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第1話 営業時間3時間の喫茶店3 お客が多すぎる問題





喫茶店「雪の庭」は、王都ラダニアンの中でじわじわと評判を広げていた。営業時間は相変わらず「気が向いたら開店」「疲れたら閉店」と気まぐれだが、それでも訪れる客は増える一方だった。

特に、新作スイーツ「雪の庭特製プリン」が話題になり、常連客だけでなく新しい客も足を運ぶようになっていた。


しかし、それが雪乃には大問題だった。



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雪乃の嘆き


「なんでこんなにお客さんが来るのかしら?」


カウンター奥で紅茶を飲みながら、雪乃はぼんやりと呟いた。

店内は昼過ぎにも関わらず満席で、忍と弥生が忙しく動き回っている。


「お嬢様、それはプリンが美味しいからです。それに、お店の雰囲気も評判なんですよ。」


注文を捌きながら忍がそう答えると、雪乃は不満げに眉をひそめた。


「でも、私の理想は静かな喫茶店なのよ。お客さんが少なくて、私がけだるい午後をのんびり過ごせる場所……。」


「お嬢様、それでは商売になりません。」


厨房から弥生が笑顔で顔を出す。


「それに、お客様が増えるのはいいことじゃありませんか?」


「いいことじゃないわよ! 忙しすぎて全然のんびりできないじゃない。」


「お嬢様、忙しいのは私たちです。」


忍が即座にツッコミを入れると、雪乃はしれっとこう答えた。


「じゃあ、もっとお客さんが来ないように工夫しないといけないわね。」


「……お嬢様、何を考えているんですか?」



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雪乃の「工夫」案


営業が落ち着いた夕方、雪乃はカウンターで紅茶を飲みながら得意げに話し始めた。


「明日から、看板を変えてみようと思うの。」


「看板ですか?」

忍が問い返すと、雪乃は微笑んだ。


「『本日、気分が乗らないので閉店』って書いてみようかしら?」


忍と弥生は一瞬言葉を失い、次の瞬間、同時に声を上げた。


「お嬢様、それでは誰も来ません!」


「そう、それが目的よ。」


「お嬢様、それでは喫茶店ではなくなります!」


「でも、趣味なんだから別に儲けなくてもいいのよ。むしろさびれてるくらいがちょうどいいわ。」


弥生が苦笑いしながら反論する。


「お嬢様、それなら最初からお店を開かないほうが……。」


「なるほど、閉店したままの喫茶店というのもありかもね。」


「お嬢様、それを真剣に検討しないでください!」


忍が額を押さえながら声を上げると、雪乃は肩をすくめた。


「冗談よ。でも、どうしても静かな午後がほしいの。」



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お客様の声


その日の営業終了間際、常連のレオンが再び訪れた。彼はほぼ毎日のようにやって来ては、雪乃に絡むのを楽しみにしている。


「今日もプリン、美味かったよ。」


「それはよかったわ。でも、どうしてそんなに頻繁に来るの?」


「そりゃあ、この店が面白いからさ。」


「面白い……?」


雪乃は首をかしげた。レオンは笑いながら言う。


「営業時間が気まぐれで、店長がこんなに適当な店なんて、他にはないからな。」


「適当って……私はちゃんとやってるわよ!」


「オーブンと冷蔵ストレージを見てるだけで?」


レオンのツッコミに、雪乃はさすがにむっとした表情を見せた。


「それが大事なの。見守りがスイーツの味を左右するんだから。」


「そうかそうか、さすが店長様だな。」


レオンは冗談半分にそう言って席を立った。



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閉店後のひととき


その日の営業が終わり、忍と弥生が片付けをしている中、雪乃はカウンターで紅茶を飲みながら話し始めた。


「今日も疲れたわ。もう本当に静かな午後が恋しい。」


「お嬢様、疲れているのは私たちです。」


忍が淡々と指摘するが、雪乃は気にせず続ける。


「やっぱり明日からもっとお客さんを減らす工夫をしないと。看板に『開店するかもしれません』って書いてみようかしら?」


「それではお客様がさらに混乱します。」


弥生が笑いながらツッコミを入れると、雪乃は真剣な顔で言った。


「じゃあ、『開店予定なし』にする?」


「お嬢様、それでは喫茶店ではなく空き家です。」


忍と弥生のツッコミに、雪乃はようやく肩を落とした。


「仕方ないわね。じゃあ、明日も普通に開けることにするわ。でも、気が向いたらね。」


忍と弥生は顔を見合わせ、同時にため息をついた。



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こうして、気まぐれな店主・雪乃の喫茶店「雪の庭」は、賑やかな日々を続けていく。雪乃の理想とする静かな午後は、果たして訪れるのだろうか――。




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