喧騒の午後が過ぎ、喫茶店「雪の庭」は閉店時間を迎えた。忍と弥生が片付けを進める中、雪乃はカウンターの奥で紅茶を飲みながら、一日の感想を口にした。
「今日もいい仕事をしたわ。ほら、お客様が満足して帰っていったでしょ?」
忍が手を止め、じっと雪乃を見つめた。
「お嬢様、本日はサイフォンを眺めていただけですよね。」
「それが大事なのよ。お店の雰囲気を整えるのは店主の仕事なんだから。」
弥生が苦笑いを浮かべながら、雪乃に声をかける。
「お嬢様、明日も開店される予定ですか?」
雪乃は紅茶を一口飲んでから、軽く首を傾げた。
「それは明日になってからのお楽しみね。気分が乗らなかったら、開けないかもしれないわ。」
「……お嬢様、看板を見たお客様がさらに混乱します。」
忍のため息交じりの言葉に、雪乃はふふっと笑みを浮かべた。
「でも、それがこの店の個性でしょ?お客様だって、そんなところを楽しんでくれているんだから。」
「楽しんでいるというより、呆れているのでは……。」
弥生の小声を耳にしながらも、雪乃は気にする様子もなく紅茶を飲み干した。
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その夜、店内は完全に静けさを取り戻し、薄明かりの中でサイフォンが片付けられていく。
明日もこの喫茶店が開くかどうかは、雪乃の気分次第。王都ラダニアンの住民たちは、それを楽しみながら期待している――はずだ。
こうして「雪の庭」は、店主の気まぐれに振り回されつつも、王都で少しずつその存在感を高めていくのだった。雪乃が理想とする静かな午後は、果たして訪れるのだろうか――。