喫茶店「雪の庭」は、王都ラダニアンでますます評判を集めていた。営業時間が気まぐれなことも話題の一因だが、特に最近は雪乃の手作りプリンが大人気となり、店内は連日満席に近い状態が続いていた。
しかし――。
「本当にもう……こんなにお客さんが来るなんて、私の静かな午後が台無しじゃない!」
カウンター奥で紅茶を片手に、雪乃は不満げに呟いた。
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新作スイーツを考案
「お嬢様、今日もお客様はプリンを楽しんでくださっていますよ。」
厨房で忙しく働く弥生が微笑みながらそう言うと、雪乃は不満げに顔をしかめた。
「それが問題なのよ。プリンばかり注目されるから、さらにお客様が増えてしまうんじゃない。」
「それはいいことなのでは……?」
弥生が控えめに反論すると、雪乃は椅子に深く座り直して溜息をついた。
「でも、こうなったら新しいスイーツを出すしかないわね。もっと静かな午後を楽しむためには、お客様を驚かせる新作を考えなきゃ。」
「……静かな午後を楽しむために新作を出すという理屈が分かりません。」
片付けをしていた忍が冷ややかにツッコミを入れる。
それでも雪乃は全く動じず、さらに話を続けた。
「次は、シュークリームを作ろうと思うの。ほら、シュー生地が膨らむのを見守るのも楽しいでしょ?」
「お嬢様、それではまた見守るだけになるのでは?」
「だって、それが私のやり方だもの。」
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新作「ふんわりシュークリーム」
翌朝、雪乃は早速弥生と一緒に新作スイーツ「ふんわりシュークリーム」の仕込みを始めた。とはいえ、彼女の役割は相変わらず「見守る」だけだった。
まず、弥生が材料を準備する。
薄力粉 … 80g
バター … 50g
水 … 100ml
卵 … 2個
カスタードクリーム用材料(牛乳、砂糖、卵黄、小麦粉など)
「まずはシュー生地を作るわよ。」
弥生がバターと水を鍋に入れ、ゆっくりと火にかけて混ぜ始める。
雪乃は隣でそれを見つめながら、満足げに頷いた。
「ほら、これが愛情を注ぐということよ。」
「お嬢様、それを注いでいるのはバターです。」
忍がぼそりと呟くが、雪乃は気にせず続ける。
弥生が小麦粉を加え、なめらかになるまで混ぜ合わせた後、卵を少しずつ加えてシュー生地を完成させた。
「次は絞り出して焼くのよね。この膨らむ瞬間が一番の楽しみなの。」
雪乃はそう言いながらオーブンの前に座り込む。生地が膨らむ様子をじっと見つめながら、至福の表情を浮かべた。
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店内の混雑
その日の昼、雪乃たちは新作スイーツ「ふんわりシュークリーム」をお客様に提供した。焼きたての生地と濃厚なカスタードクリームの組み合わせが絶妙で、常連客たちは大いに喜んだ。
「これもまた絶品だ!」
「プリンも美味しかったけど、このシュークリームも最高だね!」
客たちの評判は上々だった。しかし、評判が良すぎたせいで、店内の混雑はさらにひどくなってしまった。
雪乃はカウンター奥で紅茶を飲みながら、明らかに不満げな顔をしていた。
「なんでこんなに人が増えるのよ……静かな午後はどこに行ったの?」
「お嬢様、それは新作が美味しかったからです。」
注文を捌きながら忍が答えると、雪乃はうんざりした顔で紅茶を置いた。
「だったらもう新作は作らないわ! これ以上忙しくなったら私が持たないもの。」
「お嬢様、それではお客様に失礼です。」
弥生が控えめに指摘するが、雪乃は耳を貸さなかった。
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閉店後の話し合い
その日の営業終了後、忍と弥生が片付けをしている中、雪乃はカウンターで不機嫌そうに紅茶を飲んでいた。
「もう、どうしたら静かな午後が取り戻せるのかしら……。」
「お嬢様、それなら看板を『本日休業』にしてみてはいかがですか?」
忍が冗談めかして提案すると、雪乃は真剣な顔で答えた。
「それもいいかもしれないわね。」
「お嬢様、それではお客様が混乱します!」
弥生が苦笑しながら言ったが、雪乃は気にせず続ける。
「でも、静かな午後のためには、もう少し大胆な手段が必要よね……。」
「お嬢様、その発想が既に大胆すぎます。」
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次の日への期待
最終的に、雪乃は新作スイーツをもう少し続けることにした。ただし、「忙しくなりすぎないように」という曖昧な条件付きで。
「明日は、気が向いたら開けることにするわ。」
忍と弥生は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
こうして喫茶店「雪の庭」は、気まぐれな店主の理想と現実の狭間で、ますます繁盛していく。雪乃の静かな午後は、果たして訪れるのだろうか――。
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