ラルベニア王国の王都ラダニアンにある喫茶店「雪の庭」。気まぐれな営業時間にもかかわらず、この店は最近ますます評判を呼んでいた。その理由の一つは、新作スイーツ「冷やしプリン」の登場である。
この滑らかでとろけるようなプリンは、訪れる客たちを虜にしていた。しかし、その作り方を見れば、意外な真相が明らかになる。
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プリンの仕込み
「さて、今日もプリンの仕込みを始めましょうか。」
雪乃が厨房に入り、エプロンをつける。その姿は店主というより、のんびりした趣味人のようだ。
「お嬢様、今日も愛情だけで作るおつもりですか?」
忍が冷ややかに尋ねると、雪乃は微笑みながら答える。
「もちろん。愛情を込めるのが一番大事なのよ。ほら、弥生、材料をお願い。」
弥生が冷静に材料を用意する。プリンの基本材料は以下の通りだ。
牛乳 … 500ml
卵 … 3個
砂糖 … 大さじ4
バニラエッセンス … 少々
砂糖(カラメル用)… 大さじ3
水(カラメル用)… 大さじ2
「まずはカラメルソースを作るわよ。」
弥生が鍋を用意し、砂糖と水を慎重に加える。火にかけると、だんだんと色が変わっていく。雪乃はその様子を眺めながら嬉しそうに呟く。
「この色がいいのよね。黄金色からちょっと濃い茶色になった瞬間が一番美しいわ。」
「お嬢様、それを眺めているだけではなく、手伝っていただけますか?」
忍が苦言を呈するが、雪乃は軽く笑って流す。
「弥生が完璧に作ってくれるから問題ないわ。」
出来上がったカラメルを器に流し込み、冷まし始めると、次はプリン液を作る段階に入る。
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プリン液の準備
弥生がボウルに卵を割り入れると、雪乃が混ぜ始める。とはいえ、ゆっくりとかき混ぜるだけで、ほとんど力は入っていない。
「ほら、私が混ぜると特別な味になるのよ。」
「お嬢様、それはただの気分では?」
弥生は苦笑しながら牛乳を鍋で温め、砂糖を溶かす。火加減を調整しながら、牛乳が沸騰しないように注意を払う。
「次に、この温めた牛乳を少しずつ卵に加えるのよね。」
弥生が牛乳を注ぎ始めると、雪乃は混ぜる手を止め、再び傍観者となる。
「このタイミングでバニラエッセンスを入れると、香りが引き立つのよね。」
「お嬢様、それを口で言うだけではなく、手を動かしてください。」
忍の指摘に、雪乃はしぶしぶ再びかき混ぜ始めた。
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魔法の冷蔵ストレージへ
滑らかに混ぜ終えたプリン液を器に注ぎ、準備完了。弥生がそれを慎重に魔法の冷蔵ストレージに運び入れる。
「この冷蔵ストレージ、優秀すぎるわ。ほとんど私が何もしなくても完璧な仕上がりになるもの。」
「お嬢様、それはストレージが優秀だからでは?」
「いいえ、私が愛情を込めて冷やすからなのよ。」
雪乃は堂々と主張するが、実際にはストレージが全自動で冷却と温度管理を行っている。忍と弥生は何も言わずに顔を見合わせた。
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お客様の反応
昼過ぎ、店が開くと最初に入ってきたのは常連候補のレオンだった。
「今日もプリンがあるんだよな?」
「ええ、もちろん。今日はさらに愛情を込めて冷やしたから、特別な仕上がりよ。」
雪乃は胸を張りながら答える。
レオンが一口食べると、目を輝かせた。
「うまい! 本当に店長が作ったのか?」
「ええ、そうよ。この美味しさの秘訣は私が見守ったことにあるの。」
「……それ、冷蔵ストレージが優秀なだけでは?」
雪乃は笑顔を崩さず、さらりと答えた。
「冷蔵ストレージだって私の一部みたいなものよ。」
レオンは苦笑しつつも、プリンを最後まで美味しそうに食べた。
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閉店後のひととき
営業終了後、雪乃はカウンターで紅茶を飲みながら満足そうに呟いた。
「今日もいい仕事をしたわ。」
忍が片付けの手を止めて言った。
「お嬢様、冷蔵ストレージに頼っていただけでは?」
「それが大事なのよ。あのストレージが私の愛情を冷やしてくれるんだから。」
「それ、どういう理屈ですか……?」
弥生は苦笑しつつも、冷蔵ストレージの中を点検しながらこう言った。
「お嬢様、明日もプリンを出すなら、そろそろ新しい材料を手配しましょう。」
「そうね。でも、明日開けるかどうかは私の気分次第よ。」
忍と弥生は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
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こうして、「雪の庭」は店主の気まぐれなスタイルを貫きつつも、冷やしプリンの評判で王都にその名を広めていくのだった――。