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第1話 営業時間3時間の喫茶店4 新作スイーツのジレンマ



喫茶店「雪の庭」は、王都ラダニアンでますます評判を集めていた。営業時間が気まぐれなことも話題の一因だが、特に最近は雪乃の手作りプリンが大人気となり、店内は連日満席に近い状態が続いていた。


しかし――。


「本当にもう……こんなにお客さんが来るなんて、私の静かな午後が台無しじゃない!」


カウンター奥で紅茶を片手に、雪乃は不満げに呟いた。



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新作スイーツを考案


「お嬢様、今日もお客様はプリンを楽しんでくださっていますよ。」


厨房で忙しく働く弥生が微笑みながらそう言うと、雪乃は不満げに顔をしかめた。


「それが問題なのよ。プリンばかり注目されるから、さらにお客様が増えてしまうんじゃない。」


「それはいいことなのでは……?」


弥生が控えめに反論すると、雪乃は椅子に深く座り直して溜息をついた。


「でも、こうなったら新しいスイーツを出すしかないわね。もっと静かな午後を楽しむためには、お客様を驚かせる新作を考えなきゃ。」


「……静かな午後を楽しむために新作を出すという理屈が分かりません。」


片付けをしていた忍が冷ややかにツッコミを入れる。

それでも雪乃は全く動じず、さらに話を続けた。


「次は、シュークリームを作ろうと思うの。ほら、シュー生地が膨らむのを見守るのも楽しいでしょ?」


「お嬢様、それではまた見守るだけになるのでは?」


「だって、それが私のやり方だもの。」



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新作「ふんわりシュークリーム」


翌朝、雪乃は早速弥生と一緒に新作スイーツ「ふんわりシュークリーム」の仕込みを始めた。とはいえ、彼女の役割は相変わらず「見守る」だけだった。


まず、弥生が材料を準備する。


薄力粉 … 80g


バター … 50g


水 … 100ml


卵 … 2個


カスタードクリーム用材料(牛乳、砂糖、卵黄、小麦粉など)



「まずはシュー生地を作るわよ。」


弥生がバターと水を鍋に入れ、ゆっくりと火にかけて混ぜ始める。

雪乃は隣でそれを見つめながら、満足げに頷いた。


「ほら、これが愛情を注ぐということよ。」


「お嬢様、それを注いでいるのはバターです。」


忍がぼそりと呟くが、雪乃は気にせず続ける。


弥生が小麦粉を加え、なめらかになるまで混ぜ合わせた後、卵を少しずつ加えてシュー生地を完成させた。


「次は絞り出して焼くのよね。この膨らむ瞬間が一番の楽しみなの。」


雪乃はそう言いながらオーブンの前に座り込む。生地が膨らむ様子をじっと見つめながら、至福の表情を浮かべた。



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店内の混雑


その日の昼、雪乃たちは新作スイーツ「ふんわりシュークリーム」をお客様に提供した。焼きたての生地と濃厚なカスタードクリームの組み合わせが絶妙で、常連客たちは大いに喜んだ。


「これもまた絶品だ!」


「プリンも美味しかったけど、このシュークリームも最高だね!」


客たちの評判は上々だった。しかし、評判が良すぎたせいで、店内の混雑はさらにひどくなってしまった。


雪乃はカウンター奥で紅茶を飲みながら、明らかに不満げな顔をしていた。


「なんでこんなに人が増えるのよ……静かな午後はどこに行ったの?」


「お嬢様、それは新作が美味しかったからです。」


注文を捌きながら忍が答えると、雪乃はうんざりした顔で紅茶を置いた。


「だったらもう新作は作らないわ! これ以上忙しくなったら私が持たないもの。」


「お嬢様、それではお客様に失礼です。」


弥生が控えめに指摘するが、雪乃は耳を貸さなかった。



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閉店後の話し合い


その日の営業終了後、忍と弥生が片付けをしている中、雪乃はカウンターで不機嫌そうに紅茶を飲んでいた。


「もう、どうしたら静かな午後が取り戻せるのかしら……。」


「お嬢様、それなら看板を『本日休業』にしてみてはいかがですか?」


忍が冗談めかして提案すると、雪乃は真剣な顔で答えた。


「それもいいかもしれないわね。」


「お嬢様、それではお客様が混乱します!」


弥生が苦笑しながら言ったが、雪乃は気にせず続ける。


「でも、静かな午後のためには、もう少し大胆な手段が必要よね……。」


「お嬢様、その発想が既に大胆すぎます。」



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次の日への期待


最終的に、雪乃は新作スイーツをもう少し続けることにした。ただし、「忙しくなりすぎないように」という曖昧な条件付きで。


「明日は、気が向いたら開けることにするわ。」


忍と弥生は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


こうして喫茶店「雪の庭」は、気まぐれな店主の理想と現実の狭間で、ますます繁盛していく。雪乃の静かな午後は、果たして訪れるのだろうか――。



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