをキャッチしようとした。しかし玉緒はそれを見て、ボールの下に足をとっさに入れてボールを浮かせた。


(こいつ・・・マジか)


ドリブルの最中、しかもシュートを打つなら一度はボールを見るはずのため、その隙にボールを奪取しようとした星島だったが、玉緒は一度も足元のボールを見なかった。玉緒は星島の行動を見て普通のモーションでは打てないと判断し、ボールをふわりと浮かせるような行動を取るようにした。それは小さなループシュートだった。そのボールはゴール手前で一度バウンドした後、そのままゴールのネットに吸い込まれた。


(おぉぉぉぉ! 入ったァァァ!)


玉緒はまさか入るとは思わなかった。ドリブルでペナルティエリアに入りすぎたため、シュートモーションをする前に星島が前に出てきてしまった。焦った玉緒はとりあえずボールを浮かせようとボールの真下を蹴るようにしたが、それが見事に星島を越えてゴールに転がっていった。


「修斗! ナイスだ!」


「痛い! 痛い! あんまり強く抱きつくなよ!」


玉緒は自分の蹴ったボールがゴールに入ったことの呆然としていると後ろから思いっきり月岡にヘッドロックをされた。そしてそれを皮切りに次々に白チームのメンバーが玉緒に抱きついてきた。


「まだだ! 急げ!」


玉緒は星島の言葉を聞き、まだ試合は終わっていないことを思い出した。玉緒達はそのまま自陣に戻ったが、その際に月岡から守備に徹するようにと指示があった。玉緒達は残り時間を守備に費やし、とうとう試合終了のホイッスルが鳴り響いた。俺達白チームが2対1で勝利した。


「玉緒、いや修斗。俺の完敗だ。日本に来て俺と同じ年代のやつの動画とか見ていたが、お前のようなFWはいなかった。絶対にサッカーを続けろ。いいな!」


「ありがとう星島君。俺もサッカー楽しかったよ!」


玉緒と星島は互いに握手をした。玉緒は本当にこの時間が楽しかったと感じていた。特に自分の放ったボールがネットに突き刺さる映像はぐっと来た。いわゆる脳汁が出るという感じを体感していた。


(いやーマジで楽しかった。茜姉さんにまたサッカーボール買って貰って今度遊ぶか!)


「修斗! あんたすごいじゃない! あの星島君から2ゴールって、やっぱりあんたはサッカーやりなさい! いいわね!」


玉緒はドリンクをもらいに茜のところに来たとところで、またしても思いっきり背中を叩かれながら褒められた。自分の甥っ子がゴールを決めたことがよっぽど嬉しいようだった。


「まぁ楽しかったからまたやりたいかな?」


「絶対にやりなさい! いいわね!」


玉緒達テスト生は休憩した後、集められた。そして酒井監督から結果は後日郵送で送られるとの説明があり、本日のセレクションは終了した。

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